「テジョおばさん、ジャカルタへ行く」 大阪のおばちゃんならぬジャワの元気なおばちゃん、映画に登場! 【インドネシア映画倶楽部】第66回

Bu Tejo Sowan Jakarta

ジョグジャカルタの「テジョおばさん」が主人公の、大人気シリーズが長編映画に。テジョおばさんが仲間と共にバスでジャカルタへ乗り込んで来る。生活レベルのジャワの世界を実感するには最適の作品。生き生きとしたジャワ語の世界を楽しめる。

文と写真・横山裕一

2018年作品の短編映画「お見舞い」(Tilik)が動画サイトで大人気を博して、2023年、テレビシリーズになったが、今回、満を持して長編コメディ映画としてスクリーンに登場した。

短編映画「お見舞い」はジョグジャカルタが舞台で、入院したある地区長の婦人を見舞うため、地区の夫人約10人がトラックの荷台に乗って移動する道中を描いたもの。荷台では地区長婦人の息子の婚約者からはじまり様々な噂話がおもしろ可笑しく繰り広げられる。圧巻はおばさんたちが発するジャワ語が捲し立てられるところで、字幕を読まないと意味はわからなくとも、ジャワ語のリズムやイントネーション、それにおばさんたちの表情を見ているだけでも可笑しさが込み上げてくる。日本で例えるならば、大阪弁を駆使する元気な大阪のおばちゃんたちのようでもある。この作品は2020年、動画サイト・YouTubeで配信されたが、コロナ禍だったとはいえ、現在2800万回の再生を記録していることからもその人気ぶりは窺える。

その主人公の「テジョおばさん」家族を中心に描いた長編作品が今回の「テジョおばさん、ジャカルタへ行く」である。物語はジャカルタから息子のテディが帰省するところから始まる。テディはジャカルタに住む女性と結婚するため、家族と共にジャカルタへ行き結納を行いたい旨を告げる。しかし、母親のテジョは相手が中華系の女性だと知ると、「文化が違う」と大反対する。

これを聞きつけた近所の主婦仲間たちは、折りしもテジョを含めて小旅行を企画していただけに「ならばジャカルタへ行こう」と野次馬旅行としてまとまる。母親の結婚反対に困っていたテディもこれを利用して、母親をジャカルタへ連れて行き結納を実現させようとレンタルバスを予約する。かくしてテジョおばさんのジャカルタ行きが始まったが……。

本作品でもテジョおばさんのジャワ語を使った話術は健在だ。冒頭、近所のおばさん仲間と小旅行の行き先を話し合っている際も、スマラン(中部ジャワ州州都)などへ行きたいとする意見をさらっと受け流して、近場のサラティガで済まそうと強引にまとめようとするシーンからユニークで、楽しませてくれる。

バスの車中でのシーンも、「お見舞い」のような噂話の応酬はないが、定番でもあるおばさんたちがジャワ語で捲し立て、思い思いに好き勝手話す様子は笑わずにはいられない。

通常、ジャワ語は何段階もある敬語など、ゆったりと奥ゆかしいイメージもあるが、数人集まればかしましい噂好きのおばさんたちの日常会話ではこうも躍動感溢れるユニークな言語になるものだと改めて感じられる。ハリウッド映画の英語をはじめ、各国の映画内での外国語を聞くのとは一味違った感じを受けることができ、生活レベルのジャワの世界を実感するには最適の作品でもある。

今回はこれに加えて、異民族、華人との結婚という要素も盛り込まれる。華人は渡来人で、長い歴史の中で自営の商売を続けてきた者が多いだけに、ジャワ民族をはじめ土着民族からは、「異国の地に来て土着民から利益を奪っている」というイメージが定着していて、宗教や文化の違いもあり疎まれてきたのが実情だ。テジョおばさんが息子の結婚を反対したのもこうした背景がある。しかし、裏を返せば作品の要素に取り入れられたように、近年、華人を含めて異民族間の結婚が増えつつあるのも事実で、インドネシアの社会変化、民族間認識の変化の一端も反映されているといえそうだ。

監督、脚本は短編作品やテレビシリーズとは異なるが、テジョおばさん演じるシティ・ファウジアはじめ、元気なおばさんたちの多くは従来と同じ女優が演じていて、原典でもある短編映画「お見舞い」の世界の面白さは引き継がれている。

生き生きとしたジャワ語の世界、大阪のおばちゃんならぬジャワのおばちゃんの迫力、楽しさを是非、劇場で味わってもらいたい。(インドネシア語字幕付き)

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