住民を守った入念な事前の備え「地域のつながりで命を救う」能登半島地震 最北端の町は【わたしの防災】

家屋の倒壊が相次ぎ、津波が到達した能登半島地震。その中で、犠牲者を出さずに乗り越えた地区がありました。住民を守ったのは入念な事前の準備でした。

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<坂口将也記者>(石川・珠洲市 1月18日)
「能登半島の先端に位置する珠洲市狼煙町の漁港に来ています。こちらには流された網などが散乱していて、津波の恐ろしさを物語っています。さらに奥を見てみますと流された船が転覆した状態となっています」

<津波の映像>
「見て、うちに…。きたきたきた波」

能登半島の最も先端に位置する、珠洲市・狼煙町(のろしまち)。景色が良いことで知られるこの町には、大きな揺れから5分足らずで津波がやってきたと、この地区の区長はいいます。

<狼煙町地区 糸矢敏夫区長>
「この辺ででかい揺れが起きて、耐えてた。波乗りの状態。あの辺の住宅がこんな感じ。ひし形に」

約50世帯100人が住むこの地区でも多くの木造住宅が倒壊しました。

<狼煙町地区 糸矢敏夫区長>
Q.怖くなかったですか?
「怖いというよりも、ともかく(家族が心配で)家まで行かなきゃという気持ちが強かった」

さらに海にも異変がありました…。

<狼煙町地区 糸矢敏夫区長>
「(本来は)これ海の中、波打ち際はこの辺。ずっと波打ち際はこの辺。(今までは)これが全部海。風景がこんだけ変わったら…。仕方ないけど…」

海岸線が沖に移動し、景観が一変してしまいました。地盤は約1.5メートル隆起したといいます。

地震の直後、津波を心配した住民たちは急いで高台の避難場所に逃げました。しかし、高台に着いたところで、ただ一人、80代の女性の姿がないことが分かったのです。慌てずに安否確認ができたことには理由があります。

<狼煙町地区 糸矢敏夫区長>
「これが自主的に使っている名簿です」
「(名簿で確認したら)1名いないと分かって『あそこ家が潰れとる、生き埋めになっとらんか』ということで」

この地区では災害時の安否確認の為、5年前に名簿を作成。今回、この名簿が1人の命を救いました。

<狼煙町地区 糸矢敏夫区長>
「家が潰れて、幸い隙間があって、電話したら繋がって「どこにおる?」って言ったら、「逃げられない。出られない」というので、誰か4,5人で行ってと言って行ってもらった。漏れずに安否確認ができた」

1人の犠牲者も出なかった狼煙町。

地域防災に詳しい専門家は、地域のつながりがあったからこそだと分析しています。

<静岡大学防災総合センター 岩田孝仁特任教授>
「元々この地域は、人と人のつながりが非常に、コミュニティが強い、絆が強い地域。声を掛ける、声を掛け合うということで、命を取り留めることが十分できる訳ですから、そうしたところを確認しておいて頂ければ」

また、住む地域の特徴を知っておくことも重要だと話します。

<静岡大学防災総合センター 岩田孝仁特任教授>
「地域によって特徴は色々ある。自分たちの地域でどんな大地震や洪水の時にどんなことが起こりそうかというのを、自分たちの地域の特性に踏まえて、皆で話し合って考えて実行して頂ければ」

<坂口将也記者>
いつ起こるか分からないのが災害ですので、自宅にいる場合、会社にいる場合など、あらゆるケースを想定して避難の選択肢を複数持っておくことが重要だと感じました。

犠牲者が出なかった狼煙町ですが、取材した糸矢区長は町の今後について不安を漏らしていました。

<狼煙町地区 糸矢敏夫区長>
「こんな道路状況、こんな被災状況では観光に来てもらえる人は少ない。そうなると、住むところと仕事がなかったら、皆、出ていってしまう」
Q.狼煙地区の今後は?
「非常に厳しい。考えると」

<坂口将也記者>
狼煙町が日常を取り戻すのにはまだまだ時間がかかりそうです。大きな災害を乗り越えるには事前の備えはもちろん、まち全体の活力も必要だと感じました。

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