「まさか4人も」2カ月間眠り続けた男性、絶句 惨状物語る傷跡…たとえ外見変わっても 神戸8人死傷火災1年

歩行器を使って歩く男性。火災後、歩けるようになるまで5カ月かかった=神戸市長田区

 目が覚めたら、季節は冬から春に変わっていた-。未明の火災で意識不明の重体となり、約2カ月間生死の境をさまよった男性(66)はそう振り返る。神戸市兵庫区湊町1の集合住宅「第2ひろみ荘」で住人8人が死傷した火災は22日、発生から1年となった。日常を取り戻しつつある男性は「支えてくれた人に元気な姿を見せたい」と話している。(小野坂海斗)

「冬だったはずなのに桜が」

 第2ひろみ荘は1963年に建てられ、出火当時は単身者30人が住んでいた。当初の警察発表では、火元となった1階で4人が亡くなり、3人が意識不明、1人が重傷を負った。

 意識不明者の1人が、取材に応じた男性だった。「冬だったはずなのに桜が咲いていて。ここどこやねん、と驚いた」

 大分県出身で若い頃は自衛官だったという。仕事を求めて神戸に来たのは2006年。派遣社員として、各地の造船所を転々としながら収入を得た。

 だが2年後、和歌山県で労災事故に遭う。船を港に留めるためのワイヤに引っかかり、右足首を骨折。仕事を失った末、神戸に戻って路上生活を始めた。

 その年の暮れ、神戸・三宮の炊き出しで支援団体に紹介されたのが、第2ひろみ荘だった。約15年にわたって住んだが、火災で多くが燃えてしまった。

 搬送先の医師は男性に告げた。「あなたは急性一酸化炭素中毒でした」。亡くなった4人の死因も同じ。そのうち2人は男性の両隣で暮らす住人だった。

 奇跡的に一命を取り留めたが、全身にやけどを負った。意識が戻った直後は自力で体を動かせず、声も出なかった。体が動くようになっても、ベッドから起き上がるだけで十数秒。入院は半年間に及んだ。

 リハビリを経て退院し、現在は長田区の高齢者向け住宅で生活する。昨年末には医師の許可を取り、火災後初めて外出した。目的は三宮の東遊園地で行われる炊き出しだった。

「助かった命を大切にしたい」

 「ここには必ず知り合いがいる。生きるためには、つながりが大切なんや」

 火災で外見が変わった男性。思い切って顔見知りに声をかけた。

 「生きてたんか!」「よう元気になったなあ」

 温かいマーボー丼を食べながら、集まった仲間と再会を喜んだ。

 同時に、被害の大きさも目の当たりにした。「まさか4人も亡くなっていたなんて」。2カ月間眠っていた男性は知らなかった。

 「何もかも焼けて、全部一からやり直し。でも助かった命を大切にしたい。早く治して、自由に外出できるよう頑張るわ」

【神戸市兵庫区の集合住宅火災】2023年1月22日未明、神戸市兵庫区湊町1の集合住宅から出火。3階建て延べ約290平方メートルのうち1、2階の一部を焼き、1階に住む77~86歳の男性4人が亡くなった。1階の一室にあった延長コードの劣化が出火原因とみられる。神戸市が同様の構造を持つ建物に行った緊急調査では、市内計82棟のうち19棟で建築基準法違反が確認された。第2ひろみ荘は解体されて更地となっている。

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