人知れぬ苦労と努力が実った日……日本レースクイーン大賞2023グランプリ松田蘭が抱いていた想い

 2023年度も東京オートサロンのイベントステージで表彰式が行われた「メディバンネップリ日本レースクイーン大賞2023」。2023年の人気No.1レースクイーンとなるグランプリにはスーパーGTでZENTsweeties、スーパー耐久では公式イメージガールSwishを務める松田蘭さんが輝いた。

「トップレースクイーンの証であるグランプリを獲りにいきます!」

 昨年12月15日に行われたファイナルステージ前のPR放送で、こう力強く宣言した松田さん。トップレースクイーンになりたいという想いを胸に全力で活動してきた彼女の努力が、まさに結果となって表れた瞬間だった。

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■様々な想いが込み上げた発表の瞬間

「名前を呼ばれた最初の瞬間は『本当に私?』という気持ちが大きかったです。ずっと『トップレースクイーンになりたい』という夢は持っていましたけど、ネガティブに考え込みやすい性格なので『きっと自分ではないんだろうな、他の人の名前が呼ばれるんだろうな』と思っていたところもありました」

 そう語る松田さん。2022年のグランプリである名取くるみさんから名前を呼ばれてから、トロフィーを受け取るまでの間は、様々な想いや感情が頭の中を駆け巡ったという。

「私は本気でレースクイーンっていう仕事に向き合って、このお仕事が大好きで、モータースポーツの魅力にすごく引き込まれて、それをレースクイーンの立場から発信したいというふうに思うようになりました……」

「誰よりも誠実にやっている自信はすごくありましたし、仕事に対する熱意は本当に誰にも負けないと思っていました。だけど、性格的に『自分ではないんだろうな』という思いもどこかにありました」

「だから、『え? 今、松田蘭って言った??』みたいな……(苦笑)。でも、信じてやってきてよかったなっていう気持ちと、これまで“幸せ”ということはあんまり使ってきたことがなかったんですが、すごく幸せだなと感じました」

 ファイナルステージ進出は昨年に続いて2度目の松田さんだが、2023年シーズンは“絶対に獲らなければいけない”という決意で臨んでいた。

「もちろん、出るからにはグランプリを獲りたいと思っていましたが、そこに自分自身の実力が伴っていないと結果を残すことは難しいです。それがいつなのか考えていましたが……、2023年シーズンで立川さんが引退発表をされて、ZENT CERUMOが最後になってしまいました」

「なおかつZENTsweeties3年目でリーダーを務めている私が挑戦しないわけにいかない。『絶対に(グランプリを)獲るしかないじゃん!』と……余計に気持ちに拍車がかかって、奮い立たせられましたね」

 今回の日本レースクイーン大賞投票期間中に、2023年いっぱいでZENTがTEAM CERUMOのメインスポンサーを終了するというニュースがあった。実は松田さんも、12月12日(ファイナルステージ前PR放送の3日前)のプレスリリースでそれを知ったとのこと。ZENT CERUMOへのチーム愛が人一倍強い松田さんにとっては、絶対に負けることが許されないファイナルステージとなっていたのだ。

グランプリ獲得の喜びを語る松田蘭さん

■今のZENTsweetiesを知ってほしい

 松田さんは2021年にZENTsweetiesのメンバーとなり、3年目となる2023年にはリーダーに就任。より注目度が増すシーズンを過ごした。しかし、加入当初はファンとの交流に大きな制限がかけられていた“コロナ禍”だったということ、歴史と伝統のある同ユニットがゆえに、たくさん悔しい思いをしたという。

「毎年、3月8日は『38号車の日』って、SNSで盛り上がる日があるんですけど、その時はコロナ禍にZENTsweetiesになった私たちよりも、歴代の先輩たちの方が印象に残っている方がすごく多くかったのを覚えています」

