「できません」「やりません」 協調性ゼロの販売員が“退職勧奨”応じず… 会社を提訴も「完敗」した“明白な”理由

女性は他の従業員とのトラブルを起こしまくっていた…(よっし / PIXTA)

【Apple vs トラブルを起こしまくる従業員】の事件をお届けします。(弁護士・林 孝匡)

(Apple Japan事件:大阪地裁 R5.3.24)

結果はAppleの勝訴です。従業員がどのようなトラブルを起こしたのか、以下に詳しく解説します。

※ 争いを簡略化した上で本質を損なわないよう一部会話に変換しています

登場人物

■ 会社
Apple Japan合同会社

■ Xさん
・女性(昭和48年生まれ)
・いわゆる接客スタッフ

事件の概要

▼ Xさんの仕事
平成26年9月からXさんは働き始めます。仕事は家電量販店内にあるApple Shopでの接客です。ヨドバシカメラや上新電機の店内で接客やデモンストレーションなどの営業活動を行っていました。

▼ 従業員と衝突しまくり
Xさんは店舗の従業員や協力企業の従業員と衝突しまくります。トラブルを一部抜粋すると以下のとおりです。

・確たる根拠がないのに、リーダーに対して「●さんが商品の販売台数をごまかしている」と伝える。
・学生アルバイトに対して「仕事を甘く見ている」「チームの雰囲気を悪くしている」「一緒に働きたいと思わない」と言う。アルバイトさんはXさんの発言にショックを受けリーダーに相談した。
・Xさんがある社員に「カラーコンタクトを外すよう」注意した。その社員がカラーコンタクトをつけているようには見えなかった日でも、Xさんは注意を続け「カラーコンタクトをしている。うそをついている」と言った。

▼ 会社との面談
会社は、こりゃマズイと考えたのでしょう。Xさんと面談を3回行いました。その面談において上司はXさんに対して「コミュニケーションの面からAppleにフィットしないのではないか」「消化していない有給休暇を96万円で買い取る」など提案しながら退職勧奨を行いました。しかし、Xさんは退職に応じませんでした。

▼ こんな衝突も
Xさんはほかにも以下のように、他店の従業員と衝突していました。

・上新電機の従業員に対して、契約電話の契約手続き用カウンターが「邪魔になる」と言ってカウンターの撤去を求めた。Xさんは、要求に応じなかった上新の従業員をにらみつけた。店長と副店長はXさんを退店させた。
・Apple Shopの近くの通路に立って接客していたUQの従業員に対して「通路に立たないよう」求め、UQ側とトラブルになった。
・Apple Shopの中でiPhoneの案内をしていた協力企業の従業員に対して、Apple Shopからの退去を求めた。
・Apple Shop内の展示機のWi-Fi接続を上司に無断で切断。理由は「子どもが長時間ゲームをしていた」というもの。

▼ 厳重注意処分
Xさんは店長と副店長から退店を命じられた平成30年3月ころから出勤していませんでした。平成30年4月12日、会社はXさんに対して厳重注意処分を出します。処分の理由は以下のとおりです。

・店舗から相談があった際、Appleのガイドラインに沿って対応できる依頼内容だったのに「できません」「やりません」の一点張りで店舗と口論になった。
・店舗から要望があった際、実際にはAppleに存在しないルールを根拠に「ルールだから」と言って一方的に断る。
・「断ることについてはApple本部の承認を得ている」とウソをついた。
・Apple TVの正式なデモコンテンツを使用せず、大音量で音楽を流し店舗の営業を妨害した。
・店舗がXさんに「iPhoneのネット回線がつながらない。コンテンツもアップデートされていない」と相談したのに対応しなかった。

▼ Xさんが提訴
Xさんの主張は以下のとおりです。

・厳重注意処分は違法だから損害賠償を請求する
・退職強要も違法だから損害賠償を請求する
・出勤できていないのは会社に非があるので給料を支払え(平成30年11月〜平成31年4月)

ジャッジ

弁護士JP編集部

Appleの勝訴です。順番に解説します。

▼厳重注意処分はOK
裁判所は「おおむねXさんの行為は懲戒処分事由にあたる。これを理由として厳重注意処分をすることが社会通念上の相当性を欠くとはいえないので、厳重注意処分はOK。なので損害賠償請求は認めません」と判断。

▼退職勧奨
裁判所は「執拗に退職を迫ったとは認められない。Appleによる退職勧奨が社会通念上相当と認められる限度を超えて、Xさんの自由な退職意思の形成を妨げたとは認められない。この退職勧奨はOK。なので損害賠償請求は認めません」と判断。

・基礎知識
【退職勧奨】と【退職強要】は違います。退職勧奨とはカンタンにいえば「ユー、辞める気ない?」と持ちかけることです。こういったライトなものであれば合法です。それを超えれば退職強要になります。

正式な言葉で言うと【説得の手段や方法が社会通念上相当と認められる範囲を超え、労働者の自由な意思形成を不当に妨げるような態様でされた場合】は退職強要となり、違法なのです。

詳しくはコチラをご覧ください。

「夜勤ができないなら…」看護師に“退職強要” 追い込まれても“絶対に”「退職届」を出してはいけないワケ

▼未払い賃金
未払い賃金については、裁判所は「Appleさん、コレは払わなきゃ」と言ってます。でもAppleは令和4年7月までにもろもろ払っていたので、裁判所は「もらってるからXさんの請求はもはや認められない」と締めくくっています。

・支払義務を負う理由
裁判所は「厳重注意処分の後もXさんに対して自宅待機を命じているけど、コレはAppleさんの【業務上の都合】によるものなんだから、Xさんが平成30年11月〜平成31年4月まで欠勤したとしても給料を支払わないとダメ。厳重注意処分がOKだからといって給料の支払いを停止していいわけではない」と言ってます。

最後に

というわけで、協調性がなくスグに他人と衝突する社員の事件をお届けしました。今回の退職勧奨はセーフとなりましたが、やりすぎると会社側のアウトになります。

実際に起きた事件で「じゃあ書けよ、書けよ! 退職願を」「どっかへ行けよ。それで終わらすべよ」と言って退職を迫った態様が違法認定された事件もあります。詳しくはコチラ。

「雑魚はいらねえんだよ」人格否定の“退職強要”にうつ病発症…会社の“業務上の指導”が違法とされたワケ

今回は以上です。これからも労働関係の知恵をお届けします。またお会いしましょう!

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