橋の上でしゃがみすすり泣き、手元にはロープ…「自殺だ」 母の介護に悩む40代女性、尼崎の夫婦が救う

のじぎく賞を伝達される松永省三さん(中央)と妻の祐子さん(右)=尼崎市昭和通2

 橋の上でロープを抱え込み思い詰めていた40代の女性を助けたとして、兵庫県警尼崎南署は尼崎市の会社員の松永省三さん(54)と妻で介護福祉士の祐子さん(46)に県の善行賞「のじぎく賞」を伝達した。(池田大介)

 昨年12月初旬の午後7時過ぎ、自転車で帰宅中の省三さんが尼崎市北城内の開明橋に差しかかった時、しゃがみ込んでうつむいている女性が見えた。徐々に近づくと手元にはロープがある。「自殺だ」。省三さんは自転車を止め、「どうしたの」と声をかけた。反応はなかったが耳を澄ますと、すすり泣きが聞こえてきた。女性は薄手のジャケットしか羽織っていなかったため、省三さんは自分の着ていたダウンジャケットを背中にかけた。落ち着くまで一緒にいようと背中をさすりながらなだめていたが、状況は変わらない。110番したら取り乱してしまうかもしれない。どうすれば…。妻の顔が浮かんだ。

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 夕飯の支度中、祐子さんの携帯電話が鳴った。「困っている人がいるので来てほしい」。夫からに理由を尋ねるもはっきり答えない。何かあったのだと確信し、厚手のジャケットや手袋、カイロ、チョコを紙袋に詰め込み車で向かった。数分で橋に着くと肩を揺らしながらむせび泣く女性がいる。冷え切った両手に手袋を着け、厚手のパーカも着せてあげた。最初は泣いているだけだったが、独り言のように語り始めた。「介護のしんどさをわかってもらえない」「大好きなお母さんを傷つけてしまう」「『死ぬ』って言って家を出て来た」。職業柄、その大変さを間近で見てきた祐子さんは、相づちを打ちながら耳を傾けた。過呼吸気味だった女性は次第に落ち着きを取り戻した。

 「家まで送ってあげるよ」。女性を車に乗せた。自宅にはベッドで寝たきりの母親がおり、駆け付けた警察官に事情を説明した。

 帰り際、女性がパーカを返そうとしてきた。「また来るからその時に」。祐子さんは女性と強く手を握り合った。

 夫妻は「つらくてもきっと誰かが声をかけてくれる。みんな1人じゃない。女性が少しでも前向きになるきっかけになれば」と語った。

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