「歴史あるユニットだからこそ、すごい先輩たちをたくさん輩出されていますし、私も皆さんのことをとても尊敬しています。だからこそ、今年のZENTsweetiesも見て欲しいという気持ちが強くて……。『2021年のメンバーは私たちなのに、みんなに知られてもらえてない』ということが悔しかったです」

「そこから3年間やっていく中で、途中からコロナ禍も終息して行きましたが、そこで『最近のZENT Sweetiesのことを知らない』という人が多いということを感じました」

「やっぱり伝統を守り続けたい気持ちもすごく強かったし、自分もZENTsweetiesになったからには、チームの魅力とか、今の様子とか、レースクイーンはどういう気持ちでやっているかとかどういう子がいるんだとか、いろんな時代に合わせて知っていってもらいたい気持ちがすごく強くなっていって……」

 当時の悔しさを思い出したのか、時より険しい表情になりながらも語ってくれた松田さん。そこで自分たちの代を知ってもらうために“手書きのメッセージ配り”を始めたという。

「例えば『TGR TEAM ZENT CERUMOを応援するZENTsweeties 2023の松田蘭です、今年何年目になりました。今リーダーやっています!』とか。例えば富士だったら『富士ラウンド一緒に楽しみましょう! 富士はZENT CERUMOが得意とするコースなので、皆さん一緒に応援してください!』みたいなことをすべて手書きで何枚も書いて、配りまくりました」

「爪痕を残したいというわけではないですけど、私もZENTsweetiesの一員に認められたかった。3年間やっていくなかで、チームへの愛情がどんどん大きくなっていましたからね」

「でも、これをやって私たちのことを知ってくれる人も増えました。みんなと違うことをしないと印象に残らないなと思って……『これはやるしかない!』と思って、やりきりました」

 こうして“ZENTsweeties 松田蘭”のファンを増やしていき、日本レースクイーン大賞の投票シーズンに突入したのだが、今度は“今の時代のレースクイーン”だからこその葛藤が彼女を襲う。

ZENTsweetiessレジェンドの山﨑みどりさん(右)と川村那月さん(左)に祝福される松田蘭さん(中)

■良い部分も悪い部分も経験したSNSの影響力

「私は心がそんなに強くないタイプだし、まわりからの評判をすごく気にするタイプなので、(投票期間中は)すごく苦しかったです」

「やっぱりSNSの時代になったからこそ、いろいろなコメントがダイレクトに伝わってくるので、結構気にしちゃいました」

 SNSは情報を手軽に入手できる便利な側面がある一方で、信憑性の少ない噂話も、まことしやかに拡散されてしまう特徴もある。

 そのネガティブな方を意識してしまい、苦しむこともあったという松田さん。しかし“ある出来事”がきっかけとなり、自信をつけるようになった。

「(投票期間中に)私の画像とともに投票のURLを載せて呼びかけをしていましたが、自分だけではなくて『私の写真を使って一緒に発信してくれたら嬉しいです』とファンの方にもお願いしていました。そうしたら、みんなが今までサーキットで撮ってくれていた私の写真を使って、バンバン投稿してくれて、それがどんどん広がっていって、ファイナルステージの序盤あたりに“松田蘭”ってトレンド入りしたんです!」

・Xでトレンド入りした時の松田さんの投稿

 その後もファイナルステージの序盤や、最終日にも「#松田蘭」がX(旧Twitter)のトレンド入りを果たした。

「Xとかインスタグラムがなかった時代は、レースクイーンとはサーキットでしか会えないから、そこに来てない人の目には届かなかったです。だけど、この時代のレースクイーンとして感じるのは、SNSがあるからこそ、サーキットに来てない人、まだ興味を持ってない人にも(魅力を)届けられる可能性があるポジションにいるんだなと。これが、今の時代のレースクイーンだからこそできる“発信の仕方”のひとつなのかなと思いました」

