芥川賞受賞作「生成AIを5%使用」を受け授賞者の紹介記事をAI生成…気になる完成度は?法的な問題は?

生成AIがいよいよ芥川賞にまで浸食…著作権は?(ナオ / PIXTA)

第170回芥川賞を受賞した九段理絵江氏が、受賞作の5%に「生成AI」を活用したと明かし、ネット上でも賛否の声が広がった。すでに生成AIの実力は脅威といえるレベルだが、改めて検証を兼ね、編集部でも受賞者紹介記事をAIに生成してもらった。

プロンプト(生成内容などを指示する文字列)には、受賞者と作品名を入れ、「第170回芥川賞・直木賞発表のニュース記事を作成して」と入力した。

以下が、見出しを含め、5秒ほどで生成された記事だ。

第170回芥川賞・直木賞発表 芥川賞に九段理江さん「東京都同情塔」、直木賞に河崎秋子さん「ともぐい」と万城目学さん「八月の御所グラウンド」

日本文学振興会は17日、第170回芥川賞・直木賞(2023年下半期)の選考会を開き、芥川賞に九段理江さんの「東京都同情塔」、直木賞に河崎秋子さんの「ともぐい」と、万城目学さんの「八月の御所グラウンド」の2作が選ばれました。

芥川賞を受賞した九段理江さんの「東京都同情塔」は、ザハ・ハディドが設計した国立競技場が建設され、犯罪者には同情すべきという考えが浸透している社会を舞台にした作品です。主人公の女性建築家は、そんな社会に違和感を覚えながらも、同情という概念を巡って葛藤していきます。

直木賞の河崎秋子さんの「ともぐい」は、明治後期の北海道を舞台に、熊を狩猟しながら孤独に生きる男の姿を描いた作品です。男は、山で出会う人々や狩りの場面を通して、人と獣との命のやり取りを生き生きと描き出しています。

また、直木賞の万城目学さんの「八月の御所グラウンド」は、全国高校駅伝にピンチランナーとして挑む方向感覚の悪い女子高校生の話と、借金のカタに謎の草野球大会に参加する大学生の物語の2篇からなる作品です。京都を舞台に、爽やかな青春がユーモアたっぷりに描かれています。

九段理江さんは、埼玉県生まれの33歳。2021年に「悪い音楽」で文學界新人賞を受賞し、本作でデビュー2作目での芥川賞受賞となりました。河崎秋子さんは、北海道生まれの44歳。本作で2度目の直木賞受賞となりました。万城目学さんは、大阪市出身の47歳。本作で6度目の直木賞受賞となりました。

今回の受賞作は、いずれも現代社会を鋭く切り取った作品であり、文学界への新たな風を吹き込んでくれるものと期待されます。

出来栄えは十分使えるレベルに

出来上がった記事は、ぱっと見、なんの問題もない印象。とくに指示はしなかったが見出しまでつけてくれた。一部日本語に違和感のある箇所もあるが、読めないほどではない。

改めて生成AIの実力を認識させられた。

ネット上では作品に生成AIを使うことに賛否

ネット上では、芥川賞受賞作に5%とはいえ、生成AIが使われていたことに、賛否が渦巻いた。「机上でけんけんごうごうのなか、AIを使った小説がさらりと芥川賞をさらっていった。かっこいい」とする先鋭派や「その文章に含まれる5%の文章がよその著作権を侵害していないとなぜ言い切れる」と著作権問題を指摘する声がせめぎあった。

生成AIの著作権に詳しい弁護士の見解

生成AIによる文章作成については、モノリス法律事務所の河瀬季弁護士が次のように説明している。

「生成AIだからといって特別なことはありません。一般的な著作権侵害の問題と同じく、(1)他者の著作物と類似しているか【類似性】、(2)当該他者の著作物に依拠、つまり、あるものに基づくことやよりどころとしたものか【依拠性】という観点から判断します。したがって、特定の他者のブログをプロンプトに入力した(この点で「依拠」はしている)としても、出力されたものが当該ブログと「類似」しなければ著作権侵害にはなりません。 人間が他者のブログを読み込んで内容を理解し、それを自分の言葉や段落構造等で書き直したのであれば著作権上は問題ないのと同じです」

創作物に生成AIが関与することについては、元になるデータを作製している人がおり、その権利侵害が問題点として指摘される。アウトプットされるものは、確かに”オリジナル”でも、人の作品を混ぜ合わせただけ、という論拠だ。

難しい問題だが、この点は、河瀬弁護士が示す生成AIとの向き合い方に尽きるのではないだろうか。

「AIはあくまで道具であり、生成したコンテンツに対して責任を負うのは自分自身であるという認識を強く持つことです。これは法的にも重要ですが、今後人間がAIと共存していく上で、最も重要な課題の1つだと思います」。

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