長崎・対馬にUターンの女性 空き家を「宿」に改修 今夏オープン、自然の中の暮らしを発信 

空き家を改修し、宿泊施設の開業を目指す小川さん=対馬市豊玉町

 イカ釣り漁が盛んな長崎県対馬市豊玉町千尋藻(ちろも)地区。昨年12月下旬、地区中心部から車で10分ほどの長江集落で、小川香織さん(28)が築約40年の空き家を「宿」に改修する作業に追われていた。
 「宿」の前には透き通った海が広がり、周囲は森に囲まれている。近くには3世帯しかなく夜はひときわ静かだ。「人が住む場所とさまざまな自然がこんなに近い環境は珍しい」。小川さん自身も古里の魅力を実感できる空間だ。
 豊玉町の隣の峰町出身。高校卒業後に島を出て進学し、菓子店に就職。その後Uターンし、昨年春まで市の島おこし協働隊員を3年務めた。退任後に合同会社「つしまびと」を設立。家主から安価で借りた空き家を、実家の工務店と協力して改修し、移住希望者に転貸する「サブリース」事業を手がけている。長江集落の「宿」は、そこに寝泊まりしながら遊漁船で海に繰り出したり磯遊びを楽しんだりと自然の中での暮らしを体感してもらい、移住を促進するための新たな施設だ。今夏のオープンを目指している。
 空き家に着目したのは協働隊員時の経験から。対馬の魅力を交流サイト(SNS)で発信していると、都会にない自然あふれる環境や喧騒(けんそう)のない暮らしを希望しながらも「理想的な家がない」との理由で移住を断念する声を聞くようになった。「対馬の人口減少は島を出る若者が多いことが大きな要因だと思うが、U・Iターンをしたい人が入ってこれない現状もあるのでは」。実家にも空き家の解体や売却の相談が寄せられていることを知った。父は「まだ住めるのにもったいない」とこぼしていた。
 総務省の住宅・土地統計調査(2018年、推計)によると、同市の空き家は約3千戸で住宅総数の18.5%。県全体の15.4%よりも高い。
 移住希望者と家主を結び、ビジネスにつなげられないか-。協働隊の傍らサブリース事業を始め、これまでに美津島町鴨居瀬で1件、上県町飼所で2件、計3件の成約に至った。
 人口が減れば地域の行事やインフラなどの維持が困難になり、活力は失われる。「逆に若者が1人増えるだけでも集落は活気づき、彩りが加わる。対馬ならではの暮らしを守りたい」と小川さんは力を込める。
 「私のビジョンでは5年後くらいに対馬はもっと海外から注目され、若い人が増えてより楽しい場所になっている」と夢を語る。「だから今、何かをしないともったいない。地元はすごくいい場所なんだと、島の人が誇りを持てるようにしたい」。古里の未来に確かな希望を見いだしている。

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