 こうして、松田さんに票が集まっていき、見事トップレースクイーンの証とも言える日本レースクイーン大賞グランプリの座を勝ち取った。

ZENT CERUMOのドライバーを務める石浦宏明がサプライズで祝福に

■モータースポーツを好きになるきっかけは何でもいい

 ここまでトップレースクイーンになることを目指してがむしゃらにやってきたぶん、グランプリ獲得の余韻に浸っていた様子の松田さん。ただ、今後の目標については明確で、自身も大好きなモータースポーツをより多くの人に知ってもらう存在になりたいという。

「今までも『グランプリを獲ったら、次は何がしたいの?』とよく聞かれました。今グランプリを獲って思うのは、私はレースクイーンになりたくてレースクイーンになったので、モータースポーツの魅力に私が引き込まれたように、モータースポーツの魅力を発信できる人間になりたいです」

「私をきっかけに『レースを見てみようかな』『このチームを応援してみようかな』と思ってもらえれば嬉しいです」

 先述で触れた投票期間中に松田さんの名前がXでトレンド入りした。この時に嬉しさと同時に“ひとつの可能性”を見つけたという。

「(トレンド入りした時に)もちろんレースクイーン大賞のことも大事だけど、松田蘭という名前を経由してモータースポーツを好きになってくれる人が増えるチャンスだなと。『これってモータースポーツのことを広められるチャンスじゃん!』と思いました」

「それが自分のこと以上に、モータースポーツの面白さに触れてくれる人が多くなっているんじゃないかっていうワクワクの方が大きくて、めちゃくちゃ嬉しくなりました!」

「そうやって『SNSのトレンドから飛んできた』とか、『この子ちょっとかわいいなと思ったから』とか、このコスチュームの女の子を撮ってみたいなとか。そんな『会いたいな』や『かわいいな』くらいで良くて、(モータースポーツを好きになる)きっかけ何でもいいと思います」

 トップレースクイーンとして、自身が携わるチームやスポンサーのみならず、モータースポーツ界全体を盛り上げていってくれる存在になりそうだ。

 そして、彼女の口から何度も出てきた「モータースポーツを好きになるきっかけは何でもいい」という言葉。それを体現しているのが、他でもない松田さん本人なのだ。

「私とふたつ歳が違う従姉妹がいました。その家族がモータースポーツ好きで、家族でよくサーキットに行っていました」

「小学生の頃だったと思うですが……、その従姉妹と遊んだ時に『この前のお休みはどこに行ってきたの?』みたいな話になって、その子がレースクイーンのお姉さんと一緒に写っている写真を見せてくれたんです。私は、そのレースクイーンのお姉さんを見て『(人気アニメの)プリキュアみたいで可愛い!』と言っていたのを覚えています」

「キッズウォーク中などはレースクイーンのお姉さんが常にそばにいてくれていたらしくて、チームの人にもすごく良くしてもらったと聞きました」

「従姉妹はもともと心臓が悪くて、もう亡くなってしまったのですが、亡くなった後のレースで、あるチームが彼女を偲んで黒の喪章を付けてレースして頂いたと聞きました……。それに私はすごく感動して、『こんなに良くしてもらったから、いつか恩返しがしたい』という想いで(レースクイーンの仕事を)始めています。だから、こんなに熱量を持って仕事ができているのかもしれません」

「その従姉妹がレース好きだったかどうかはわからないけど、きっかけはその子のおかげです。一緒に写っていたレースクイーンのお姉さんたちが『プリキュアみたいだな』と憧れたのが最初でした。きっかけなんて正直それくらいなんですよ」

「だから、どんなきっかけでもいいから……モータースポーツに興味持ってくれる人が増えたら嬉しいです」

 松田さんのコメントにもあった通り、レースクイーンになるきっかけをくれた従姉妹は、何年も前に天国へ旅立ったとのこと。その親戚ご家族は、今回の表彰式が行われたイベントホールに来場していたという。

 その従姉妹も……グランプリトロフィーを受け取る松田さんの姿を天国から見守り、きっと誰よりも喜んでいるのではないだろうか。

グランプリを獲得した松田蘭さん

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