[社説]技能実習生の妊娠制限 産み育てる権利の侵害

 子を産み育てるかどうかを自分で決める「リプロダクティブ権」の軽視だ。外国人労働者の人権を守る具体的な取り組みが求められる。

 ベトナム人の技能実習生が、採用などを仲介する母国の「送り出し機関」から避妊処置を勧められていることが明らかになった。

 共同通信が支援団体を通じて現役実習生や元実習生の女性に実施したアンケートで、回答した59人のうち9人が避妊処置を勧められ、5人は実際に避妊リングを装着するなどの処置をしていた。

 約6割に当たる36人が、「妊娠したら帰国しなければいけない」などの指導を受けたとも回答した。

 機関側は「処置するかどうかは本人の意思」とするが、「勧められた通りにしなければ日本に行けないと思った」と処置に応じた人もいる。日本での就労を希望する人々の足元を見る対応で、意に反した処置だったとすれば重大な人権侵害だ。

 外国人が働きながら技術を学ぶ「技能実習制度」では、妊娠や出産した場合も一時中断し、実習を再開できる。日本側の受け入れ企業や、あっせんする監理団体が実習を打ち切るようなことがあれば行政処分の対象となる。

 だがアンケートでは、政府が「即戦力の外国人材」として受け入れる特定技能の在留資格で働くベトナム人女性8人も、日本側の「登録支援機関」から妊娠しないよう指導されていたことが判明した。

 「本人の意思」や「指導」と言いながら妊娠制限の強制性が疑われる。

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 実習制度を巡っては「マタハラ」相談が相次いでいる。

 出入国在留管理庁が2022年、実習生の女性650人を対象に実施した聞き取り調査では、4人に1人が送り出し機関や監理団体などから「妊娠したら仕事を辞めてもらう」と言われたことがあると回答した。

 17年11月から20年12月の約3年間に妊娠・出産を理由に技能実習を中断した637人のうち、実習を再開できたのは2%にも満たないというデータもある。

 20年には熊本県で、死産した双子の遺体を段ボール箱に入れて自室に放置したとしてベトナム人元技能実習生の女性が死体遺棄罪に問われた。最高裁で無罪が確定したものの、女性は「妊娠が分かれば帰国させられる」と考え会社や監理団体に相談できなかったという。

 制度の下で人権がないがしろにされている。

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 政府の有識者会議は昨年、実習制度に代わる新たな外国人労働者の育成制度創設を提言した。関連法改正案を通常国会に提出する見通しだ。

 母国からの家族と共に定住できる職種を広げたり、転職条件を緩和したりするなど外国人材の中長期的な就労を促す方針だが、妊娠・出産に関する対応など課題も残る。

 実習生や特定技能の資格を持つ人々の国籍はさまざまだ。政府は外国人労働者の不適切な取り扱いについての実態把握を進め、妊娠・出産を想定した体制づくりを急ぐべきだ。     

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