室蘭信用金庫・山田隆秀理事長インタビュー~未来へ融資と「去華就実」の実践~

デジタル化やキャッシュレス決済への取り組みが進む金融界。少子高齢化に起因する地域経済の衰退など、地域金融機関が直面する課題は少なくない。
東京商工リサーチ(TSR)は、室蘭信用金庫の山田隆秀理事長に地域経済の現状や企業との向き合い方などを聞いた。


―室蘭エリア、室蘭信金の特色は

「鉄のマチ」である室蘭に本店を置く当金庫は、1917年に地元商工業者などの資金需要に応える目的で「室蘭信用組合」として設立された。預金量は3,593億円、貸出金量は1,290億円、役職員数は142名(2023年3月末時点)だ。営業エリアは人口13万人のドメイン地区(室蘭市・登別市・白老町)を中心に札幌市・苫小牧市・伊達市に及ぶ。店舗網は室蘭市内 5 店舗、登別市内 4 店舗、札幌市内 2 店舗、白老町・苫小牧市・伊達市に各 1 店舗の合計14店舗体制だ。
室蘭市は北海道内でも人口密度の高い地域で、 かつては狭域高密度の店舗展開し、ピーク時には27店舗を構えていた。近年は人口減少やデジタル化の進展に伴う来店客数の減少もあって店舗集約を進めているが、これを可能としたのは室蘭地区の人口密度の高さだろう。
室蘭市は、日本製鋼所M&Eや日本製鉄・北日本製鉄所など、重工業中心の企業城下町として発展し、現在も地域にものづくり企業が根付いている。また、室蘭工業大学があり、産学官連携なども積極的で、ものづくり技術の集積した都市としての特色もある。当金庫は、そうしたものづくり企業などへの補助金申請支援など、本業支援活動に力を入れて活動している。
当金庫は経営方針として「去華就実」を掲げ、お客様への支援において具体的にお役に立てるよう、日々取り組んでいる。地域の中小企業様から膝を詰めてお話を聞き、経営課題の解決に寄り添っている。
当金庫の創立70周年の際に設立した「一般財団法人むろしん緑の基金」があるが、 2023年 3 月に「一般財団法人ものづくり基金」を吸収合併した。これまで「緑の基金」が取り組んできた地域の緑化事業に加え、「ものづくり基金」が手掛けてきた地域の産業振興支援や教育・健康増進事業を、今まで以上に積極的に進めている。

―ドメイン地区が含まれる西胆振(にしいぶり)の経済動向について

室蘭は過去には鉄冷えといわれる鉄鋼不況で地域経済の根幹を揺るがしかねない厳しい時代もあった。これを乗り越えてきた地場企業は業歴が長く、着実に内部留保を進め、力を蓄えてきた先が多い。また、国内有数の温泉地である登別温泉や洞爺湖温泉、国立アイヌ民族館「ウポポイ」などの観光施設もあり、観光業も重要な産業の1つだ。
コロナ禍では宿泊業や飲食業は大きなダメージを受けたが、事業者の資金繰りを落ち着かせ、安定させることを最優先とし、いわゆる「ゼロゼロ融資」による資金供給を積極的に取り組んだ。アフターコロナへ移行し、国内のみならず海外からの客足も戻ったことで観光業は最悪期を脱したと見ている。また、コロナ禍を機にアドベンチャーツーリズムなど、新たに集客に向けた取り組みが聞かれるほか、今後はアジア方面のインバウンドの回復が進めば一層の持ち直しが期待できる。
一方、資源価格の高騰をはじめとする物価上昇が業種を問わず企業経営を圧迫している。加えて、人手不足も深刻な問題だ。個別の取組みは時々の経済情勢で変わるが、当金庫ではお客様としっかり向き合い、「お客様のためになること、メリットがあること」を基軸に考え、お客様に寄り添うスタンスを変えることなく継続したい。

インタビューに応じる室蘭信金・山田理事長

―企業経営を巡っては、人手不足、後継者難が深刻だ

室蘭地区も少子高齢化の進行は著しい。働き手の確保に苦戦する企業は多く、高齢となった経営者に後継ぎがいない問題も顕在化している。
事業承継やM&Aの活性化は重要だが、当金庫では事業承継について早い段階から準備をするよう経営者へ伝え、必要に応じて専門家を派遣している。特に事業承継は経営理念や経営ノウハウなど、ソフト面の承継が重要であり、派手さはないが、売り手と買い手の双方が納得のいく形で承継できるよう、地道なお手伝いをしている。

―ラピダス進出や札幌都心部再開発など、道内では明るい話題も多い

当金庫のお客様でこれら大型プロジェクトに直接参画する企業はそれほど多くないだろう。ただ、規模が大きく、長期間にわたる事業であることから、資金需要があれば積極的に支援をしていきたい。ラピダス進出の影響は間接的に西胆振地区へ波及すると思われ、販路拡大が期待できるお客様にはしっかりと支援をしていきたい。一方、ラピダス進出で人材流出が一層進むと懸念される事業者もいる。多くのお客様にとって人材不足は重大な経営課題で、生産性向上の面で支援を進めたい。

―西胆振の経済トピックについて

一昨年より大手商業施設の移転新築が継続しており、札幌や苫小牧に流れていた消費者が室蘭に還流することが期待される。地元小売業者にも影響が波及することもあるだろう。このほか、室蘭地区では洋上風力発電の拠点となるべく、地元企業が中心となり大手企業とともに室蘭洋上風力関連事業推進協議会(通称:MOPA)を設立し、誘致活動を進めている。すでに大手ゼネコンが既存工場の新設増床し、浮体式洋上風力発電開発拠点の設置、洋上風力発電建設作業船の室蘭港母港化などの動きがある。さらに、ENEOSは室蘭事業所に産業用大型蓄電池を設置する意向があり、電力運搬船や大型電池の開発を手掛けるベンチャー企業が室蘭市と包括提携を結ぶなど、動きは活発だ。
地場企業の中には、これまで培ってきた技術を活かし、力-ボンニュートラルへ積極的に取り組む先もあり、設備導入のための資金が必要となった場合は地域金融機関として関わっていきたい。

―室蘭信金が目指す姿は

信用金庫の原点は中小企業金融であり、これを果たしながら、安定した収益を確保していくことが求められる。一方、地元経済圏は人口減少に加え、デジタル化が一層進展するなど、社会構造は大きく変化しつつある。
お客様も新たな経営課題の発生や、事業継続への取り組みが求められるだろう。売上低迷から業態転換を迫られるケースや、事業の存続に直結する簡単に解決できない課題もたくさんある。そんな時だからこそ、しっかりとお客さまに寄り添い、課題に真摯に向き合いたい。
デジタル技術の進歩でキャッシュレス化が進んでおり、金融機関のあり方が大きく変わる時期だ。先にお話しした店舗統合もキャッシュレス化がより進展すると判断したからだ。当金庫では2018~22年にかけての短期間に13の店舗を店舗内店舗として統合した。店舗体制としては現在の形を当面の最終形と考えている。経営資源を集中できる体制が整ったので、これからは、今まで以上にお客様としっかり向き合いたい。
信用金庫の使命は、時代の変化に対応した上でお客様からお話しを伺い、過去を分析し、未来へ融資することだ。今後も信用金庫らしさを発揮すべく、お客様と近い距離間でお役に立てるよう尽力する。

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