惨敗のイラク戦を真の“強者”になるための糧にできるか、“ドーハの悲劇”は成長のカギに【日本代表コラム】

[写真:Getty Images]

「入りから選手もチームもよりアグレッシブにプレーできるように環境づくりをしっかりしなければいけないという反省ばかりが出た試合でした」

こう語ったのは森保一監督。イラク代表戦に敗れた後のメディア対応で口にした言葉だ。アジアカップ2023の2戦目で勝てばラウンド16進出が決まる日本だったが、イラクを相手に2-1で敗戦。イラクにラウンド16行きを許すこととなった。

初戦のベトナム代表戦で苦戦した日本。前半のうちに逆転されるという展開となったが、なんとか逆転して試合を折り返すと、後半にダメ押しゴールを決めて4-2で勝利した。

そのベトナム戦から9名を継続して起用したものの、ベトナム戦以上にイラク戦は苦しむこととなった。監督の言葉通り、アグレッシブさではイラクに圧倒され、異様なまでの圧力をかけてきたイランサポーターが集まるスタンドのボルテージも上げてしまう結果となった。

本来であればここで勝利し、グループステージ突破を決めた上で3戦目に臨みたかったはず。そこでターンオーバーもしっかり行う目論みは少なからずあっただろう。そのためにも、初戦の反省を生かすという意味で9名をそのまま起用したと考えられる。

ベトナム戦は立ち上がりに先制はしたが、その後にセットプレー2発で逆転を許すことに。ただ、ベトナムを力で押し切り、逆転して前半を終えた。後半改善されたのは、システムを変えてやり方を変更したから。相手のパフォーマンスが落ちたことも影響していたはずだ。

ただ、デュエルの部分では負けることが多く、セカンドボールも奪われるシーンが前半は特に多かった。その反省をしていたにも関わらず、イラク相手にはさらに厳しさが増し、苦しむ展開となった。

もちろんベトナムとイラクの実力差はある。ただ、日本の方が実力という点では上と言って良いだろう。しかし、実力が上だから勝てるという保証はどこにもないということだ。それは日本がよく知っている形だ。

課題は多くあり、プレー選択の判断やピッチ上での修正力というのはもちろん必要だ。ベストメンバーじゃないことは理由にはできないし、采配に疑問もあるが、それ以上にパフォーマンスが良くなかったことが要因だろう。前半のアディショナルタイムに2点を奪われてしまったことが、大きな敗因の1つとも言える。

もちろんプラスの要素がゼロだった訳ではない。ただ、この試合で最も日本が得たことは、本当の“強者”になるための戦い方を学ばなければいけないということだ。

「日本がよく知っている」と書いたが、ワールドカップ(W杯)では、日本は今回のイラクの立場。いわゆる格下と呼ばれる立ち位置だったが、カタールの地ではドイツ代表、スペイン代表に勝利した。世界中の大半は日本が勝つなど予想はしていなかったし、日本人ですらそう信じられていた人は多くはないはず。勝てたら良いなという程度だったはずだが、しっかりと勝利した。

まぐれでもラッキーでもない勝利。それが世界を驚かせることに繋がったが、これまでの実績や個々の実力を見れば、当然相手の方が上と言わざるを得ない状況だ。それでも日本は勝てた。

“強者”になるということは、それだけ相手に警戒され、研究しつくされ、対策を練られてしまうということ。今の日本は、アジアにおいては間違いなくその立ち位置に置かれ、全ての国が日本を対策して戦ってくることになると言っても良い。ストロングは消され、ウィークポイントを突かれる戦いばかりになるはずだ。

ただ、真の“強者”は、その壁を乗り越えることから始まる。イラクの戦い方、スタジアムの雰囲気作りは日本を打ち負かすためのものであり、早々の失点で加速させてしまった。その雰囲気に後押しされたイラクの選手たちは、後半もパフォーマンスが落ちながらも耐え抜いた。そこを突き切れなかったのは力不足と言って良いだろう。森保監督も「相手が100%、120%、150%ぐらいでくる中で、そこで勝っていく、局面での力をつけなければいけない」と語っている通り、その力はまだ日本には備わっていないということが露呈したに過ぎない。

堂安律(フライブルク)は「上手いチームから強いチームに変わるために良い流れが来ている」と語った。良い流れにできるかどうかは、この先の戦い方で見せるしかないが、まだまだ足りないという事実が突きつけられている。FW浅野拓磨(ボーフム)も「自分たちがまだまだ足りないということを再確認できたので、イラク戦というのは凄く大きかった」と語った。

思い起こせば、2022年のカタールW杯アジア最終予選も苦しいスタートとなった。W杯に出れない可能性もよぎったはずだが、システムと人を変えて流れを変えたチームだ。そしてW杯では世界を驚かせた。

そもそもは、1993年10月、“ドーハの悲劇”によりW杯初出場を逃したところから始まった日本サッカーの加速。逆境に立たされることで、チームはもう1度ひと回り大きくなれる可能性がある。

繰り返されてしまったドーハでのイラク相手の敗戦。次のインドネシア代表戦では、掌を再び返させる戦いを見せつけられるか。短い調整期間だが、真価が問われる一戦となるだろう。
《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》

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