和食ディナーパーティーを彩る尺八の音色

尺八の音色を生で聴いたことはありますか?尺八の音は風のように柔らかく温かく、聴く人に深い森の奥にいるようなやすらぎを与えてくれます。その秘密について演奏家の櫻井咲山さんが教えてくださいました。

例えば虫の音を聴いて、西欧人が「うるさい」と感じるに対し日本人は「心地よい」と感じると言われています。その理由について、日本人と西欧人では音を受け取る脳が違うという説もありますが、櫻井さんは湿度も大きく関係していると言います。

演奏家の櫻井さんは、尺八をヨーロッパに持っていって演奏することもあるようですが、なんと現地では尺八の音がまるで違う音になるそうです。あの風の音のようなふくよかな柔らかい音色ではなく、リコーダーのようなピーピーとした平たい音になってしまうそうです。しかし、日本の伝統楽器の音色をどうしても現地に届けなければならないため、櫻井さんは当日、会場の湿度を上げ、尺八自体はキャベツなどの大きな葉で巻き、湿度を保ちます。そうすることで、尺八の音は空気中の水分を経由し、あのふくよかな音色が再現できるのだそうです。

風鈴の音も、湿度のある夏に聴くから風流なのであって、乾燥した冬場に聴いてもチンチンとした寂しい音にしかならないようです。確かに・・・。

日本の湿気っぽいこの風土が虫の音や風鈴の音色を美しくし、尺八など伝統的楽器の音を豊かにしてくれているのですね。

櫻井さんが「倍音」という言葉を教えてくれました。例えば「ラ」の音を楽器で鳴らしたとして、実際に出ている音はその他の音も含み様々な音が一緒に空気を震わして私たちの耳に届いています。基本となる音以外の「その他の音」を「倍音」と言います。世界中のあらゆるところに存在する音や声は、基本的に倍音を持っており倍音を多く含むもの、そうでないものに分類されます。

湿度の多い日本では、同じ楽器や声でも倍音を多く含み、音に深みや心地よさが増すようです。

あのかすれた音にならないような音、音の後の音。倍音を多く含む尺八の音色が心地よいのはこうした理由があるのです。

世界中の方にぜひ、この日本で尺八本来の美しい音色に触れていただきたいと願っています。

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