高校野球の名将が急逝。寒い季節は要注意!突然、命が奪われる大動脈瘤破裂はこんなに怖い

2007年春のセンバツ高校野球で常葉菊川高校(現常葉大菊川)を日本一に導いた御殿場西高野球部の監督、森下知幸さん(62)が1月16日、急逝しました。バントをしない「フルスイング打線」で春の甲子園の頂点に、同年夏の選手権でもベスト4進出を果たすなどの名将ぶりは全国でも有名で、16年からは御殿場西高の監督を務めていました。DeNAでセットアッパーとして活躍し、今季から「くふうハヤテベンチャーズ静岡」に加入した田中健二朗投手や、ヤクルトの木須デソウザフェリペ捕手などを育てた手腕は高く評価されています。

【写真を見る】高校野球の名将が急逝。寒い季節は要注意!突然、命が奪われる大動脈瘤破裂はこんなに怖い

腰と腹の激痛で、早退の途中に…

学校などによると、森下さんの死因は「大動脈瘤(りゅう)破裂」。森下さんは登校したものの、腰と腹部に激しい痛みを覚え、早退すると周囲に伝えます。しかし、森下さんは自動車で学校を出てすぐに、グラウンド近くの空き地に突っ込んでしまいます。事故を目撃した人たちによって森下さんは助け出され、伊豆の国市内の病院に運ばれました。

医師により「大動脈瘤破裂」と診断され、緊急手術を受けますが、同じ日の午後11時半すぎに容体が急変、帰らぬ人となりました。前日は、選手を相手にノックをするなどいつもと変わらない様子だったということで、短時間で症状が変わっていったことが分かります。

破裂するまで自覚症状は“ほぼなし”

「大動脈瘤は破裂するまでほぼ無症状。検査を受けていなければ動脈瘤の存在に気づくのは難しい」。静岡市の「県立大学前クリニック」の院長、松田巌医師は、症状急変の理由を説明します。「大動脈瘤は動脈壁が動脈硬化によってもろくなり(脆弱化)、その部分が時間とともに血圧によって『こぶ状』にふくらんで発生します」。いったん発症した動脈瘤は徐々に大きくなるそうです。

松田医師は「破裂するにはある程度のサイズになってから。急速に増大して破裂することは通常ありません。こぶができる原因となる疾患を持つ人はまずは自分の体に大動脈瘤があるのかを病院で検査する必要があります」と話します。

こぶができる原因は血管の劣化、つまり動脈硬化です。松田医師は「動脈硬化を引き起こす疾患は高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、高脂血症。これらの病気を持つ人は自分は『大動脈瘤破裂』のリスクを持っていると認識して、治療をしっかりと行うことに尽きます」と強調します。

血圧が上がる寒い時期は要注意、いったん破裂すると救命は困難

それでは、すでに自分に「こぶ」があるかはどのように調べればいいのでしょうか。「大動脈瘤は胸部だけでなく、腹部にも発生する可能性があるので、胸部・腹部CTを撮影すれば簡単に判明します。大動脈瘤が見つかった場合、定期的に撮影を続け、サイズが増大していないかチェック、45ミリを超えたら破裂を未然に防ぐ手術を検討します」。

松田医師によると、手術には「こぶ」を人工血管に取り替える「人工血管置換術」と、細い管を足の付け根の血管から挿入し、「こぶ」の場所で細い筒を広げ、血液がその筒の中を流れるようにする「ステントグラフト内挿術」があり、最近は体への負担が少ないステントが選ばれることが多いとのことです。

それでは「こぶ」が破裂するとどうなるのでしょうか。「こぶの破裂は突然起こります。胸部なら突然の背中の激痛、腹部なら腰痛が起こります。突然の痛みにみまわれ、動脈瘤破裂を疑った場合は、救急搬送するしかありません。病院では基本的には開腹、あるいは開胸しての緊急手術となりますが、仮に手術ができたとしても救命できるのは50%くらいのようです。

手術の前に亡くなられる方が多く、救命は発症後から病院にたどり着くまで、まさに時間との勝負。しかし残念ながら破裂例全体としては9割が死亡するとの調査もあります」と松田医師は厳しい現実を語ります。「いつでも起きる病気ですが、特に気温の低い冬は血圧が高めになるので、体調の変化には特に注意が必要です」

高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、高脂血症を放置せず治療

厚生労働省の人口動態調査を元にした大動脈疾患(大動脈瘤と解離)の2017年の全国の死亡数は19126人、人口10万人に対しての粗死亡率は15,24%とされていますが、日本では剖検(病死した患者の解剖)実施率が低いので、原因不明の突然死と診断される場合も多く、実際の死者数はこれより多いと見られています。

亡くなった森下監督は62歳。まだまだ指導者としての活躍を期待される年齢でした。松田医師は「まずは、血管を劣化させる高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、高脂血症を放置せず治療しましょう。動脈瘤の『ある・無し』は人間ドックでCTが検査項目に入っていれば早期発見できます。定期検診を欠かさず“急死”のリスクから自分を守ってください」と呼びかけています。

© 静岡放送株式会社