【由布】由布市湯布院町を襲った昨年6月末の豪雨で、養殖用の池が被災した後藤養魚場(同町川上)の新たな池が店舗近くに完成した。当時、出荷を控えた12万匹のアユを失った。後藤良二社長(45)は「どん底だったが、前を向くしかない。5月にはおいしいアユを届けたい」と奮闘する。
昨年6月30日夜、同町川西の畑倉地区で土砂災害が発生。住民の麻生繁喜さん(享年70)が亡くなった。同養魚場は同地区の川沿いに五つの池を持ち、10年近く麻生さんに管理をしてもらっていた。
土砂は池にも流入し「見るも無残な姿だった」と振り返る。育てていたアユは全滅。80グラムほどに育ち、本格出荷を始める3日前の被災だった。眠れなくなり、何をしても涙がこぼれた。「麻生さんがいなくなったことが一番きつかった」
湯布院町の旅館を中心に約70軒の得意先にアユを卸していた。「迷惑をかけられない」と、被災後は店舗近くの池で育てていた2万~3万匹を出荷。県外からも仕入れたが、一部旅館への納品は断らざるを得なかった。
被災した池は復旧の見通しが立たず、今後はどうしようかと考えていた時、店の前の池が浮かんだ。「ここしかない」。先代の父、寿夫さん(享年78)が50年ほど前に建設したが、約20年前の台風で水が引けなくなり放置していた。使えないと思い込んでいたが、パイプに問題があることが分かり、修復すると水が引けるようになったという。
生い茂っていた草木を切って整備し、直径8メートルの池を四つ建設。約4カ月の工事期間を経て昨年12月中旬に完成した。2月中旬以降に稚魚8万匹を入れる予定。「宮川滝の口の名水で水質がいい、育ちやすい水温で、水量もある。最高の環境」と自信をのぞかせる。
新たな池は畑倉地区の池よりも規模が小さいため、以前はウナギなどの養殖に使っていた同町川北の池も活用する。先行して昨年12月下旬に稚魚7万匹を入れ、今期の養殖を始めた。
「麻生さんのためにもおいしいアユを育てたい。新しい池は希望の光になってくれるはず」と再起を誓う。