[社説]京アニ事件で死刑判決 なぜ孤立 考え続けねば

 2019年7月、京都アニメーションのスタジオが放火され、36人が死亡した事件で、京都地裁は青葉真司被告(45)に求刑通り死刑判決を言い渡した。

 平成以降、最多の犠牲者を出した凄惨な事件だ。最大の争点は、「闇の人物」に支配されていたなどと主張する被告の精神状態と刑事責任能力の有無だった。

 判決は、被告の妄想性障がいを認めた上で「放火殺人は自身の知識から導き出された判断であり、被告の意思でその手段を選択した。犯行は妄想に影響されたのではない」として、責任能力はあったと結論付けた。

 犯行現場に行く際に被告が人目を避けたり、事件前に逡巡(しゅんじゅん)したりしたことなどから「犯行当時、心身喪失でも心神耗弱でもなかった」と述べた。死傷者68人という被害の多さに加え、犯行の残虐さや遺族感情、社会に与えた影響などを考慮し「死刑を回避する事情はない」とした。

 法廷では、遺族らも判決に耳を傾けた。あまりにも理不尽な理由で突然、大切な人を奪われた怒りや悲しみは想像を絶する。

 求刑通りの判決となったが、一方で、なぜ事件は起き、なぜ防げなかったのか。娘を亡くした遺族は被告の説明を聞いて「悲しみ、苦しみ、悔しさは一層深く、憎しみ、恨みはさらに強くなった」と憤った。

 十分納得できる説明が得られぬまま判決を迎えた遺族らの無念は、今後も心に残り続けるはずだ。

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 事件は裁判員裁判で昨年9月の初公判から判決まで、143日を費やした。22回にわたる公判を通して被告の生い立ちも明らかになった。

 地裁は被告について「独善的で怒りやすく、攻撃行動をしやすい性格傾向がある」とした。しかし、幼少期から思春期を経て成人するまでどんな生活を送り、どんな環境で過ごしてきたのかも人格形成に大きな影響を及ぼす。

 青葉被告は父親の虐待や貧困などで不登校となった。定時制高校を皆勤で卒業し自信をつけたが、その後は人間関係がうまくいかず人生を悲観。コンビニ強盗を起こして服役した際に精神障がいと診断された。孤独の中で京アニが自分の作品を盗んだと思い込み、一方的に怒りや恨みを募らせていった。

 犯行後、自身も全身の大やけどで生死をさまよった。懸命の処置で一命を取り留めた後、医師から励まされ「優しくしてくれる人もいるんだ」と涙したという。 

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 08年の秋葉原無差別殺傷事件や21年の大阪・北新地のビル放火殺人事件など、社会から孤立して人生に絶望し、世間を恨んだ末の無差別殺人は今回に限らない。追い詰められた人が加害者となる前にどう救えるかが、悲惨な事件を防ぐ手だてとなる。

 青葉被告も社会と適応できぬまま孤立を深め、妄想の世界に入り込んだ。心に怒りをためて苦しんでいた時、もし誰かが手を差し伸べていれば。同様の事件が二度と起きないために何をすべきか。社会全体で考える課題である。

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