勝てないのはジャッジのせいばかりじゃないと思う…/原ゆみこのマドリッド

[写真:©Real Madrid]

「今週は楽できるわね」そんな風に私がホッとしていたのは火曜日、相変わらず、ミッドウィークはコパ・デル・レイ真っ盛りとはいえ、前ラウンドの16強対決ではマドリッド勢3チームが敗退。まだ息が抜けないのはアトレティコだけなのに気がついた時のことでした。いやあ、といってもこれは痛し痒しというか、リーガの方を考えると、先週、メトロポリターノでのコパダービーに延長戦で負けたお隣さんの1人勝ちみたいになっていて、6位までのチームでコパ準々決勝がないのは彼らだけ。つまり勝ち点差1で単独首位のジローナは水曜にマジョルカと、7差下にいる3位のバルサも同日、5位のアスレティックとのガチンコ勝負となり、火曜には6位のレアル・ソシエダがセルタを0-2で下して、一足早く勝ち抜けていますからね。

その間、平日がフリーとなるレアル・マドリーは月火を休養日にして、水曜から、土曜のラス・パルマス戦に向けた練習を始めるんですが、え?てことはそのせいで、直近アルメリア戦でのVAR(ビデオ審判)疑惑の話題が週末まで続くんじゃないかって?うーん、アンチェロッティ監督のチームに有利に働いた3件に加え、実際、週明けにも新たに試合中には問題にされなかった、ビニシウスがアルメリアのポソの顔にcodazo(コダソ/肘打ち)を見舞ったシーンや、その逆バージョンでチュミがセバージョスを叩いたシーンのVAR通信オーディオの漏洩があったりと、もう私も何が何だか、わからなくなってきたんですが、こればっかりはねえ。

その辺はまたおいおい、お話しすることにして、とりあえず、先週末のマドリッド弟分たちの試合から見ていくことにすると。21節のトップを飾ったのは、土曜の午後2時にラス・パルマスをエスタディオ・バジェカスに迎えたラージョで、ええ、彼らの懸念は水曜にジローナに負けたコパ16強対決から、たった64時間しか、間が空いていなかったこと。ただ、ローテーションは結構していましたし、前半から活発に攻めていたんですが、どうにもフランシスコ監督のチームはシュートが決まらないんですよ。それもあって、35分、ルジューヌの危険なバックパスをGKディミトリエフスキが慌ててエリア外に蹴り出したところ、そのボールを受けたモレイロにシュートを決められ、ラス・パルマスに先制されてしまうことに。

ラージョの決定力のなさは後半になっても改善することなく、ええ、先発したカメージョに代わってエヌテカ、更にはデ・フルートスやファルカオも入れてみたんですけどね。追いつけずにいた36分、アルバロ・ガルシアが2枚目のイエローカードで退場してしまってはもう、どうしたらいいっていうんでしょう。結局、38分にもカルドナのクロスから、ハビ・ムニョスのvolea(ボレア/ボレーシュート)で2点目を奪われたラージョはそのまま0-2で完敗。またしても今季、ホーム2勝目を挙げるのに失敗することに。

一方、日曜午後2時にエル・サダルでオサスナに挑んだヘタフェも逆境に遭っていて、いえ、こちらは3人も出場停止選手がいましたからね。火曜にセビージャに負けたコパの影響もあったか、あまり覇気のなかった前半9分にはラウール・ガルシア、31分にもイケル・ムニョスにゴールを決められ、2点リードされて折り返したんですが、後半になって盛り返したんですよ。19分、とうとう今季初先発となったエネス・ウナルのラストパスから、マジョラルが久々にゴールを挙げ、今季リーガ13得点とすると、23分にもCKから、マクシモビッチのヘッドであっという間に同点に追いついたんですが、まさか、オサスナのアレソに一世一代のウルトラCゴールを決められてしまうとは!

それは35分、ジョルディ・マルティンにコーナーに追い詰められていた彼だったんですが、そんな位置から撃ったボールがファーサイドのポストに当たって、ゴールになってしまったとなれば、もう脱帽するしかありませんって。いえまあ、当人も「He pensado en un centro-chut y me ha salido dentro/エ・ペンサードー・エン・ウン・セントロ・チュート・イ・メ・ア・サリードー・デントロ(クロス風シュートを考えたら、中に入った)」と告白していたため、もうこれは運も実力のうちとしか言えないんですけどね。あまりのミラクルゴールに選手たちもショックを受けたか、そのままヘタフェは3-2で負けてしまいましたっけ。

