「もう無理なんだよ…」逮捕続く“私人逮捕”系YouTuberの行き過ぎた番組内容 そもそも“勝手な動画配信”に「違法性」はないのか?

盗撮の瞬間を狙い撃ちし、現行犯を狙うまでは許容範囲だが…(sasaki106 / PIXTA)

自称「私人逮捕」系YouTuberの2人が17日までに逮捕された。2023年8月15日に横浜駅で盗撮行為を疑った男性から現金を脅し取ろうとした恐喝未遂容疑。容疑者は「身に覚えがない」と容疑を否認している。

私人逮捕は現行犯の場合、刑事訴訟法213条に「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」と規定されており、警察官でなくても可能だ。適正に行使すれば、トラブルや事件の防止や迅速な解決につながる。

だが、いわゆる私人逮捕系と呼ばれるYouTuberのやり口は、狙い撃ちしていることもあってかどこか脅迫まがい。多くの配信動画からも緊迫感に留まらない後味の悪さが漂う。

今回逮捕された容疑者は、「R探偵」のチャンネル名で盗撮犯を捕まえる活動の模様をYouTube配信。チャンネル運営は本業の傍らのようだが、2022年の年末から配信を開始し、登録者数は1.16万人と多くの視聴者を抱えていた。

配信動画では、泣きを入れる相手を荒っぽく追跡

チャンネル内の動画では、エスカレーターなどを全体で俯瞰できる場所等から撮影し、盗撮の瞬間を狙いカメラを回す。決定的瞬間を捉えると、その相手を追跡。撮影した動画を証拠に、「お前だよ、分かってんだろ、携帯出せ」と迫り、逃げるとさらに追い続ける。

ある動画では、追い詰められた相手から「勘弁してください」と泣きつかれても、「もう無理なんだよ。もう見ちゃったから完全に」とさらに詰め寄る。すると相手は「子どもがいるんです、お願いします」と蚊の鳴くような声で許しを請う。それでも手を緩めず、結局、交番に押し込んでエンディングとなっている。

時に虚言も交え、ターゲットを追い詰める(配信YouTubeより)

動画内では、金銭に関することには触れていないが、「もう被害女性も来ているから」と虚偽の発言も駆使し、相手を追い詰めており、悪事をおさめることが目的のはずの私人逮捕の趣旨とは180度異なる空気が充満している。

「もはやただの犯罪者の金目当て配信」の声も

こうした内容に対し、SNS上には「もはやただの犯罪者が金目当てに配信してるだけじゃん、恐喝系YouTuber?」という声も。今回の逮捕容疑は恐喝未遂となっているが、動画内での行為は、私人逮捕というより、”盗撮ハンター”そのものだ。

盗撮ハンターは、盗撮行為をしている人物に対し、被害女性の確保や関係性をにおわせ、金銭等を取得しようとする者とされる。純粋に盗撮の抑止のためなら問題はないが、弱みに付け込み、恐喝するケースも多く、極めてグレーな行為だ。

逮捕された容疑者の2人は、現場で金銭を脅し取り、さらに配信により収入を得ていたとみられる。盗撮行為は決して許されるものではないが、人の弱みに付け込み、その人生を台無しにしかねない行為で2重に収益を得ていたわけで、かなり悪質といえる。

弁護士に聞く、私人逮捕系YouTuberの裁きどころ

今回の容疑となった恐喝未遂はもちろん、容疑者にそれ以外の罪も問えないものなのか。刑事弁護に詳しい、堀田和希弁護士に聞いた。

──私人逮捕は一般人でも可能ですが、その行為の撮影動画を証拠のためだけでなく、万人向けに配信することに問題はないのでしょうか。

堀田弁護士:問題は起こり得ると思います。まず、被疑者に許可なく行為を一部始終撮影し、それを無断で配信した場合は名誉棄損に当たり、刑事責任及び民事責任の双方を負わなければならない可能性があります。

