落とし物、安全で目立つ場所に… それは「善意のはやにえ」です 大阪の男性、厳選の写真40点、伊丹で展示

ビニールひもでサングラスを固定した「善意度高め」のはやにえ(吉永さん提供)

 落とし物が木の枝やフェンスに引っかけられている…。そんな光景を誰しも一度は見たことがあるのではないだろうか。これらを「善意のはやにえ」と名付け、見つけるのを趣味にしている人がいる。大阪府高槻市の1級建築士、吉永健一さん(57)だ。獲物を木の枝先に突き刺す野鳥モズの習性「はやにえ」にちなんで命名し、千点以上を写真に記録してきた。人に踏まれない安全な場所に移動させつつ、落とし主のためにいかに目立たせるか-。そこには苦悩やひらめき、「善意の度合い」が垣間見えるという。(地道優樹) ### ■フェンスの網目や木の枝、あんな所に…

 兵庫県伊丹市昆虫館(昆陽池3)では、企画展「モズのはやにえ リターンズ」に合わせ、吉永さんが厳選した善意のはやにえの写真約40点が紹介されている。フェンスの網目に突き刺さった靴下や木の枝につるされたぬいぐるみなど、思わずクスッとさせる光景が目を引く。

 吉永さんが「善意」に気づいたのは17年前。道路沿いにある塀の壁に、赤ちゃん用の靴が針金でくくり付けられているのを目にした。一瞬「何でこんなことをするの」と驚いたが、人に踏まれないように動かしたとすると合点がいった。交番に届ける時間はないけれど、放っておくのも気が引ける…。そんな通りすがりの誰かが一生懸命、置き場所を考えている姿を想像すると、面白さを感じた。 ### ■上手下手がある

 ほかにも探してみると案外たくさんあり、ブログで発信するようになった。写真に収めた千点以上のうち、大半は近所で見つけたものだ。吉永さんによると、「どこにどう置くか」には上手下手があるという。

 例えば、帽子はその辺に置くよりも、三角コーンや「飛び出し坊や」にかぶせた方が目立ち度がアップする。神社のこま犬の台座に傘を引っかけるなど、周辺の「もともと目立つもの」と組み合わせるのは高等テクニックの一つだ。

 ガードレールにはタオルやマフラーなどが引っかけられていることが多いが、巻き付けて結んだ方が安定感は高まり、思いやりを感じさせる。ビニールひもで固定したり、「落とし物です」とメモ書きを添えたりと、手間の掛かり具合で善意の「度合い」がうかがえるという。 ### ■ツッコミたくなるものも

 一方で「本体を傷つける」のはマイナスポイント。例えば、クマのぬいぐるみを街路樹の幹に針金で巻き付けたはやにえは、目は引くものの、磔(はりつけ)にされたような悲壮感が漂う。吉永さんは「アイデアや気遣いにうならされるものもあれば、『いやいや、それはないでしょ』とツッコミたくなるものもある」と話す。

 善意のはやにえには「物の特徴と周りの環境をどう組み合わせるか」という知恵が詰まっており、「建築にも通じる」と吉永さん。フランスを旅行した際、落としたサングラスが民家の塀の上に置かれて「はやにえ」になっていたことがあり、「世界共通なんやと思いました」。探すことは、人の優しさに気づくきっかけにもなりそうだ。

 伊丹市昆虫館の企画展は29日まで。午前9時半~午後4時半。一般400円、中学・高校生200円、3歳~小学生100円。同館TEL072.785.3582

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