[社説]うるま市に陸自訓練場 新設は極端な負担増だ

 自衛隊の増強計画が本島・離島を問わず県内各地で、矢のような速さで進んでいる。その手法には、ある傾向が見られる。

 地元の反対が予想される「不都合な事実」はできるだけ伏せて作業を進め、頃合いを見て差し障りがないように公表するというやり方だ。

 うるま市石川のゴルフ場跡地に陸上自衛隊の訓練場を新設する計画が、地元住民への事前説明もなしに進められている。

 防衛省は2024年度予算案に約20ヘクタールの用地取得費を盛り込んだ。25年度に調査・設計、26年度に着工する計画である。

 陸上自衛隊は復帰後、那覇空港に隣接する米軍基地を引き継ぎ陸自那覇駐屯地を開設、那覇訓練場の使用も開始した。

 那覇駐屯地の陸自第15旅団の増強計画に伴い、新たな訓練場が必要になったという。

 ヘリの離着陸、地対艦・地対空ミサイル部隊の発射機展開、空包射撃、夜間戦闘などの訓練が予定されている。

 キャンプ・ハンセンを米軍から引き継ぐのではなく、ハンセンからそう遠くない恩納村寄りの民間地域に新たに本格的な訓練場を確保するという計画なのである。

 地元の旭区自治会は臨時総会を開き、建設計画に反対する決議を全会一致で採択した。

 石川15自治会のうち11自治会が、旭区の反対決議に賛同している。地元が反発し、強い懸念を示すのは当然である。

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 ゴルフ場跡地周辺には住宅地や県立石川青少年の家などが隣接する。訓練場が建設されれば、生活環境が影響を受けるのは確実だ。

 旭区は1959年6月30日、米軍機のジェット戦闘機が墜落した宮森小学校の校区になる。事故当時、同小学校の1年生だった住民は「恐ろしい事故の記憶が脳裏に浮かんだ」という。

 木原稔防衛相は反対決議に対し、現時点で住民説明会の予定はなく「計画を見直す考えはない」と突っぱねた。

 「空白地帯を解消する」との名目で進められている自衛隊の「南西シフト」は、今なお米軍専用施設の約7割が集中する沖縄に、さらなる負担を強いるものだ。

 駐屯地や訓練場の新設、ミサイル部隊の配備だけではない。民間の空港・港湾を有事に備え「特定重要拠点」として整備し、平時から自衛隊が使う構想も進んでいる。

 安全保障の負担が沖縄に集中しているのである。

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 朝鮮半島を巡る北朝鮮と韓国の対立はエスカレートする一方である。北朝鮮はロシアと急接近し、韓国は米日3カ国による合同訓練を繰り返す。

 台湾情勢も改善の気配がない。米・日・台の抑止力強化が中国の対抗策を招き、中国の強行策が台湾海峡の緊張を高めている。

 東アジア全体が安全保障のジレンマに陥っているのである。この流れを止める努力を尽くすことが何より優先されるべきで、沖縄の要塞(ようさい)化は沖縄を再び戦場にしかねない。

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