また、被害者が動画に映り込んでいた場合、被害者が犯罪被害にあったことを第三者に知られたくないことも当然あり得ますので、そのときは被害者に対する民事責任を負う可能性もあります。

──YouTube配信では、視聴者数に応じ、収益も得られますが、私人逮捕の配信で収益を得ること自体に問題はありませんか。

堀田弁護士:私人逮捕によって逮捕者自身が個人的な利益を得ようとすることについて、それだけをもって法的に問題があるかどうかは別として、倫理的な問題はあると思います。

ただし、被疑者が犯罪行為を現に行っていた場合、私人による証拠確保(犯罪現場の撮影など)は公益に資するのも確かですので、たとえ収益目的があったとしても一概に非難されるべきものではないかと思います。

──顔にモザイクが入れられているとはいえ、配信された側は訴えることは可能でしょうか。

堀田弁護士:配信された場合は、名誉棄損などで訴えることは可能かと思います。

また、動画撮影も目的とした私人逮捕のプロセスは、訓練ないし教育を受けた警察官とは異なり、エンタメ性を重視して必要以上に威圧的、暴力的になることも多いかと思いますので、その場合は暴行罪などといった犯罪行為で訴えることもあり得るかと思います。

ただし、そもそもの逮捕が誤認逮捕だったなどのケースでなければ、逮捕された側の訴えが認められるかどうかは正直難しいところでしょう。

なお、ニュースになった事件のようないわゆる盗撮ハンターの場合は恐喝罪で訴えることになるかとは思います。

──訴える場合、どのような手続き、証拠があればいいのでしょうか。

堀田弁護士:配信された動画をきちんと保存しておくべきかとは思います。

また、動画撮影されてはいるものの、配信されていない部分が犯罪行為にあたり得ると感じた場合には、その部分のやり取りを記憶が新しいうちに明文化しておくことや暴行を受けた場合は暴行を受けたことがわかる証拠(怪我をした場合は受傷部位の写真や病院の診断書を取得するなど)を手元に残しておく必要があるかと思います。

金品を要求された場合は、金品を要求された際のやり取りを録音しておき、実際に金品を渡さなければならない状態に追い込まれたときには手持ちの現金を渡すのではなくATMで要求された金額を引き出してから渡すなどして、相手方に金品を渡したことがわかる具体的な証拠を残しておく必要があります。

──どのような罪に問うことができるのでしょうか。

堀田弁護士:名誉棄損罪や暴行罪などの刑事責任を負い得る可能性があります。盗撮ハンターの場合は恐喝罪が成立することになるでしょう。

──こうした”被害”にあった場合、どんな対応が望ましいでしょうか。

堀田弁護士:動画撮影を目的とした私人逮捕の場合は、視聴者数を増やすために警察に連れて行くシーンも重要と考えているかと思います。流れのまま動画撮影者と一緒に警察に行くのではなく、その場で自ら警察官を呼んで、警察官の捜査に応じたうえで動画撮影者に対して配信しないよう警察官からも注意してもらうことが有効かと思います。

もしくは、撮影相手に対して「後日、弁護士が同席したうえで改めて話がしたいので連絡先を教えて欲しい」などと言って動画撮影者の個人情報を聞き出すことも対応としてはあり得るかと考えます。盗撮ハンターに対しての対応も同様かと思います。

──”被害”にあった人は一方で、「盗撮疑惑」があります。この罪と盗撮ハンターからの被害の2件をどのように対処するのがいいでしょうか。

堀田弁護士:被疑者が実際に犯罪行為を行ってい場合には、被害者に対してきちんと謝罪したうえで、可能であれば後日改めて示談をすることを最優先とすべきです。

動画撮影者に対する対応は「撮影した動画データを削除したうえで絶対に配信しないよう」にということをその場で注意する程度で良いかと思います。

その際には、動画撮影者との会話内容を録音しておいた方が良いでしょう。そして、被害者との示談などが終了した後に、動画撮影データを削除したかどうかを確認するなど動画撮影者に対する対応を本格的に検討していくことになるかと思います。

© 弁護士JP株式会社