投資信託は「複利効果」に過大な期待をしない方が無難、複利と再投資について考える

よく投資信託で「複利効果」という言葉が出てきます。しかし、一方で個別ファンドの目論見書などを見ると「再投資コース」という言葉も出てきたりして、何が違うのかよく分からないという方もいらっしゃるでしょう。両者は似て非なるものです。その点について解説します。

参考記事:「複利効果」とは何か? 単利と複利の違いを構造的に理解してみよう


複利効果と再投資効果の違いとは

単利については前回触れたので、改めて説明するまでもないと思いますが、要は一定の運用期間によって得られた運用収益を元加して、さらに次の一定期間を運用するというものです。

これによって、利息が利息を生むという形になるため、単利で同じ期間、運用した場合に比べて、より大きく利息が増えることになります。

では、複利と再投資にはどのような違いがあるのでしょうか。

よく投資信託で「複利効果」という言葉が用いられます。長期投資の効果を分かりやすく伝えるために用いられるケースが多いようですが、これは厳密に言うと、複利効果というよりも、「再投資効果」と言うべきでしょう。

複利は、一定の運用期間で生じた利息を元加するため、利息が利息を生むことにつながるわけですが、それをそのまま投資信託に当てはめるには、いささか無理があります。

第一の理由は、課税の問題です。前回の複利計算を思い出してもらいたいのですが、一定の運用期間で生じた利息に対しては課税されることなく、利息が元加されていきます。そして利息に対して課税されるのは、あくまでも満期を迎えて利息を受け取る時です。このように課税を満期時点まで繰り延べることができるため、複利効果が一段と高まるのです。

対して投資信託の再投資は、決算日に支払われた分配金に課税し、税引後の分配金でもって同一の投資信託を買い付けます。したがって、税金が差し引かれた分だけ、再投資の運用効率は下がらざるを得ません。

投資信託の再投資は運用効率を下げる

第二の理由は、投資信託は基準価額が上下する価格変動商品であるのと同時に、分配金自体、決算日ごとに一定額が払い出されるとは限らないということです。

投資信託の分配金は、支払いルールが明確に決められているわけではなく、毎決算期にいくら払い出すかは、投資信託会社の判断に委ねられています。今期100円の分配金が支払われたとしても、来期に同額の分配金が支払われる保証はないのです。

もっと言うと、分配金を払い出すと、運用資産の一部を取り崩す形になります。たとえば基準価額が1万2000円で決算日を迎え、払い出された分配金が1000円だとすると、分配金払い出し後の基準価額は1万1000円に値下がりします。

そして、課税後の分配金で同一の投資信託を買い付けたとしても、税金が差し引かれた分だけ、課税後の本人の持ち値は下がってしまいます。1000円に20%を課税した後の分配金の手取り額は800円ですから、それを分配金払い出し後の基準価額である1万1000円に再投資したとしても、再投資後の持ち値は1万1800円になってしまいます。それなら分配金を払い出さず、1万2000円のまま運用し続けてくれた方が、はるかに投資効率は上がるはずです。

投資信託に複利効果は期待できない

とはいえ、投資信託の基準価額は日々変動しています。基準価額が1万2000円の時もあれば、1万円まで値下がりしてしまうこともあります。

たとえば1万円の基準価額で購入した投資信託が1万1000円まで値上がりした後、9000円まで値下がりしたら、評価上では1000円の値上がり益が得られていたのに、9000円まで値下がりする過程で、得べかりし利益が失われ、さらに買値から見れば1000円の損失まで被ることになります。

投資信託の場合、こういうことが往々にして起こります。このように損失を被ってしまうと、再投資効果など全く関係なくなってしまいます。何しろ元加する利益がゼロになるどころか、元本そのものが目減りしてしまうのですから・・・。

よく「投資信託の複利効果」などと記して、指数関数的に将来の収益が増えていくことを示す曲線でもって、その効果の高さをイメージさせるような資料や記事などがありますが、あれはあくまでも①元本が目減りしない、②常に収益率が一定、という2つの条件を満たした場合にのみ当てはまります。

でも投資信託は、この両方の条件を満たすことができません。そうであるにも関わらず、再投資によって指数関数的に収益が増えていくかのように見せることは、ある種の騙しと言っても良いでしょう。

「投資信託を長期間保有すれば、再投資効果によって大きくお金が増える」と考えている人は、今からでも遅くありませんから、そのような間違った認識を頭から外して下さい。投資信託で資産形成をするならば、少なくとも世間で言われている複利効果について過大な期待をしない方が無難です。

© 株式会社マネーフォワード