【がんばれ!郷土力士】横綱と真っ向勝負 大の里、被災地に勇気

  ●新入幕挑戦は10年ぶり 黒星も「いい勉強」

 将来を嘱望される津幡町の大器が角界の頂点に挑んだ。大相撲初場所12日目の25日、10年ぶりの新入幕力士による横綱戦となった大の里(津幡町出身、二所ノ関部屋)は、照ノ富士に右四つで組み止められ、豪快な左上手投げに土俵下まで転がった。正々堂々、横綱との真っ向勝負に臨んだ大の里の勇姿にふるさと石川の被災地からも「勇気づけられた」との声が上がった。

 9勝目ならずも「いい勉強をさせてもらった」。花道を引き揚げる大の里の表情は晴れやかだった。

 新入幕力士が横綱に挑むのは2014年秋場所で鶴竜、白鵬と対戦した逸ノ城以来だった。幕下10枚目格付け出しデビューから5場所目。日体大で2年連続アマチュア横綱に輝いた23歳は「1年前は観客席で見ていた。まさか結びの一番で取るなんて」と初々しく語った。

 関脇、大関に続く横綱。3日連続の上位戦は取組前から緊張していた。「頭が真っ白になった。これが結びの雰囲気なんだ」。思い切りぶつかった立ち合いは簡単に止められた。横綱の左上手に腰が浮く。強引な寄りは通用せず、投げに土俵下まで転がった。「当たったけど、びくともしなかった」と力の差を痛感した。

 照ノ富士は「いいものを持っている。一気に攻めるし、これからが楽しみだ」と若武者をたたえた。

 鶴竜を破った逸ノ城以来の新入幕金星は遠かったが、八角理事長(元横綱北勝海)が「優勝が懸かった終盤戦を経験できたのは大きい」と評価した。

 土俵下の勝負審判として見守った師匠の二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)は「まだ勝負どうこうというレベルではない。駆け引きもまだまだ。雰囲気を味わったというところ」と、あえて厳しく課題を指摘した。

 支度部屋で自身の取組映像に見入った大の里は「やっぱり負けたら悔しい」と正直な胸の内を明かし、「来場所も対戦したい。高みを目指して頑張ります」と誓った。「石川が元気になってもらえるよう頑張る」との決意を胸に土俵に向かう。

  ●「かっこいい」地元・津幡

 大の里がよく訪れる津幡町庄のすし店「鮨正」では、店を営む小山圭介さん(49)や常連客らが声援を送った。大の里が敗れると「もうちょっとやった」「真っ向勝負でかっこよかった」との声が上がった。

 小山さんは大の里の父親の中村知幸さん(47)の友人で、店内に大の里の手形やサインが飾られている。この日は小山さんや父親の五十八さん(80)、客が取組をテレビで見守った。

 小山さんは「横綱や大関と争えるだけで名誉なこと。気持ちを切り替えて被災者に明るいニュースを届けてほしい」と話した。店では大の里が白星を挙げると生ビールが割り引きになる。70代の女性客=津幡町能瀬=は「大の里は期待の星。欧勝海とともに津幡コンビの活躍をもっと見たい」と笑顔を見せた。

  ●26日から朝乃山再出場

 9日目から休場していた西前頭7枚目、朝乃山(富山市呉羽町出身、富山商高OB、高砂部屋)は25日、13日目の26日から再出場することを決めた。右足首の負傷で休場し、12日目時点で7勝2敗3休、残り3日間で勝ち越しを目指す。26日は東前頭3枚目の豪ノ山(武隈部屋)と対戦する。

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