公立大学の附属高校新設は県内残留に有効か

2023年12月19日、山口県立周防大島高等学校(入学定員90名)が、2026年度より山口県立大学の附属高等学校となることについて正式に発表されました。このように、大学進学や就職するタイミングにおける県内残留を促進するために、公立大学に附属高校を新設する動きが出てきています。人口減少に伴い、公立高校の統廃合が進んでいるが、これをきっかけとして新設をしているようです。東京都、大阪府、兵庫県では、少子化対策、子育て支援などの目的で、高校や公立大学の授業料無償化が発表されているが、地方の県では、これとは異なった対策が出てきている。ここでは、公立大学の附属高校を設置、または設置予定の4県(山口県、奈良県、兵庫県、群馬県)を例にして、県内残留促進と公立大学附属高校について考えてみたいと思います。

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附属高校を設置(予定含む)する公立大学は全国で4大学

公立大学で附属高校を設置(予定含む)する大学は、山口県立大学、奈良県立大学、兵庫県立大学、高崎経済大学の4大学。高崎経済大学(公立大学法人)と高崎経済大学附属高校(高崎市立)は、運営母体が異なっていますが、他は大学高校ともに、設置者が公立大学法人となっています。

大学進学時の県内残留率をあわせて見てみると、全国ワースト1位になっている奈良県は、奈良県立大学に全国で初めて「県外流出を防ぐ」目的で、2022年4月に附属高校を新設しています。山口県立大学に新設される附属高校は、これに続くかたちとなります。兵庫県立大学の附属高校は、1994年開校と歴史が古く、設置された目的は県内残留ではないようです。また、他3大学とは異なり、附属中学校まで設置されています。

公立大学の中で、「地域」を含む学部学科を設置する大学は13大学あり、附属高校を設置(予定含む)する大学を除くと、11大学となります。「地域」を含む学部学科を設置する公立大学は、地元に貢献する人材養成を目的とすることが考えられ、附属高校を設置することで、県内残留の効果があると分かれば、今後新設する可能性があると考えられます。

山口県立周防大島高等学校、県立大学の附属高校に

山口県立周防大島高等学校(入学定員90名)が2026年度より山口県立大学の附属高等学校となることについて、その理由を、山口県立大学は以下の3点だと伝えています。

① 現在の教育活動・内容が、本学の全ての学科と教育的つながりがあり、本学が目指す高大7年間の一貫した教育理念による人材育成において大きな成果が期待。

② 地域課題の解決等に向けた様々な取組は、本学が行おうとしている「広い視野を持って課題解決に挑戦することの意義を理解させること」において有用であり、これまでの実績を活かした教育を展開できることからも、本学が目指す人材育成において大きな成果が期待。

③ 高等教育に接する機会が少なく他県への若者流出が多い県東部地域において、県央部に目を向けてもらうきっかけとなり、県外流出の防止が期待。

山口県立周防大島高校は2007年に周防大島内の2つの高校が再編統合して開校した島唯一の県立高校。普通科と福祉科の2科でスタートしましたが、2014年には、普通科を「特別進学・普通・環境」の3コース制に、福祉科を「地域創生科」に改編し、高齢化に対応する「福祉コース」や、島にUIターンしてきている起業家からアントレプレナーシップを学ぶ「ビジネスコース」を設置。山口県の県立高校で唯一、全国募集型となっています。県外から入学することができる人数は、原則として普通科・地域創生科ともに定員の20%としています。

地域留学のホームページによると、2023年度の生徒数は180名で、県外生徒数は26名。

周防大島町は、少子高齢化、人口流出などの課題に直面しています。そのため、人口定住や地域の活性化に向けた様々な取組を推進しています。

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奈良県立大学附属高校、2022年4月開校で、奈良県のために働いてくれる逸材を輩出する狙い