まあ、要はコパとリーガで2連敗してしまった弟分たちなんですが、おかげでコパ準々決勝のハードスケジュールから逃れられたものの、今週末からの1週間は彼らだけのイレギュラーなリーガ3連戦に突入しますからね。そう、来週ミッドウィークには兄貴分たちがスペイン・スーパーカップでサウジアラビアに行っていたせいで、延期となっていた20節が組まれているため、13位に落ちてしまったラージョは土曜のレアル・ソシエダ戦、水曜のアトレティコ戦をアウェイでこなし、翌週月曜のセビージャ戦でようやく、ホーム2勝目への挑戦が叶うことに。

10位のヘタフェはヨーロッパの大会出場圏6位との差を勝ち点9に広げた状態で、日曜グラナダ戦と木曜マドリー戦をコリセウムで、最後は日曜にベティスとベニト・ビジャマリンで対戦。どちらも今季はもっと上を目指すのか、順位表の中盤で気楽に漂っていることにするのか、この3連戦がカギを握りそうなため、両チーム共、今週は気合を入れて準備してもらいたいところです。

そしてヘタフェの試合が終わったすぐ後、物議を醸しまくったサンティアゴ・ベルナベウでのアルメリア戦が始まったんですが、うーん、相手は今季まだ1勝もしていないダントツの最下位。マイボールで始まったキックオフ直後、センターサークルを出る前にもう、ボールを失っている程だったせいか、マドリーも油断をしましたかね。それが何と、ナチョが自陣エリア付近での短いパスを敵に贈ってしまい、43秒にはロベルトネスからラマザーニへのパスが通って、先制ゴールを決められていたから、ビックリしたの何のって。

対して前半中、まったくピリッとしなかったマドリーは、ええ、後でアンチェロッティ監督も「La primera parte fue muy mala. Valoré mal el entrenamiento de ayer/ラ・プリメーラ・パルテ・フエ・ムイ・マラ。バロレ・マル・エル・エントレナミエントー・デ・アジェール(前半はとてもヒドかった。昨日の練習の評価を私が誤った)」と反省していたんですけどね。どうやら、コパダービーの延長戦で疲労が溜まっていながら、「Todos quieren jugar y te dicen que están bien/トードス・キエレン・フガール・イ・テ・ディセン・ケ・エスタン・ビエン(皆がプレーしたがって、状態はいいと言う)」(アンチェロッティ監督)選手たちに騙されて、スタメン選びを間違えたよう。でもだからって、43分にもナチョがエドガーにボールを渡し、エリア前からgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)を決められてて、いい訳ないでしょうが!

さすがにこれはアンチェロッティ監督も腹に据えかねたか、0-2で入ったハーフタイムには珍しく、控え選手全員をアップさせることに。ただ、キックオフ前にはキャプテンとして、スペイン・スーパーカップ優勝のトロフィーをファンにお披露目していたナチョもミリトンに加え、アラバまでがヒザの靭帯断裂となってしまってから、出ずっぱりですからね。元々、レギュラーではないところに34才という年齢が加わって、疲労度も高ったんだと思いますが、後半頭から、そのナチョ、ロドリゴ、メンディはブライム、フラン・ガルシア、ホセルと交代します。

問題のVAR祭りが始まったのは7分からのことで、最初、主審はスルーしていたものの、フラン・ガルシアのクロスがホセルとリュディガーに挟まれてジャンプしていたカイキの腕に落ちたプレーが見咎められ、ハンドでマドリーにPKが与えられたんですよ。これはスペイン・スーパーカップ決勝のバルサ戦でビニシウスから、次はキッカーを任せるという言質を取っていたベリンガムが決め、スコアは1-2になったんですが、ふと気がつくと、16分にはアルメリアのカウンターがはまり、ラマザーニのアシストでアリバスが3点目のゴールを入れていたから、さあ大変!

でもねえ、またVAR注進が入ったんです。今度はプレーの起点となったロピがベリンガムの顔に肘打ちをしていたことが発覚し、RMカスティージャから今季移籍したアリバスの古巣恩返しゴールはないものとされてしまったんですが、アルメリア勢を怒り心頭に発せたのはその1分後のプレー。ええ、チュアメニのクロスをビニシウスがゴールに入れたところ、主審は腕によるものとして、最初は認めず。それがモニターチェックでVAR担当審判に肩だったと言い張られたのが影響したか、マドリーの同点ゴールになってしまったとなれば、もう泣くに泣けませんって。

うーん、実際のところ、腕だったか、肩だったかはリプレー映像でも微妙で、VARのいらぬお節介とも言えなくはないんですけどね。とはいえ、その後、ベリンガムが決めたゴールはフラン・ガルシアにオフサイドがあったとして、スコアに挙がらなかったにも関わらず、超ロングのロスタイム11分の9分目、お馴染みの土壇場のremontada(レモンターダ/逆転劇)となったのは、一重にマドリーのDNAに刻まれた根性の賜物かと。ブライムのクロスをベリンガムが落とし、カルバハルがゴール右前から押し込んだんですが、後でブライムも「Sabía que íbamos a remontar, era cuestión de tiempo/サビア・ケ・イバモス・ア・レモンタール、エラ・クエスティオン・デ・ティエンポー(逆転することはわかっていたよ。時間の問題だってね)」と言っていた通り、ベルナベウでのマドリーは決して侮れない?

