未成年 “地雷系”女子「1000円もらった!」で寒さしのぐリアル… 福岡・天神「警固キッズ」居場所ない若者たちの実態とは

“警固キッズ”が履くサンダルに描かれた“ドンペン”はトー横界隈でも流行した(撮影:倉本菜生)

九州最大の繁華街、福岡県福岡市の天神地区。その中心部に位置する「警固公園」は、生きづらさを抱えた若者の逃げ場になっている。東京のトー横、大阪のグリ下にならうように、自らを「警固キッズ」「警固界隈」と称す若者らが、飲酒や喫煙、薬物のオーバードーズやリストカットを繰り広げている。

未成年を中心としたパパ活などの売春や恐喝、大麻売買などの温床ともなっており、昨年夏には暴行事件や強盗致傷事件が相次いだ。事態を重く見た福岡県警が一斉補導や取締り強化などに乗り出すも、11月には公園で知り合った男女3人による強盗致傷・窃盗事件が再び発生した。

警固公園で今、いったい何が起こっているのか。福岡市出身の筆者が現地に赴き、若者たちやその支援者とコンタクトを試みた。

特攻服姿の中学生が…「警固公園」の過去

筆者自身も、かつては家庭にも学校にも居場所がなく、逃げるように天神で遊んでいたひとりだ。しかし、15年ほど前の当時はSNSがあまり発達していなかったため、警固公園のように「ここに行けば似た境遇の仲間に会える」という場所を知る手段がなかった。

いわゆる“ヤンキー”であれば地元の先輩が作る“不良コミュニティ”に身を置けたものの、そうでない人間は家出同然で街をぶらつくしかない。そうした若者に行政や民間団体が何か手を差し伸べているという話も、未成年だった筆者の耳には入ってこなかった。

警固公園が若者のたまり場として注目されるようになったのは、2013年前後だろう。卒業式を終えた中学生が特攻服を着て集会するようになり、次第にハロウィンでバカ騒ぎする場所としても広まっていった。そのような背景があった公園に、コロナ禍をきっかけに今度は従来の“不良”とは違う若者が集まるようになる。それが警固キッズだ。

警固キッズがよく集まっているという警固公園内の丘(撮影:倉本菜生)

年末年始は若者がいない?

警固公園の状況を知るため、昨年末から年始にかけて何度か現地を訪れた。

しかし、事前に連絡を取っていた若者支援のNPO法人に、「年末年始は商業施設の休みや天候の悪さから、若者たちが公園に出ていないのではないか。友達の家など、寒さをしのげる場所にいると思う」と指摘されていた通り、トー横のように一見してそれと分かる若者たちはいない。

公園の一角にある、「警固公園安心安全センター」の職員も「年末年始は警固キッズがほとんどいない。どこに行っているんでしょうね」と首をひねっていた。

交番に併設された「警固公園安心安全センター」。警察OBたちが公園内の見回りや未成年の保護を行う(撮影:倉本菜生)

サラリーマンから「1000円」受け取り…

しかし、1月6日の夜に再び訪れると、いわゆる“地雷系”と呼ばれるファッションに身を包んだ若い女性たちがベンチに腰掛けていた。福岡市在住のレイ(16歳/仮名)と、大分県在住のハル(14歳/仮名)だ。彼女たちは以前から警固公園によく来ているという。

──わざわざ大分から来たの?

「うん。でも学校はちゃんと行ってるよ、えらいでしょ。お年玉もらわないといけないから、明日には大分に帰る。親が同意書を書いてくれたから、今日はレイと中洲(※九州最大の歓楽街)に泊まるよ」(ハル)

──レイちゃんも大分から?

