【今週のサンモニ】関口宏が「物足りなさ」を感じちゃった理由|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。自民党の三派閥があっさり解散してしまい、「物足りなく」なってしまった面々でした。

関口宏氏も虚を突かれ

2024年1月21日の『サンデーモーニング』のトップニュースは、自民党派閥の裏金問題でした。

この問題は『サンデーモーニング』にとって、最大のスケープゴートである政府自民党を非難するには最高のネタでしたが、検察の捜査が事実上終了してしまったと同時に、自民党3派閥があっさりと解散宣言してしまったために、ツッコミどころが大幅に少なくなり、関口宏氏は虚を突かれたような反応を示していました。

関口宏氏:まず最初の話題なのですが、こんなものなのかなぁという気がします。

アナウンサー:自民党の裏金事件に動きがありました。金曜日、安倍派・二階派・岸田派の会計責任者らが立件され、3つの派閥は解散に追い込まれたのです。

関口宏氏:あんな大騒ぎしてこういう幕の閉め方なのか、みたいな、何か物足りなさを感じちゃうのは何なんでしょうか。

自民党の最大派閥・安倍派が解散を決定 裏金事件で3議員の立件など受け | TBS NEWS DIG

関口氏は「物足りなさ」を感じた理由を述べていませんが、素直に考えれば二つの理由が推察されます。

一つは、自民党の大物政治家がもっと多くもっと重い罪で逮捕されるという期待が叶わなかったこと、もう一つは、自民党が権力を使って検察の捜査を妨害するどころか、逆にあっさりと過失を認めて、派閥を勝手に解散してしまったことです。

『サンデーモーニング』にして見れば、番組の熱狂的な信者が期待している陰謀論や人格攻撃を何週にもわたって展開する余地がキレイさっぱりなくなってしまったのです。まさに『サンデーモーニング』にとって、今回の結末は最悪のシナリオであったものと邪推します(笑)。

自民党の3派閥が行ったことは明確な違法行為です。ただし、有力な政治家側からの働きかけがあったことは挙証されませんでした。刑事事件は100%挙証しない限り、立件できません。この状況下において、政治家は「働きかけがなかったこと」の挙証責任を免れることができます。悪魔の証明になるからです。

しかしながら、国民の代表である以上、国民に対して「不正に気が付かなかったこと」の説明責任が求められます。ここで説明責任とは、国民が納得できる傍証を呈示することです。『サンデーモーニング』もそのくらい追求しなくちゃダメです(笑)。

問題解決には程遠い残念なコメント

さて、スタジオトークにおける番組コメンテーターのコメントについては概して妥当であったと考えられます。いつものように事実を捻じ曲げて批判しなくても、事実をそのまま批判できるからです(笑)。

ただし、中には不適正と思われるコメントも含まれていました。

田中優子氏:結局お金を集めて権力を握ることが目的化しているということが非常にハッキリとした。

自民党議員の事務所がお金を集めたことは事実ですが、「お金を集めて権力を握ることが目的化している」という結論を導くのは軽率な一般化であり、論理の飛躍があります。報告書不記載の金額(2億円弱/年)が政治資金全体(1067億円:2023年)に占める割合は必ずしも大きくありません。

1からわかる政治資金問題 自民党派閥 安倍派・二階派の会計責任者を虚偽記載罪で在宅起訴 東京地検特捜部 岸田首相は宏池会も不記載で岸田派の解散検討 いったい何が? | NHK政治マガジン

田中秀征氏:高額な飲食を含む会合が必要なのか。池田隼人総理は「政治家の会合でカレーライスを食べよう」という運動をした。それをやってもらいたい。

久しぶりの番組出演でした。お元気そうで何よりです。田中氏の隠れファンの私は、どんな楽しいボケを供給していただけるのか興味深く拝聴しましたが、期待通り、問題解決には程遠い残念なコメントでした(笑)。

ちなみに、テレビのワイドショーはカレーライスにすらイチャモンを付けるのでその運動は成功しないと推測する次第です。

『今日の夕食はカツカレーです』

サヘル・ローズ氏:日本では団結力をもって国民が持っている社会的制裁を与える意識をもってちゃんと関わっていくことが重要だ。

日本は法治国家なので、人を裁くのは現行法であり、人ではありません。テレビ番組が社会的制裁を呼び掛けるのは暴力的です。公共の電波を使って魔女裁判をアジテートすることは、厳に慎む必要があります。

