能登半島地震、救援活動に100人招集…普段は“民間人”「予備自衛官」の素顔とは?

編成完結式に臨んだ即応予備自衛官ら(提供:統合幕僚監部)

救援活動が続く石川・能登半島地震の被災地。防衛省・自衛隊は統合任務部隊(隊員1万人態勢)を編成し、全力で活動にあたっているが、普段は企業等で働く民間人の即応予備自衛官、予備自衛官も尽力していることはあまり知られていないのではないだろうか。

被災地での活動を終えた予備自衛官らに話を聞いた。

自衛官に「心残り」ないように

海野幸人さん(予備准陸尉)は、現役の陸上自衛官時代に阪神・淡路大震災(1995年1月)、地下鉄サリン事件(同3月)などでの災害派遣出動を経験。定年退官後の2016年11月に予備自衛官に就き、今年で8年目を迎える。

「(常備自衛官が)有事の際に後顧の憂い(心残り)なく全力で任務につけるよう後ろ盾になりたい」と予備自衛官を志した動機について語る。

部隊に号令などを発し士気を高揚するラッパ手も務めていた経験も生かし、「トリトン海野」の芸名で芸能活動を行っている海野さん。任命されて以来、毎年欠かさず5日間の訓練出頭を続けている。

普段は“ラッパ芸人”として活躍する海野さん(撮影:榎園哲哉)

「役立ちたい」「社会貢献」招集に応じた予備自衛官らの思い

後顧の憂いがないように、という互助精神は予備自衛官に共通している。職場の休暇等を取り被災地で10日間、衛生支援にあたった看護師の中尾玲子さん(予備1陸尉)はこう振り返る。

「必要な医療が受けられない方や被災して精神的苦痛が大きい方のお力に少しでもなれればと思い招集に応じた」

現地では避難所での巡回診療、介助・生活保健指導、内服薬の配達、避難所へ避難するよう勧める交渉などにあたった。

「自身が要援助者にならないよう、傷病対策や自己管理にもっとも留意した」と振り返る一方、「避難民の方々の自分たちが、つらいのにもかかわらず前を見て笑顔で過ごすよう頑張られている姿が大変印象に残った」と語った。

「ぜひ役に立ちたい」と招集に応じた同じく看護師の高岡幸美さん(予備1陸尉)も衛生支援にあたった。

避難している人たちへの言葉遣いなどにも配慮しつつ、孤立集落へ移動衛生班として出向いて診療、避難のためのヘリコプターへの移動介助、体調不良者の有無の確認、地域の人たちとのコミュニケーションに尽力した。

医師の辻成佳さん(予備2陸佐)は、「社会に貢献するため」招集に応じた。

海自輸送艦「おおすみ」、空自小松基地を拠点とした孤立地区への空路(ヘリ)による衛生支援(医療)、巡回診療などにあたり、「陸上自衛隊衛生班として参加させていただくとともに、海上自衛隊、航空自衛隊の衛生班(移動衛生隊)と共同でミッションを行えたことが印象的だった」と振り返った。

出発する即応予備自衛官を乗せた車両(提供:統合幕僚監部)

弁護士も採用されている予備自衛官制度とは?

主に退官した元自衛官らが就く「予備自衛官」は、細かく三つに分けられる。

「即応予備自衛官」は勤務期間1年以上・退職後1年未満の元陸上自衛官等が対象。年間30日間(2~4日程度を複数回)の訓練に参加し、有事の際には、第一線部隊等の一員として常備自衛官とともに任務に就く。

「予備自衛官」は勤務期間1年以上の元陸・海・空自衛官が対象。年間5日間(3日、2日の分割可能)の訓練に参加し、第一線部隊の出動時に、駐屯地の警備や後方支援等の任務に就く。

これら二つに対し、「予備自衛官補」は自衛官の勤務経験がない民間人が応募できる。

一般と技能の採用があり、技能は衛生、語学、整備など12区分。法務の区分もあり弁護士も採用されている。一般は50日間(3年以内)、技能は10日間(2年以内)の教育訓練を修了すると予備自衛官に任用される。

招集に対し約4倍の応募者

自衛隊法では、第5章第5節各条において「予備自衛官等」が法的に位置付けされている。今般の能登半島地震でも同法に基づいて1月5日、予備自衛官の災害招集命令、即応予備自衛官の災害等招集命令が発令され、最大約100人(陸自中部方面隊に所属する予備自衛官約10名=衛生の技能区分=、即応予備自衛官約90名)が招集された。

報道によると約100人の招集に対し、およそ4倍の400人以上からの応募があったという。

即応予備自衛官および予備自衛官は、普段は企業等に所属している人が多いため、派遣には雇用企業等の協力も必須となる。木原稔防衛大臣は1月9日の記者会見で「関連する企業等の皆様方にご協力いただいていることに感謝を申し上げます」と謝意を示した。

志願した動機を「大義」と語った医師(予備3陸佐)は、巡回診療、患者搬送、要救助者の捜索などにあたり、「突然のことでDMAT(災害派遣医療チーム)等も混乱気味なのか連携が取りにくくなったことがあり、我を出し過ぎるとかえって被災者の迷惑になることを知った」と振り返る。

自己のみならず他者のために。国と国民を守るために。さまざまな職種、勤務場所で働く民間人の予備自衛官が今この時も、招集発令に備えている。

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