公立大学法人奈良県立大学は、県立西の京高校の校舎を利用して2022年4月より、附属高校を開校します。全国で唯一「探究科(入学定員200名5クラス)」の学科のみを置く高校で、これまで県立高校などではできなかった高大連携を進めることで、地元の高校生を他県に流出させない工夫を行い、奈良のために働いてくれる逸材を輩出する狙いがあります。課題探究型の学びを重視し、文系・理系を分けない学びや、ライフキャリア教育の推進など、教育内容も特徴的です。

最大50名の奈良県立大学へ特別推薦制度が用意されており、高校2年の終わりに志望して選考された「県立大学で学ぶコース」の生徒は、高校3年時に、週2日大学の講義を先取りで受けることができます。大学で取得する予定の単位を高校在学中に取得できるため、大学進学時に海外留学や課外活動などに充てられる時間が増えます。

奈良県立大学は、地域創造学部(入学定員150名)の単科公立大学。「観光創造」「都市文化」「コミュニティデザイン」「地域経済」、4つの学び領域が用意されています。

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兵庫県立大学附属高校、県立大学は大学院まで含めて無償化が発表されたが、人気が出ているとは言えない

兵庫県公立大学法人が設置する、兵庫県立大学の附属学校。併設型中高一貫校(入学定員 高校160名、中学70名)で、寮があるため、兵庫県内のすべての小学校区又は中学校区の在住者が進学できます。1994年4月、兵庫県立姫路工業大学附属高等学校として赤穂町に開校。2004年4月、 姫路工業大学・神戸商科大学・兵庫県立看護大学が統合されて兵庫県立大学となったことに伴い、兵庫県立大学附属高等学校に変更。2007年4月には附属中学が設立され中高一貫校となりました。

兵庫県立大学に特別推薦制度80名(工学部40名・理学部10名・環境人間学部25名・看護学部5名・国際商経学部若干名・社会情報科学部若干名)があり、ホームページ掲載の「選抜区分別進路状況(延人数)」では、令和3年度44名、令和4年度29名合格となっています。兵庫県立大学へ進学する予定の生徒は、高校3年生後期から特別カリキュラムを受講し、学部進学へのモチベーション向上及び基礎学力の充実を図っています。

兵庫県立大学は、少子化・人口減対策として、県内在住者の入学金及び授業料を学部、大学院共に、所得に関わらず、令和6年度から段階的に無償化すると発表しています。県立大学に特別推薦制度を持つ附属高校は、赤穂町という不便な立地を考えても、人気が出る可能性も考えられましたが、2023年度推薦入試は、高校推薦定員90名に対して志願者82人、合格者80名と1.03倍で、定員までは達していません。

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高崎市立高崎経済大学附属高校、高崎経済大学への推薦枠は入学定員の割に少ない

高崎市立高崎経済大学附属高校(入学定員280名)は大学附属となっていますが、高崎経済大学とは設置者が異なります。1993年4月、高崎市立女子高等学校を母体に開校。2011年4月、高崎経済大学が公立大学法人になるに伴い高崎市立高崎経済大学附属高等学校に改称。普通科に普通コースと、音楽、美術を専門的に学べる芸術コースを設置し「高崎市と世界をつなぎ、地域に貢献できる人材育成」を目指しています。

高崎経済大学の募集要項によると、経済学部3名・地域政策学部5名の推薦枠があるようですが、全体の入学定員から考えるとかなり少なくなっています。

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公立大学附属高校設置による県内残留効果を測るのは、かなり時間がかかる

県内残留促進のために、公立大学無償化という方法もありますが、大きな予算が必要なため、人口が多い都道府県でないと実現が難しい面があります。その点、附属高校新設は、それに比べれば予算は少なく実現が可能な策になっています。しかし、この附属高校新設が県内残留に効果があるかどうかはすぐには分からないため、他県が追随するかどうか判断に迷うところだと思います。

山口県の場合は、附属高校が全国募集型で、20%は他県から入学することができるため、高校で他県から入学し山口県に残ってくれるのであれば、さらに効果があるように思えます。県立大学への推薦枠が多ければいいのではという考え方もありますが、必ず進学できるという安心感が教育成果を阻む可能性も考えられます。難しい問題も複数ありますが、今後の公立大学附属高校の動きについては、特に注目されます。

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