「義兄弟の契り」結んだ北朝鮮男性3人を逮捕…金正恩、反体制を警戒

「義兄弟」とは、血縁のない複数の男性が、疑似的な「兄弟関係」を結ぶことを言う。日本にはヤクザのような特殊な世界で結ばれる「親分と子分」の関係もあるが、韓国では親しい男性どうしが「兄貴分と弟分」の関係を結ぶことが非常に一般的であるため、義兄弟もさほど特殊なものには感じられない。

ところが、同じ朝鮮半島の北朝鮮では、これは取り締まりの対象となる。詳細を米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、新義州(シニジュ)都市建設事業所の30代の労働者3人が、保衛部(秘密警察)に呼び出され、2日間にわたって取り調べを受けたと伝えた。

3人にかけられた容疑は、2年前に義兄弟の契りを結び、家族の誕生日ごとに集まって宴会を開くなど、私的な集まりを頻繁に持ったというものだ。3人の仲の良さは地元でよく知られていたが、義兄弟だったことまでは知られていなかった。しかし、どこからか情報員(スパイ)の耳に入り、取り調べを受けることになった。

取り調べでは、3人の間でどんな話が交わされてきたかを厳しく追求されたが、他愛のないプライベートな内容ばかりで体制批判には言及していなかったことがわかり、「二度と義兄弟の集まりを開かない」との誓約書に指紋を押して釈放された。

北朝鮮で義兄弟を契りを結ぶことは、政治犯罪に当たる「宗派主義」(分派行為)とされ、万が一、体制批判をしていたとすれば、管理所(政治犯収容所)送りや処刑など極刑に処せられていた可能性がある。

別の情報筋によると、先週行われた新義州の楽園(ラグォン)機械工場の従業員集会に出席した党幹部が、「生活が苦しい、政治が悪いなどと不平不満を言う現象を根絶やしにする階級闘争を、集中的に繰り広げる」と宣言した。

特に「義兄弟は反体制組織の温床となりうる」として、徹底的に洗い出し、法的に処罰すると警告した。

義兄弟が取り締まりの対象にされるようになった理由を理解するには、ここ数十年の北朝鮮の歴史を知る必要がある。

国営の朝鮮中央テレビは1987年、芸術映画撮影所が制作した5回もののシリーズ映画「林巨正」(リム・コクチョン)を放映し、人気を博した。

モデルは朝鮮王朝時代だった1559年、権力者の悪政に怒り反乱を起こした実在の人物で、朝鮮三大義賊にも数えられる。そしてこの映画のテーマ曲「いでよ義兄弟」は、配給システムが崩壊し、大量の餓死者が出た1990年代の「苦難の行軍」のときに流行した。

しかし、この映画は2000年代半ばには放映されなくなり、テーマ曲を歌うことも禁止された。その歌詞は次のようなものだ。

恨み骨髄に達する 民の怨嗟の声
血の涙溜まる 悲惨なこの世
山河よ語れ 親と妻奪われ
民の背骨を削る この世を生き抜かん

重荷を背負うとて 下ばかり見るな
前を向いて この世を生きよう
路傍の石の下に 豪傑葬られ
自分ごときは 一度の過ちで露と消える

鞘に収めた 長剣の鋤を鍛え
田畑を耕していられればよかろうに
いでよ義兄弟 悪党を一掃し
積年の恨みを 男らしく晴らそう

こうした内容が、反体制的な動きを促すと警戒されたのだろう。しかし、この歌詞を危険視して禁止する当局の行為は、北朝鮮の現体制が「民の怨嗟」を受ける「悪党」である現実を、いみじくも認めてしまっているわけだ。

© デイリーNKジャパン