サステナブル疲れを克服し、従業員の創意工夫を引き出す社内コミュニケーション

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異常気象や世界のCO2排出量、生物多様性への懸念から、企業によるサステナビリティへの取り組みがより一層求められている。民間企業は長らく、期限付きの目標を達成するために多くのリソースを投じてきた。さらに、気候テクノロジーの進化も加わって、そうした投資は経済を再形成し、労働者に新たな機会を生み出している。今回は米ワシントン州の広告・PR会社WE Communications (ウィー・コミュニケーションズ)でEVP(Employee Value Proposition:従業員価値提案)やコーポレート・レピュテーション(企業評価)などを担当するノア・ケテイアン氏が、サステナビリティ課題に対する従業員の創意工夫を引き出す社内コミュニケーションのポイントについて紹介する。(翻訳・編集=小松はるか)

WE Communicationsの最新の調査「グリーン(サステナブル)疲れを克服する(Winning the Battle Against Green Fatigue)」によると、従業員の大多数が自社のサステナビリティの取り組みに携わりたいと思っているにもかかわらず、実際に参加している人はごくわずかだという。調査では、米国、英国、シンガポールのさまざまな業種の2000人を対象に企業のサステナビリティ事業についての意識調査を行った。的を絞った社内コミュニケーション戦略はこうした差を埋め、従業員を動員するのに役立つ。

重点的に取り組むべき社内コミュニケーションの4つのポイント

1.従業員とのつながりを深め、従業員が自らの仕事がもたらすインパクトを確かめられるようにする

調査によると、従業員の3分の2は企業のサステナビリティの取り組みに、「ほとんど関わりがない」と回答しているが、78%の従業員は取り組みに携わりたいと考えている。

では、雇用主はどのようにこの差を埋めればいいのだろうか。まず、従業員に権限を与えることで、取り組み方法を大きく変えられる。部署や職種に関係なく、すべての従業員を目標達成のための取り組みに参加させ、サステナビリティを自社のミッションやパーパスにしっかり結びつける。さらに、従業員にアイデアを求めること、従業員のスキルアップを支援することも重要だ。

人々はより意義のある物事に携わっているという実感を得たいと思っている。適切なコミュニケーションによって、従業員が自らの役割を通じてどのように、より意義のあることに貢献しているかを示すこともできる。自社が2030年、2040年目標の達成に向けて前進するということは、全ての従業員がその達成の一員になるということでもある。

2.透明性を確保する

2030年に向けたサステナビリティ目標は、もはや社内だけで完結するものではない。山火事や洪水、干ばつなどの異常気象の発生の増加は、気候変動が人々の暮らしやコミュニティに直接的な影響をもたらすことを改めて認識させるものだ。従業員は自社が事業を行う地域社会の欠かせない一員であり、自社がどんな支援を行っているかを知りたいと考えている。

WE Communicationsの別の調査「“パーソナル”がキーワード:コーポレート・レピュテーションの新常識(Personal: The New Rules of Corporate Reputation)」によると、75%の人は企業が社会的課題に対して何をしているかを伝える際、透明性が必要になると回答した。透明性は、企業がサステナビリティ目標を達成できなかった時にこそ必要とされる。

「グリーン(サステナブル)疲れを克服する」で調査した役員のなかで、こうした状況において透明性のあるコミュニケーションが不可欠だと答えたのはわずか3分の1にすぎなかった。一方、従業員のおよそ半数は不可欠だと回答した。ビジネスリーダーは透明性を確保することによって、従業員の声に耳を傾け、重要なことについて共通認識を持っていることを示せるのだ。

透明性の高いコミュニケーションが行われていれば、大きな成果が出るまで待ったりする必要はない。サステナビリティに関する報告や重要な節目を、それが成功しようが失敗しようが、従業員に共有することだ。従業員はその過程に携わる一員になりたいと思っている。そして、途中段階を共有し、早期に従業員を巻き込んでいくと、従業員はより力を入れてくれるようになるだろう。

3.サステナビリティの測定基準を再考する

テクノロジーが進化し、労働力が変化するなか、事業計画からツールの配備にいたるまで一貫してサステナビリティに配慮する。組織全体にサステナビリティを統合することは、従業員とつながる接点を複数生み出し、懐疑的な見方に対処するのに役立つだろう。調査「グリーン(サステナブル)疲れを克服する」で分かったのは、半数近い従業員(45%)が、自社がある程度グリーンウォッシュを行っていると疑いを持っているということだ。

自社が長期的な取り組みをしていることを示すために、他の事業報告と同等のサステナビリティ測定基準を採用することが必要だ。CEOが、利益に関する話と同じようにサステナビリティの取り組みについて話しているのを従業員が聞き、さらに直属の上司からもそれがチーム目標とどう結びついているかを聞くことができたら、事業との重要な結び付きを示せる。

明確な透明性のあるコミュニケーションは、目標が未達の時でも、組織に正しい軌道に戻る方法を示す。WE Communicationsが行った調査で分かったのは、ほとんどの従業員は、今後の道筋について明確な情報があれば、サステナビリティ目標の後退を容認するということだ。

4.サステナビリティにスポットライトを当てる仕組みをつくる

気候危機に向き合うことは打ちのめされるような気分になり、個人にとっては負け戦のように思えるものだ。そこで、報酬や評価プログラムを通じて、持続可能で効率的な行動を促すことが重要になる。人にも地球にも役に立つ特典を準備しよう。例えば、公共交通機関の割引券を渡したり、地域の湿地帯を再生するボランティアの時間を認めたり、経営資源を守る革新的な方法を見つけた人に地元やサステナブルな企業のギフトカードをプレゼントするなど。組織の後援のもと、従業員が大気中からどれだけのCO2を削減できたかを集計し、ランク付けしたボードを設置するのもいいかもしれない。

こうした取り組みは組織全体を勢いづけるのに役立ち、また、直接的な行動や同僚の努力、ビジネス・イノベーションがどのように有意義な成果を生み出すかを、従業員に示すのにも役立つ。

世界中でさまざまな人々が気候変動による影響を実感し、その解決に取り組む一員になりたいと考えている。サステナビリティの取り組みに従業員を巻き込めるビジネスリーダーは、より強い結束力を従業員に感じさせることができ、未来を築くための新たなチャンスを生み出すだろう。

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