弱者・強者の戦い方の基本「ランチェスター戦略」とは?4つの原則と成り立ちをわかりやすく解説

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人手不足、消費増税による購買力低下といった課題を持つ日本経済。企業が生き残り成長するためには適切なビジネス戦略を実行することが不可欠です。

その一つとして著名なものがランチェスター戦略。第一次世界大戦時に軍事戦略として生まれ、戦後ビジネス界で発展してきた“弱者・強者が取るべき方針の鉄則”です。

ソフトバンク、H.I.Sなど数多くの企業の成長に携わったランチェスター戦略の4つの鉄則とその成り立ちについてわかりやすく解説します。

ランチェスター戦略その1:弱者はゲリラ戦にもちこめ!

ランチェスター戦略の一つ目は、「弱者はゲリラ戦にもちこめ」です。この場合の弱者とは、市場において二位以下のすべての企業を指します。

ランチェスター戦略におけるゲリラ戦のキーワードは以下の3つです。

1. 集中 2. 差別化 3. 各個撃破

すなわち、市場や販売地域を絞りその中で独自の点を持つ商品をターゲットに向けて販売するということです。具体的には市場でまだ見つかっていない領域を狙うニッチ戦略などが適しているでしょう。

この戦略の背景には“個人戦においては「戦闘力(市場で勝つ力)=武器効率(商品や接客の独自性・質といった定性的な指標)×兵力数(規模やブランド力といった定量的な指標)」”という理論があります。すなわち、弱者は個人戦に持ち込み、そこで武器効率もしくは兵力で相手を上回らなければならないのです。

そして、弱者は強者に比べて規模やブランド力に劣ります。そのため、商品や接客の独自性・質といった武器効率を高める方向に舵を切るべきなのです。

ランチェスター戦略その2:強者は物量がモノをいう

続いてご紹介するのは市場のトップを走る強者の戦略です。強者は弱者とは反対の戦略、すなわち兵力数を高め、規模やブランドで競争相手を圧倒するのが基本的な戦略となります。

その背景にあるのが“集団戦においては「戦闘力=武器効率×兵力数の二乗」”という理論です。複数人と1人が対峙する自体が起こりうる集団戦では武器の質以上に、兵士の数がものをいいます。

そのため、規模やブランドで勝る強者は総合力で競う集団戦に持ち込むべきなのです。例えば、競合他社のやり方を模倣したうえで大規模な資金や人員を投入して物量で圧倒するのが強者の基本戦略となります。

ランチェスター戦略その3:ゴールは強者(圧倒的No.1)になること

ランチェスター戦略におけるゴールは「強者(圧倒的No.1)」になることと定められています。具体的には市場シェア41.7%が安定的シェアの目安です。

この基準は、ランチェスター戦略を体系化・発展させた田岡信夫氏が社会統計学者の斧田太公望氏と導き出したマーケットシェア理論に基づいています。マーケットシェア理論から導き出されたマーケットシェアの7つの目安値は以下の表の通りです。

【マーケットシェアの7つの目安値】

シェア(%)補足ゴールの上限72.9これを超える一社独占は安全とはいえない地位安定の目標41.7多くの企業が目指すべきゴール強者の最低条件26.1まだ逆転される可能性は少なくない上位グループの仲間入り19.3複数企業が拮抗していることが多い市場全体に影響するように10.9競合他社に存在が認められる市場への影響力を失う6.8市場撤退の目安値といわれている市場参入の第一歩2.8まだ存在価値はほとんどない## ランチェスター戦略その4:狙い目は足下の敵(そっかのてき)

最後にご紹介する戦略は、市場シェアを伸ばすにあたって足下の敵(そっかのてき)を標的とすべきだというものです。足下の敵とは、基準とする項目において自社よりも少し下に位置する相手を意味します。

戦闘において勝ちやすいのは自分よりも力の劣る相手です。特に自社よりも少し劣る相手であればその売上を奪うことで、シェアを伸ばしつつ安全圏を広げることができます。

基準とすべき項目は市場規模に限らず、販路、地域、ブランド力、顧客など多岐にわたります。

ランチェスター戦略の歴史

ランチェスターの原点は第一次世界大戦時、イギリスのエンジニアF.W.ランチェスターが発見したランチェスターの法則です。

ランチェスターの法則は先に紹介した以下の2つ。

  • 戦闘力=武器効率×兵力数
  • 戦闘力=武器効率×兵力数の二乗

ランチェスターの法則の研究は第二次世界大戦時、アメリカ軍によって進められより細かく戦闘力を分類するランチェスター戦略方程式へと発展しました。その理論は戦後ビジネスへの応用も進められ、フォルクスワーゲンのカナダ進出などに貢献することになります。

ランチェスター戦略を体系化し、日本に広めたのが前述のコンサルタント折口信夫氏。彼の伝えたランチェスター戦略は、ソフトバンク、H.I.S、京セラなど多くの日本企業に広まり産業界の発展に貢献し続けています。

終わりに

ランチェスター戦略の骨子と成り立ちについてご紹介しました。孫子の兵法など過去の軍事戦略が現代のビジネスに応用される例は数知れません。ランチェスター戦略も同様に、現代のビジネスで参考にすべきひとつの方向性を示してくれます。

新しい市場でどう戦っていくのか迷ったとき、このランチェスター戦略を思い出して見てください。

参考URL

2019 年の消費増税の影響度と今後の課題┃大和総研
<ランチェスター思考>ソフトバンク孫正義社長が武器にする「強者を挫く」戦略 -福田秀人氏┃PRESIDENT Online
目立たず一番に・唯一の価値追求 勝つ経営の方程式 エイチ・アイ・エスの沢田会長兼社長(CEO)┃NIKKEI STYLE
ニッチ戦略(MBA用語集)┃グロービス経営大学院
競争戦略のバイブル「ランチェスター戦略」とは┃戦国マーケティング株式会社
特定非営利活動法人 ランチェスター協会
情報マネジメント用語辞典:ランチェスター戦略(らんちぇすたーせんりゃく)┃ITmediaエンタープライズ

宮田文机

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