希少な植物の観察を通して、受刑者が身近な自然や自己を見つめ直すプロジェクトを、栃木県さくら市喜連川の喜連川社会復帰促進センターが実施している。豊かな自然環境を生かした取り組みで、全国の刑務所で初めてという。1年目の本年度は20~50代の男性13人が参加。四季折々の植物に触れながら、命の尊さや学ぶ楽しさを実感する姿もみられ、自己肯定感の向上や再犯防止につながると期待されている。
目を凝らして植物を観察し、スケッチする。「ザラザラしている」などと特徴も書き記す。
受刑者が観察する場所はセンターの敷地内の一角。一見どこにでもある芝地だが、1メートル四方に10種類以上の植物が見つかることもある。除草剤を使わずに管理されてきたため、希少な在来種が生育している。
プロジェクトは、この環境に着目した法務省とセンターの運営の一部を担う小学館集英社プロダクション(東京都)が、環境団体の認定NPO法人アースウォッチ・ジャパン(同)に協力を呼びかけ、始まった。
福島大と宇都宮大から講師を迎え、昨年4月に観察を開始。ウシクサ、ネジバナ、ハナヤスリ…。受刑者は講師に植物の種類を聞いたり、図鑑で調べたりして学びを深めた。希少な植物を見つけ、講師陣を驚かせたこともあった。
「存在しているもの全てに理由がある」「視点を変えて新しい発見を探していきたい」。同12月下旬、同センターで開かれた発表会で、受刑者が気づきを報告した。ある受刑者は雑草を堆肥に変えるコンポストと刑事施設を重ね、「雑草が堆肥になるように、受刑者も壁の外で活躍できるようになってから釈放される。雑草魂を学んだ」と話した。
講師を務めた福島大の黒沢高秀(くろさわたかひで)教授(植物分類学)は「最初は不安もあったが、熱心に取り組んでもらえた。希少種の保全という意味でも意義深い」と語る。役割分担してグループ作業を効率よく進める姿は、学生さながらだったという。
岩崎裕之(いわさきひろゆき)センター長は「自身のことや社会の問題を自ら考えるなど、心の動きが見られた。更生に資する取り組みだと実感している」と期待を寄せた。