「私は福岡。高校は行ってない」(レイ)

レイはホテルや自立支援の施設などを転々としており、未成年女性の保護や支援を行っているNPO法人の女性代表とたまに連絡を取っているらしい。

公園にはカップルや大学生と思われる集団、飲み会帰りの社会人などもいる(撮影:倉本菜生)

公園周辺をぐるりと周り、再びレイとハルの元に戻ると、ひとりの男性が彼女たちの目の前に座り込んでいた。タクヤ(23歳/仮名)と名乗る彼は、飲み会帰りのサラリーマンだという。

「(タクヤから)1000円もらった!」と、ハルが嬉しそうに報告してくれた。話を聞けば、タクヤはナンパ目的で彼女たちに声をかけ、ねだられるまま小遣い感覚でお金を渡したそうだ。ハルは「お金がないから乞食をしている」のだと話す。のちに繋がった彼女たちのSNSには、1000円前後の少額を複数人から得ている様子が記録されていた。

いわゆる“〇〇界隈”と呼ばれる若者たちが「電車代」などの名目で大人に金銭を求める様は、佐々木チワワ『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社新書)でも言及されている。パパ活などの売春と違い、対価が発生しないごく少額をねだって回ることで、その日の生活資金を得ているのだ。

レイたちと話していると、今度はおぼつかない足取りの男女が近寄ってきた。顔見知りの“警固界隈”らしい。うつろな顔をした青年に、レイが「バッド入ってる?(※バッドトリップのこと)」と聞くと、青年は「パブロンがない……」と呟いたまま、その場にうずくまってしまった。オーバードーズの禁断症状だろうか。

トー横やグリ下などでも繰り広げられているこうした光景は、福岡でも着実に根付いてしまっているようだ。彼らを支援する“大人”の目に、現状はどう映っているのだろうか。

やりらふぃー系、地雷系…警固キッズの“派閥”

「今、警固公園に集まっている若者たちには“派閥”があるように感じています」

そう語るのは、福岡で10年以上若者の立ち直り支援を行うNPO法人『SFD21JAPAN』の理事長・小野本道治さんだ。

「僕が見ている範囲だと、ヤンキー・やりらふぃー系・普通・地雷系・ひきこもりと、5種類ほどの派閥に分かれて集まっています。EDMを流しながらTikTokを撮っているようなやりらふぃー系は、『俺たちは警固キッズや地雷系まで堕ちたくない』と話していますが、地元の人間が言う“警固キッズ”にはそんな彼らも含まれているようです」(小野本さん)

“地雷系”の若者は、貧困や片親といった環境で生きてきた者が多いといい、地雷系ファッションに身を包むことで、「自分の寂しさや傷つきをおしゃれで誤魔化しているのではないか」と小野本さんは分析する。

「キッズたちも毎日公園にいるわけではなく、意外と学校に行っていたり、バイトをしている子もいるんですよね。警固公園に集まる若者が増えたのは、コロナ禍で大人がきちんとサポートできなかった代償のような気がします。児童相談所は窓口を閉め、県警のサポートセンターも電話受付のみだった。逃げ場を失った子たちがオンラインにたどり着き、SNS経由で人と会うようになった。そして警固界隈と呼ばれるコミュニティができていったのでしょう」(同前)

小野本道治さん。若者支援に携わって10年以上経つ(撮影:倉本菜生)

助成金と「支援ブーム」の実態

現在では、若者をサポートする団体も増えたというが、その一方で、行政からの“補助金目当て”で支援に介入する団体もいるとして小野本さんはこう語る。

「今は『支援ブーム』と言ってもいいかもしれません。話題になっているからマスコミも取り上げるし、補助金や助成金の申請で警固公園と書けば通りやすい。現に、『子供食堂をやっていたけど、今は居場所作りや学習支援のほうがお金を取れるから』と、活動内容を変えた団体もいるんです」

福岡市では現在、市がNPO法人に運営を委託し、中高生を中心とした「若者の居場所」の開設を広げている。不登校や非行対策の一環として、気軽に立ち寄れるフリースペースを各地域に設けようというものだ。開設と運営を行う団体には補助金が4年間交付され、さらに体験活動や学習支援などの取り組みも併せて行う場合、最大で8年交付が受けられる。

しかし年限を迎え市から補助金を受け取れなくなったとき、いくつの団体が支援を継続するのだろうか。“大人に支援の手を差し伸べてもらえなかった元当事者”として、今後も警固界隈や彼らを取り巻く支援者たちの動向を追っていくつもりだ。

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