世界の軍事費の移り変わりとその分析 日本の軍事費の状況は……?

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軍事費が高い国トップ15の移り変わりをアニメーションで表した動画がSNS等で注目を集めていたのをご存知でしょうか?

公開元は世界のさまざまなランキングをグラフで比較するRankingTheWorldというYoutubeチャンネルです。

国同士の関係や通貨価値をファクターに増減する軍事費は、世界情勢を知るにあたって役立ちます。この記事では動画中のデータのうち、注目すべきパートをピックアップしてご紹介。さらにGDPに対する軍事費の割合やそもそもの軍事費の意味にも言及します。

世界一位の軍事大国はアメリカ合衆国、日本は9位

まずは実際に動画を確認してみてください。

1914年2月から2018年1月までの毎月の軍事費の変化がUSドルを基準にインフレの影響は考慮せず表されています。

動画中最新である2018年1月の世界の軍事費ランキングトップ10は以下の通り。

【2018年1月、世界の軍事費ランキングトップ10】

順位国名 金額1アメリカ 6,487億9,827万3,000ドル2 中国 2,499億9,690万635ドル3 サウジアラビア 675億5,466万6,667ドル4 インド 665億1,028万9,108ドル5 フランス 637億9,967万6,593ドル6 ロシア 613億8,754万6,980ドル7 イギリス 499億9,719万2,521ドル8 ドイツ 494億7,062万7,811ドル9 日本 466億1,795万4,864ドル10 韓国 430億6,997万3,343ドル

アメリカが2位の中国を2倍以上突き放す圧倒的なトップとなっています。一千億ドル単位に達しているのはアメリカと中国のみでありいかに軍事費が2カ国に集中しているのかがわかりますね。日本は9位で約466億ドルです。

それでは、データの始まりである1914年2月時点のランキングはどうだったのでしょうか?

【1914年2月、世界の軍事費ランキングトップ10】

順位国名 金額1ドイツ17億8,500万ドル2 イギリス16億7,884万3,000ドル3 フランス12億3,500万ドル4 オーストリア=ハンガリー10億4,200万ドル5 ロシア8億5,700万ドル6 アメリカ2億5,320万5,000ドル7 日本1億834万7,000ドル8 スペイン9,987万4,000ドル9 イタリア8,745万3,000ドル10 中国6,778万5,000ドル

約104年で、世界情勢は大きく変化しました。まず、1918年に崩壊したオーストリア=ハンガリー帝国がまだ存在していますし、通貨単位にもおおむね2桁の差があります。また、アメリカは6位で当時最も軍事費が多いのはドイツ。続くのはイギリス・フランスとなっています。当時は第一次世界大戦開戦直後。数年後、敗戦後のドイツは大きく順位を落とし、再び一位となるのは第二次世界大戦開戦を控えた1937年です。

この時点で中国は9位、サウジアラビアは圏外です。アジア・アラブが欧米に対等してきた歴史が軍事費にはっきりと表されています。

このデータは歴史的事実として興味深くはありますが、あまりに過去のため近年の変化は見えてきません。そこで2018年から5年前、2013年1月のデータを見てみましょう。

2013年1月、世界の軍事費ランキングトップ10】

順位国名 金額1アメリカ6,386億8,256万8,842ドル2 中国1,805億9,678万1,903ドル3 ロシア882億2,752万7,128ドル4 サウジアラビア674億9,119万5,554ドル5 フランス624億5,812万3,404ドル6 イギリス569億4,134万4,778ドル7 日本489億5,046万4,522ドル8 インド475億2,389万8,567ドル9 ドイツ459億3,644万2,592ドル10 韓国344億2,235万915ドル

この5年間では軍事費トップ10入りしている国に変わりはないことがわかります。金額の変化をみると、アメリカ・サウジアラビアはほぼ横ばい、フランス・ドイツが微増、中国・インド・韓国が増加、日本が微減、ロシアとイギリスが減少しています。軍事費の増減には経済成長や他国の存在感が深く関係します。ここ数年の中国の経済大国としての地位確立や強軍路線が他国に与えた影響が見えます。

各国の対GDP比で軍事費を見てみると……?

