2024年の“大改正”「労働時間短縮」でドライバーの給料はどうなる? 「休憩時間」分を請求できる可能性も

安全確保のための改正だが、給料や物流への影響も…(kotoru / PIXTA)

年が明け、運輸業界の【2024年大改正】が目前に迫っています。

ざっくり言うと、2024年4月から、トラックやタクシーなどのドライバーの労働時間が短縮されます。理由は、長時間労働が原因でドライバーが精神疾患を引き起こしたり、交通事故が多発したりしていたからです。

ドライバーの安全を確保するための改正ですが、他方で、物流が滞ることも懸念されています。本記事では、改正の詳細を解説します。(弁護士・林 孝匡)

名称

適用される法律は「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」といいます。トラック、バスおよびタクシー・ハイヤーのドライバーの労働時間に関する基準です(以下「改善基準告示」)。2024年4月1日から施行されます。

なぜ改正が行われたか

ドライバーの長時間労働を是正するためです。道路貨物運送業の長時間労働は顕著で、脳・心臓疾患による労災支給決定件数は、すべての業種のなかで道路貨物運送業が最多となっていました。そのような現状を改善すべく改正が行われました。

改正の概要

改正の目玉は以下の2点です。

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・ドライバーの拘束時間が短縮される
・勤務の間に必要な休息期間が延長される
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まずは、拘束時間休息期間の定義からご説明します。

拘束時間

一般的に「労働時間」と呼ばれるもので、始業時刻から終業時刻までの時間を指します。労働時間は以下の2つに分類されます。

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1.作業時間:運転時間、車両を整備したりする時間
2.手待ち時間:トラック運転手の荷待ちの時間、バスやタクシーの運転手の客待ち時間
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■ 手待ち時間の給料、もらえてますか?
手待ち時間については「会社の指揮命令下にある」と評価されれば給料を支払う必要があります。しかし、支払っていない会社があります。

ドライバーの事件ではありませんが、最近の判例では、駐車場の点検業務を行う方が「顧客から電話があれば対応しなければならないのに、その待機時間について給料が払われていない!」と提訴した事件があります。この事件では、従業員の給料請求が一部認められました。(システムメンテナンス事件:札幌高裁 R4.2.25)

拘束時間には、上記の労働時間だけでなく休憩時間も含まれます。休憩時間も完全には心が解放されていませんもんね。

■ 休憩時間も給料をもらえる可能性がある
休憩時間も何だかんだ電話対応する必要があったりする場合は、給料を請求できる可能性があります。

ドライバーの事件ではなく、薬剤師さんのケースですが、裁判所が「休憩時間になっても30分くらいは顧客対応してたよね。この分、残業代を払え」と判断したケースがあります。(日本ケミカル事件控訴審:東京高裁 H29.2.1)

「休憩時間でも来客対応しなさいよ」と暗にプレッシャーがかけられていたようです。

判決文より引用

ドライバーの方も【手待ち時間】と【休憩時間】について、ケースによっては給料請求できることがあるので、頭の片隅に置いていただければと思います。

休息期間

休息期間とは、勤務と次の勤務の間の時間を指します。仕事が終わって翌日会社に行くまでの時間を想定してもらえればと思います。会社から完全に解放されている時間のことです。

ドライバー別

以下、ドライバー別に改正の概要をご説明します。

タクシー運転手

・1か月の拘束時間
288時間が限度

・1日の拘束時間
13時間が基本(延長する場合は15時間が限度。14時間超の拘束は週3回までが目安)

・1日の休息期間
勤務終了後継続して11時間与えるよう努めることが基本。9時間を下回らないことが必要

以上は日勤勤務者のケース。隔日勤務者はやや変則的となります。詳しくは自動車運転者の労働時間等の改善のための基準をご参照ください。

トラック運転手

・1年の拘束時間
3300時間が限度

・1か月の拘束時間
原則として284時間が限度

・1日の拘束時間
13時間以内が基本。延長する場合であっても15時間が限度。なお、1日の拘束時間の延長については、14時間を超える回数は1週間につき2回を目安としなければならないとの制限あり。

・休憩の分割
勤務終了後、継続して9時間以上の休息期間を与えることが困難な場合には、一定期間(1か月程度)における全勤務回数の2分の1の回数を限度として、1回当たり継続3時間以上、2分割する場合は合計10時間以上、3分割する場合は合計12時間以上の休息期間を、拘束時間の途中および拘束時間の経過直後に分割して与えることができる(休憩を分割して与える場合は、3分割が連続しないよう努める必要あり)。

労使協定を締結した場合には、1年の拘束時間を3400時間、1か月の拘束時間を310時間(年6か月まで。284時間超は連続3か月まで)まで延長することができます。

バス運転手

拘束時間については、下記のどちらかを選択できます。

・1年3300時間以内および1か月281時間以内
・52週3300時間以内および4週間を平均した1週間当たり65時間以内

1日の休息期間は、勤務終了後に継続11時間以上が基本で、9時間を下回ってはいけません。

最後に

ドライバーの安全を確保するための改正ですが、「もっと働いて稼ぎたいのに...」と思っているドライバーの方には痛手となるでしょう。

そんな方は、上述したように、

手待ち時間の給料をもらえる可能性がある
休憩時間に顧客対応しているなら給料をもらえる可能性がある

ことを頭に置いていただければと思います。

さらに、制服に着替える時間の給料ももらえる可能性があります。引っ越し作業員やドライバーが会社を訴えた事件(アートコーポレーションほか事件:東京高裁 R3.3.24)のほか、IKEAも、制服への着替え時間分の給料を払うことを決めたようですし、これが法律に従った対応であり社会の流れとなっています。

▼ 相談するところ
労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。

今回は以上です。これからも労働関係の知恵をお届けします。またお会いしましょう!

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