知性を感じるスーパーカー マクラーレン「アルトゥーラ」

イギリスを代表するF1の強豪チーム、マクラーレン。長らくレーシングを専業として歴史を積み重ねてきた同社のロードゴーイングモデルは、2011年に登場した「MP4-12C」だ。その基本的な構成はF1マシーンにも通じるカーボンファイバー製のモノコックタブを核とし、ドライバーの背後にV8ターボエンジンを搭載したミッドシップ2シーターモデルである。

今回試乗した「アルトゥーラ」は新開発の3.0リッター、V6ターボエンジン搭載で、パワーユニットがバッテリーとモーターを備えたプラグインハイブリッド(PHEV)となっている点は見逃せない。

日本の路上で対面したアルトゥーラは思っていたよりもコンパクトに見えた。このクルマのために新開発されたカーボン製のモノコックを使用した車体全長は4539mm。「750S」の4569mmと比べも30mmと大差はないが、ボディには派手なエアロパーツもなく、ギュッと引き締まって見える。ちなみに全長の30mmという差はそのままホイールベースの差だ。

スタイルは最新のスーパースポーツカーそのものだが、それでも機能を優先して描かれたボディラインはイタリア製のライバルに比べれば控えめであり、ステアリングを握る人物を知的に見せてくれそうだ。

マクラーレンの象徴である斜め上方に跳ね上がるディヘドラルドアからコクピットに滑り込み、電源をオンにする。コクピットの全体のしつらえは、マクラーレンの伝統にのっとったドライバー中心のレーシングライクなもの。レザーが張り込まれたバケットシートのホールド性は高く、視界も良い。ブレーキペダルの踏み心地は硬く、レーシングマシーンを彷彿とさせる。

21世紀のスーパースポーツカーはスターターを押した瞬間、エンジンが盛大に吠える習慣があるが、ハイブリッドのアルトゥーラは静かに目覚め、走り出す。ちなみに「Eモード」と呼ばれる走行モードでは、ドライバーのお尻のすぐ後ろ、低い位置に搭載されたリチウムイオンバッテリーとモーターにより約30kmのEV走行が可能となっている。だがバッテリーによる静かな走行は、マクラーレンの最新のスーパースポーツであるアルトゥーラの仮の姿でしかない。スロットルを深く踏み込むとV6エンジンが少しラフな排気音とともに回りだし、パワーがあふれ出す。

2基のターボで過給されたV6エンジンは585psを発揮。そこにモーターの95psが追加されることで最高出力は680psに達する。これはV8エンジンを搭載したこれまでのマクラーレンに比肩するスペックだ。「コンフォートモード」では乗り心地も柔らかく、バッテリーに余力があれば低速走行時はエンジンを切ってEV走行を巧みに織り交ぜる。一方「スポーツモード」と「トラックモード」では、エンジンとモーターを総動員して桁違いのパフォーマンスを見せつける。特徴的な点は、ターボラグ(ターボエンジン特有のパワーが発揮できない領域)の谷間をモーターのパワーがきれいに埋めていること。このため低回転から淀みなくパワーが続く。

スーパースポーツカーをハイブリッド化すると、CO2排出量が下がり、必要とあらば盛大な騒音も消すことができてエコな印象を与える。アルトゥーラはそれだけでなく、核心ともいえるパフォーマンスを伸ばす効能も兼ね備えている。最先端のマクラーレンは知的であると同時に、クルマ好きの欲望に忠実に応えてくれる一台だ。

マクラーレン アルトゥーラ 車両本体価格: 3070万円(税込)

Text : Takuo Yoshida

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