丹波篠山市で初のパートナーシップ ゲイの2人、公的認定に「安心」 20年隠した関係、宣誓がカミングアウト後押し

重なる手と手。パートナーシップ宣誓を機に2人の絆もより深まった=丹波篠山市内(撮影・秋山亮太)

 兵庫県丹波篠山市で約20年間一緒に生活するゲイのカップルが昨年5月、性的少数者カップルを公的に認める市の「パートナーシップ宣誓制度」で宣誓書を出し、関係性を証明するカードを受け取った。宣誓1組目となった2人は「宣誓書があることで、隠さずに『パートナー』とちゃんと言える安心感が一番大きい」と幸せそうな表情を見せる。(谷口夏乃) ### ■すぐに意気投合

 「けんかしても、宣誓第1号であることや、みんなに祝福してもらったことを思い出すと、自然と仲直りできる」。40代のヒトシさん=仮名=は、50代のケンさん=同=との宣誓後の生活をそう語る。笑顔が明るい。「僕はゲイとして生まれたから、ケンを好きになることができた」

 2001年、お互いの勤務地だった近畿北部の農村地域で出会い、すぐに意気投合した。同居も始めたが、隠れるように暮らした。誰かに交際がばれたら関係を続けられなくなるのでは-。そんな不安が常にあった。04年に丹波篠山市に移住してからも、周囲に関係を明かすことはなかった。 ### ■「独身」のふりを続け

 「結婚は?」「相手はいないの?」「紹介するよ」。農村部だからか、結婚適齢期になると周りからよく声をかけられた。異性愛を前提にした雰囲気の中では、隣に恋人がいても「独身」のふりを続けるしかなかった。ずっと一緒にいたいが、将来を考えると、公的に関係が認められていないことが気がかりだった。

 転機は22年秋、待ち望んだ丹波篠山市での制度導入の話を耳にした。自分たちの存在を示し、少しでも性的少数者への理解が広まることを目指して宣誓を決めた。「田舎では結婚して一人前という雰囲気がある。したくてもできない中で、一緒に暮らす人たちがいると知ってほしい」。制度が始まって1カ月後の23年5月、2人で市長に宣誓書を提出した。 ### ■友人から「おめでとう」

 宣誓は、安心感を得るのとともに、自分たちのことを知った当事者の不安感が和らげばとも願った。「人生はずっと苦しいだけじゃない。幸せになる未来もきっとある」

 関係性を証明するカードは「お守り」のような存在。周囲にカミングアウトする背中も押した。旧知の友人に宣誓を報告したら「おめでとう」と言ってもらえた。長年の隠し事を打ち明け、心が軽くなった。

 テレビなどで性的少数者が取り上げられる機会も増え、少しずつ社会が変わってきた印象を持つ2人。ただ、パートナーシップ制度は同性婚と違い、法的拘束力はない。2人は「一般的な夫婦が得ている権利を認めてもらうことで、真の安心感が得られる」と言う。 ### ■特別なことじゃない世の中を

 そんな2人にとって理想的な将来は、カミングアウトの必要すらない世の中。異性愛者はわざわざ公言しない。同じように「性的少数者であることを隠すことも、カミングアウトすることもしなくてよい社会になってほしい」と望む。かけがえのない人と過ごす幸せに、ジェンダーやセクシュアリティーは関係ない。

 「好きな人が好き。なにも特別なことじゃない」

【パートナーシップ宣誓制度】自治体に宣誓書を提出すると、受領証カードが交付され、2人の関係が公的に証明される制度。公営住宅への入居など夫婦と同様の行政サービスを受けられる。法的拘束力はないが、一部の保険や携帯電話など民間サービスでも夫婦に準じた扱いになる。2015年に東京都渋谷区と世田谷区が国内で初めて導入。渋谷区とNPO法人「虹色ダイバーシティ」(大阪市)の共同調査によると、23年6月時点で全国の328自治体に広がっている。

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