国によって経済力には大きく差があるため各国がどれだけ軍事を重視しているかは軍事費だけではわかりません。そこで用いられるのが対GDP(国内総生産)比です。

国内で生み出すお金のうちどれだけを軍事費に費やしているのかを基準に、2018年1月時点のトップ10カ国を並べ替えたのが以下の表です。

【「2018年1月、世界の軍事費ランキングトップ10」を対GDP比で並べ変えた表】

順位国名 対GDP比(%)1サウジアラビア8.772 ロシア8.933 アメリカ3.164 韓国2.625 インド2.426 フランス2.297 中国1.878 イギリス1.789 ドイツ1.2310 日本0.92

出典:STOCKHOLM INTERNATIONAL PEACE RESEARCH INSTITUTE

対GDP比で見た場合の10カ国の順位は大きく入れ替わり、サウジアラビアが圧倒的1位、ロシアが2位、3位がアメリカとなります。紛争が目立つ中東情勢がサウジアラビアに軍事費を引き上げさせており、オマーン(8.17%)、アルジェリア(5.27%)などほかの中東国家も軍事費の対GDP比は非常に高くなっています。

ロシアには冷戦時代多くの軍事費が費やされてきた歴史があります。原油・天然ガスの価格低下やウクライナとの紛争により課された経済制裁によって軍事費に掛けられる予算は減ってきてはいるものの、まだ高い水準にあるようです。

日本の軍事費は長年対GDP比1%以下を基準として支出されてきました。NATO(北大西洋条約機構)が掲げる目標は2%ですから、その半分以下に押さえられていることになります。この背景には第二次世界大戦を経て、国内や周辺国から軍事費増額に厳しい目が向けられてきた事実があります。

軍事費とはそもそも何?

広義の軍事費は軍事上の目的で費やされる経費すべてを指し、国防費・防衛関係費などとも呼ばれます。軍事費と聞いてイメージしやすいのは戦争中の武器や戦闘員にかかる費用ですが、平時の軍事費は軍の維持費が主で他国への軍事援助や軍事的に役立つ道路・鉄道・港湾の建設、科学的な研究開発なども指します。

軍事費は軍事力をそのまま表すものではありません。実際の軍事力は各国の持つ武器の種類や人口、地理的な有利不利などさまざまな要素を加味して産出されます。Global Firepowerが55以上の要素を加味して算出した「2019年軍事力ランキング」のトップ10以下の通りです。

【2019年軍事力ランキングトップ10】

順位国名 軍事力指数1アメリカ0.06152 ロシア0.06393 中国0.06734 インド0.10655 フランス0.15846 日本0.17077 韓国0.17618 イギリス0.17979 トルコ0.208910 ドイツ0.2097

出典:2019 Military Strength Ranking┃Global Firepower

終わりに

話題を呼んだアニメーションを紹介したうえで、軍事費から読み取れる世界情勢について俯瞰してきました。軍事費について普段からチェックしているという方は少ないかもしれません。しかし、記事中で紹介したように国同士の関係や経済状況を知るヒントとなります。

最も信頼度が高いといわれているのはRankingTheWorldもデータソースとしているストックホルム国際平和研究所の報告書です。より深く軍事情報を知りたい方はそちらもチェックしてみてください。

参考URL

Top 15 Countries by Military Spending (1914-2018)┃RankingTheWorld
STOCKHOLM INTERNATIONAL PEACE RESEARCH INSTITUTE
中国国防費、7.5%増19.8兆円 強軍路線が鮮明に┃日本経済新聞
インド国防費 最高4・6兆円…新年度予算案┃讀賣新聞
NATOの防衛費支出目標、2018年は7か国が達成┃AFP BB NEWS
世界の軍事力ランキング トップ25[2018年版]┃BUSINESS INSIDER
諸外国の軍事費・対GDP動向をさぐる(2019年公開版)┃不和雷蔵(Yahoo!JAPAN ニュース)
2019 Military Strength Ranking┃Global Firepower

宮田文机

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