石破茂氏が語った「政治とカネ」 派閥解消は「党一本化体制」なければ〝見せかけ〟 連座制導入には疑問

派閥の政治資金パーティー裏金問題に端を発した「政治とカネ」の問題を巡って、自民党に激震が走っている。党内で「政治刷新本部」が発足し、「派閥解消」への動きが加速しているが、果たして根本的な解決策となるのか。約30年前、派閥を超えて改革を訴えた若手議員グループの一人として行動した自民党の石破茂元幹事長は政権与党の現状と先行きに何を思うのか。26日招集の通常国会を前に、石破氏に話を聞いた。

東京・永田町の衆議院第二議員会館。招かれた部屋に入ると、田中角栄氏ら歴代首相数人の写真が膨大な書籍と共に並ぶ本棚が左手にあり、右手の壁には『先憂後楽』という書が額装されて掲げられていた。北宋(中国の王朝)の忠臣が残したとされる「為政者の心得」を説いた言葉で、「為政者は人々(民)に先だって憂い(心配し)、人々が楽しんだ後で自分も楽しむ」という意味だという。

その精神でもって、石破氏がどう改革に乗り出すかも注目されるが、その名は「政治刷新本部」にはない。

石破氏はよろず~ニュースの取材に対して「(政治刷新本部は)党役員と青年局長、女性局長経験者という人選で、それ以外はメンバーには入っていません」と指摘。その一方で、同氏は「ただ、政調会長となった渡海紀三朗さんはリクルート事件の時から政治改革を一生懸命にやったメンバーで、一家言ある立派な人ですから、メンバー以外の意見もうまく取り入れてくれると思っています」と、かつて「ユートピア政治研究会」(1988年結成)の同志でもあった渡海氏に期待を込めた。

この「リクルート事件」(88年発覚)から、東京佐川急便事件、さらには金丸信元副総裁による約10億円の脱税容疑で逮捕・起訴(93年3月)といった「政治とカネ」を巡る事件が相次ぎ、政治不信が沸点に達していた93年6月、当時36歳の石破氏は若手議員の同志と共に宮沢喜一首相に直談判。首相宅まで足を運んで政治改革の思いをぶつけた。それから31年。当時の動きと今とでは何が違うのか。

石破氏は「竹下登総裁(87-89年)は、消費税とかいろんな問題があったので、自らは政治改革関連の役職には就かず、伊東正義、後藤田正晴という官僚トップ経験者の、政治家としても心から信頼できる人たちに任せられました。そのお二人に我々若手も心酔していたから、派閥に関係なく、両氏の元に集まって政治改革運動ができました」と当時の時代背景を説明した。

その上で、同氏は「後藤田さんと伊東さんには『当選回数が1回、2回という若いお前たちが一番国民に近いところにいる。お前たちが頑張らないで政治改革ができると思うのか!』とよく叱られて、選挙区を回っては国民の思いを永田町に持ち帰っていました。小選挙区制度になって20年以上たって、議員と有権者の接触が密でなくなったような気がします。毎日、暇さえあれば選挙区を歩いて小集会をやって、街頭演説をやってという、かつての自民党の良さがなくなった気がする。そうなると、有権者が『自民党ってひどいもんだな』と思っても、『でも、他にない』ということで、選挙には勝ってしまう。それでは何も変わりません」と付け加えた。

昨年末から噴出している裏金問題で、国民の〝怒り〟の矛先が向けられたのは、「会計責任者との〝共謀〟が立証できなかった」として立件が見送られた安倍派の幹部議員らだろう。そこから「政治資金規制法」を改正し、議員も連帯責任を負う「連座制」の導入を求める声が出ているが、石破氏は慎重なスタンスを示した。

「議員の側に落ち度がない場合でも、有権者から選ばれた国会議員が地位を失うという連座制は本当に国民にとっていいことなのか?『連座制にすべきだ、議員は辞めるべきだ』ということを今言えばウケるのでしょうが、本当にそれが正しいことなのか、きちんと議論すべきです。〝正義の味方〟っぽくてウケるのかもしれないけれど、国会議員は制度として『国民の代表』なんですよ。そこに疑問があるなら、国会議員と国民との乖離をどうやってなくすのかを考えるべきだと思います」

では、派閥解消の流れをどう受け止めているのか。石破派(水月会)は2021年12月に派閥を解消し、少人数の「グループ」になっている。

石破氏は「そもそも、派閥が何を実現するための組織かということが分からなくなっています。清和会と宏池会は何が違う?同じ自民党でありながら、安全保障政策や経済政策はどこが違う?ということが明確ではないんです。政治資金やポストの配分機能を派閥が担っているのが現状で、選挙もある程度、派閥単位でしてきたわけです」と総括した。

その現状を踏まえ、石破氏は「派閥をなくすなら、合わせて『党の組織をこう変える』というプランを提示しないと、結局、元に戻ってしまう。それまで派閥が担っていた選挙の応援や集金、資金配分、人事などを党に一本化する体制をつくらなければ、『派閥解消』と言っても、それは見せかけだけで、やがてまた忘れられ、自民党は元に戻る…と大勢の人が思っているのではないでしょうか」と問題提起した。

26日から国会が始まる。

「予算委員会が派閥やパーティー券の話で終わってしまってはダメです。能登半島地震についても、『災害対応体制の見直し』というところまで踏み込んだ議論をすべきだと思います。日本の避難所の質は必要最低限ですが、海外では生活の質もできるだけ担保します。それは有事にも当てはまる話で、ウクライナやガザで起こっていることに対して、日本としてどうすべきなのか。政治刷新についても、政党の機能を国としてどう位置付け、どのようにガバナンスさせるか、政党法を考えなければならないのではないでしょうか」

国会議員として先んじて現状を憂い、模索する立場を示した。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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