相次ぐ未成年者の性被害 SNSが発端…摘発は「氷山の一角」 被害を防ぐ近道とは? 長崎

SNSに起因する未成年者の性被害が長崎県でも相次いでいる(写真はイメージ)

 全国で相次ぐ交流サイト(SNS)を端緒にした未成年者の性被害。長崎県警でも被害を未然に防ぐため、SNS上の不適切な書き込みへの注意喚起に力を入れる。「摘発数は氷山の一角でしかない」「明確な未然防止策は見当たらない」。現状に頭を抱えながらも、捜査や被害者支援に当たる警察官たちが気づき始めているのは、今の子どもたち特有の交友関係と被害を食い止める「最後の砦」の存在だ。

■ネ友募集中
 昨年10月中旬、長崎地裁で開かれた、わいせつ誘拐と不同意性交等事件の裁判。事件の発端は、県内に住む中学生の少女=当時(13)=が動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」に載せた動画。「ネ友募集中」-。ネット上で友だちを募る言葉を添えていた。
 被告は、動画を見た愛知県の男(20)。同4月、少女にDM(ダイレクトメッセージ)を送り、やりとりを始めた。約4カ月後、男は少女の年齢が分かった上で交際を申し込み、一度も対面することなく交際を開始。男は少女が住む県内の町に車で来た。2人で車内にいたところ、警察官から職務質問され、男は逮捕された。同地裁は同11月、懲役3年、保護観察付き執行猶予5年(求刑懲役4年)の判決を言い渡し、刑は確定した。
 近年、交流サイト(SNS)を通じて面識のない人と知り合い、犯罪被害に遭う子どもたちが全国で増加している。県警によると、2022年、SNSに起因する犯罪被害に遭った未成年者(18歳未満の男女)は全国で1732人。19年には2082人に上り、ここ数年の被害者数は2千人前後の高水準で推移している。
 本県も例外なく被害が相次いでおり、22年に県内で性被害に遭った未成年者は20人。このうち17人が性的な写真を送信させられるなどの児童ポルノ被害だった。

■パトロールに注力
 先月15日、長崎大であったサイバーパトロール。「SNSをきっかけに、多くの子どもが性被害に遭っている。危機的な状況」。同室の佐藤仁美警部補が、パトロールを委嘱する大学生らに協力を呼びかけた。
 情報技術を学ぶ大学生らの知識を生かしてもらう形で、未成年者の性被害につながる恐れがある不審な書き込みを探す。見つけたら同室へ報告し、県警のアカウントから投稿者に警告文を送信したり、児童に相談窓口を提示したりする。
 県警によるパトロールは2020年2月から始まり、22年12月までに警告文など416件を送信。このうち22年は40件。23年分は集計中だが、警告文などの送信は増加傾向という。

SNS上の不適切な書き込みのパトロールについて、学生にアドバイスをする佐藤警部補(右)=長崎大

■身近にある
 未成年者とネット空間との接点の始まりは、携帯電話が多い。県教委の本年度調査によると、公立校に通う児童生徒の携帯電話の所持率は小学生40.1%、中学生76.5%、高校生97.7%。中高生の大半が携帯電話を持ち、物心がついたころからSNSが身近にある。
 「素性を知らない人と知り合うことに抵抗がないように感じる。そもそも危機感が乏しい」。広報相談課犯罪被害者支援室の大渡優子警部補はこう分析。今の若い世代にとって出会った場所や居住地、年齢は関係なく、学友も「ネ友(ネット上で知り合った友だち)」も同じ友だち。面識がなくても、ためらいなく信頼してしまうのが特徴といえる。
 そんな感覚に乗じて、被害者と年齢が近い架空の人物になりすました加害者が、裸や下着の画像の「交換」を迫るケースも後を絶たない。佐藤警部補はこのような画像を「究極の個人情報」とし「知り合いでも交際相手でも送ってはいけない」と強調する。たった1枚でも相手の元に画像が届けば弱みを握られ、面会を要求されたり、さらなる性被害に発展したりする恐れがあるからだ。

■「原因は自分」と負い目
 被害者が性的な画像を送った事案の場合、「原因は自分にある」という負い目から「親に知られたくない」「自分さえ我慢すれば」と思い込み、被害が発覚しにくい。捜査1課性犯罪捜査指導係の柴原明日香警部補は「(性被害は)大人でも声を上げることが難しく、子どもはなおさらハードルが高い。一人で抱え込まず、勇気を出して相談して」と力を込める。
 未成年者がメッセージや動画などを投稿、送信するのは家族がそばにいる場所が多いという。一方で、SNSにうとく「自身の子どもだけは大丈夫」と信じ込んでいる親世代がいるのも対策を難しくしている。「よい親子関係を築くのが犯罪被害を生まないための近道。子どもとよく話し、何をしているか関心を持って」。少年対策室の相川友理子室長はこう訴える。「最後の砦(とりで)は家族」-。
 
 性犯罪の被害相談(電話)は「♯8103(ハートさん、全国統一ダイヤル)」へ。

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