もちろん、今後の政治資金規正法の改正の可否を投票行動の参考にするよう呼びかけることは言論の自由です。

社会的制裁や投票行動の呼び掛けは放送法の逸脱

青木理氏:悪質性は戦後の数々の疑獄事件の中でも極まっている。有権者が徹底的に掣肘を加えるしかない。民主主義の形の中で今の与党にキツイお仕置きを与えないとこの問題は解決していかない。

今回の東京地検がそうであったように、法の支配が機能している日本では、投票は個々の有権者が判断することです。青木氏がテレビで特定の投票行動を呼びかける行為は、日本を戦争に導いた戦前のメディアとシンクロします。

事実、青木氏が信奉する半藤一利と保阪正康氏も「ファシズムは考えることの放棄からつながっていく」と警鐘を鳴らしています。自民党の不法行為に怒る気持ちは理解できますが、投票行動の呼びかけは厳禁です。

以上、政治資金規正法違反を根拠に自民党を批判することはメディアの使命です。

しかしながら、社会的制裁や投票行動を呼び掛けるのは、放送法を逸脱するものです。『サンデーモーニング』もいい加減、公私の区別をつける必要があります。

ちゃんとした知識で、正しく報道しましょう

さて、この日にもう一つ大きくピックアップされた話題が能登半島地震です。視聴者に誤解を生じさせるコメントがいくつかありましたので指摘したいと思います。

青木理氏:能登に先週行ってきた。直下型の凄まじさを本当に感じて、マンホールなんかが1m以上飛び出している状況だ。

青木氏がわざわざ被災地に行って見てきたのは、典型的な液状化現象による被害であると推察されます。

「想定外の液状化」1m飛び出たマンホール 新耐震基準を満たしていたのに被害受けた建物も 能登半島地震を専門家が分析 | TBS NEWS DIG

青木氏はこれを「直下型の凄まじさ」と表現しましたが、これは必ずしも正しくありません。

液状化現象は、震源の直上だけではなく、水理地質条件が合致すればかなり遠方まで大きな被害が発生します。実際、長継続時間地震動が観測された今回の能登半島地震では新潟県から福井県にわたり破壊的な被害が発生しています。

“液状化被害”多発の新潟市西区 被害拡大の背景に液状化とは別の要因か「地盤が動いて圧縮された」 能登半島地震 | TBS NEWS DIGこんな状態では住めない 液状化の怖さ あわら市高橋さんのケース【福井】|FNNプライムオンライン

液状化は、直下型地震・海溝型地震といった地震のメカニズムや震央からの距離にかかわらず警戒が必要な地震災害なのです。

あえて言えば、この程度の基礎的知識もなく現地を訪れるのは社会見学と大差ありませんし、誤った知識を視聴者に植え付けかねません。

サヘル・ローズ氏:災害関連死が多かった。生活の基盤が整わない。だけど地元を離れたくないという意思が凄く強い。だからこそ二次避難所への誘導がうまく行っていない。そのためには政府も県も希望がある情報、避難先に何があって何が整っているかという情報をちゃんと提供していかないと、そこに住んでいる方々は不安をたくさん抱えている。

政府も県も迅速に二次避難所を確保し、首相も県知事も被災者に非難を呼びかけ、さらにはデマ情報を信じないよう再度呼びかけを行っています。事実関係を完全に無視して、行政を軽率に悪魔化するのは厳に慎む必要があると考えます。

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「青木氏らしい」ですね!

青木理氏:トイレトレーラーは高いが、ざっと計算してみるとオスプレイ1個で何百台も買える。防衛力よりもいつ起きるかもわからない地震対策に金を使うべきだ。

関口宏氏:なんか青木さんらしいね(笑)。

オスプレイはいつ起きるかもしれない有事対策に必要であり、地震対策と軽率に効果を比較するのは妥当ではありません。このように自分が攻撃したい予算を引き合いに出し、視聴者の感情に訴えるのは青木氏らしさに溢れています。

そもそも『サンデーモーニング』をはじめとするテレビのワイドショーがコロナの恐怖を煽ったことで100兆円を超えるような天文学的な支出をしなければ、トイレトレーラーなど問題なく購入できたはずです。なにしろ100億円のオスプレイを1万個買える金額ですからね。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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