うーん、またとない最高の舞台で今季初勝利に迫りながら、3-2で負けてしまったアルメリアが、「Nos vamos con la sensación de que nos han robado el partido/ノス・バモス・コン・ラ・センサシオン・デ・ケ・ノス・アン・ロバードー・エル・パルティードー(ウチは試合を盗まれた気がする)」(メレロ)と息巻いていたのもわかりますけどね。彼らが最下位なのは別にマドリーのせいだけではなし。残留ラインとの勝ち点差10を縮めるには残り17試合、死に物狂いでやるしかないかと。一方のマドリーはその後、セビージャに5-1と大勝した首位ジローナとの勝ち点差1を保ち、ええ、選手たちの連戦疲れも週末まで試合がないおかげで、しっかり回復できるでしょうしね。ライバルたちがコパに明け暮れている間、リーガでかっつり稼いでおくいい機会が巡って来たんじゃないでしょうか。

一方、そのマドリーのコパ敗退の元凶となったアトレティコは一応、お隣さんより1日、多く休めたんですけどね。月曜のグラナダ戦ではコケ、デ・パウル、サムエル・リノ、ヒメネスのローテーションもしていたんですが、まあ、選手たちの動きが前半、極めて鈍かったのは仕方なかったかと。実際、チャンスもモラタはシュートをGKバタジャにparadon(パラドン/スーパーセーブ)されたもののオフサイド、グリーズマンの一撃もゴールバーを叩きながら、直前のジョレンテのファールで無効と、ロクなもんじゃなかったんですが、相手も降格圏の19位にいるのには理由がありますからね。

特にオブラクも苦労することなく、0-0で始まった後半、アトレティコはジョレンテ、リケルメをデ・パウル、リノに交代。すると9分、グリーズマンが絶妙のクロスをエリア内に入れて、モラタがヘッドしたボールがネットに収まったんですが、何せ当人、オフサイド常習ですからね。VARチームもなかなか疑いを晴らせず、チェックに4分近くかかっていたんですが、ギリギリでセーフになってくれたから、助かったの何のって。とはいえ、次にモリーナのアシストで、サウールが決めたヘッドは同じくミリ単位でオフサイドとされてしまったため、最後の最後まで、相手の同点ゴールを恐れて過ごす破目に。

だってえ、アウェイゲームではここ4連敗しているアトレティコなんですよ。3カ月もの間、近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)で爪を噛みながら、試合を見ていた身となれば、たとえ、相手がアスレティックやバルサ、ジローナといった上位チームでなくたって、まったく安心なんかできる訳ないじゃありませんか。その後も点差は一向に広がらなかったものの、この日のシメオネ監督にはローテーションも大切な課題だったか、31分にはモラタとサウールをコケと、この冬の市場でサルジアラビア行きが近いと言われているコレアに交代。

実を言うと、最後にバリオスと代わったヒメネスがロスタイムにオブラクへ頭でバックパスしようとして、ボールが手に触れるアクシデントもあって、ドッキリさせられたんですけどね。この日のVARはアトレティコに太っ腹。ええ、グラナダ勢の猛抗議にも関わらず、ペナルティにはされずにそのまま、試合は0-1で終了することに。頼りのグリーズマンが延長戦に続き、この日もフル出場となったのは気になったものの、「Necesitábamos volver a tener la portería a cero/ネセシタバモス・ボルベル・ア・テネール・ラ・ポルテリア・セロ(ウチには失点0の試合が必要だった)」というシメオネ監督を満足させる結果となりましたっけ。

これでアウェイ連敗も解消され、順位もCL出場圏の4位に戻れたアトレティコだったんですが、どうにも木曜午後9時(日本時間翌午前5時)からのコパ準々決勝セビージャ戦を前にして、人事異動が活発になってきたようでねえ。まあ、日曜にマドリッドに着いたモルドバン(ラピド・ブカレスト)はプレミアリーグへの移籍が決まりそうな控えGKゲルビッチの代わりですから、別にいいんですが、その他は出る方ばっかりというのはちょっと心配。ええ、コレアに加え、ハビ・ガランはビジャレアル転じて、レアル・ソシエダへのレンタルが、ソユンチュもフェルネバフチェ行きが濃厚になって来たため、月末には辻褄を合わせるとしても、そんなにチームの人数を減らしていいのかどうか…そうそう、日曜にはアフリカ・ネーションズカップでモザンビークのグループ敗退が決まり、レイニウドが近日中に帰って来るのは嬉しいニュースですかね。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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