カキ=ノロウイルスの“大誤解”背景に「マスコミ報道」の影響も? 厚労省「正しい対策を」

「ノロウイルスが怖い」とカキを忌避する人も(K321 / PIXTA)

「ノロウイルスと言えばカキ」

そんなイメージを抱いている人も少なくないかもしれないが、実はこれ、“風評被害”的な側面が大きいことをご存じだろうか。

ノロウイルスは長年、年間の食中毒患者数でもっとも多い病因物質となっているが(2022年は6856人中2175人)、厚労省の担当者によれば「原因食品が『カキ』とされる事例は年間を通じてあるかないかという程度」とのこと。「カキよりもよほど多いのが、食品を取り扱う人がノロウイルスに感染しており、そこから食品が汚染され広がるというケースです」と、“誤ったイメージ”の拡散によって正しい感染対策が徹底されない現状に苦慮する様子をにじませた。

マスコミが“間違ったイメージ”を広めた?

そもそもなぜ「ノロウイルスと言えばカキ」のイメージが定着してしまったのだろうか。前出の厚労省担当者は「マスコミ報道の影響が大きい」と吐露する。

大きなきっかけとなったのは、2006年冬のノロウイルス食中毒大流行。その際にマスコミ報道が加熱し、食中毒の要因とされたカキの販売不振によって全国の養殖業者が大打撃を受けた。

ところが厚労省が同年実施した緊急調査では、ノロウイルス食中毒として確定した事件のうち「原因食品がカキと特定された事例はなく、食品の取扱い時の汚染が疑われる事例が大半を占めている」と報告されており、「今回のとりまとめ結果では、特定の食品や営業施設がノロウイルス食中毒の原因ではなかったことを踏まえ、報道等に当たっては、くれぐれもご配慮願います」との注意喚起がなされている。

なおノロウイルス食中毒が冬に流行するのは、カキの旬が重なっているからではなく、低温・乾燥した環境に強いというノロウイルスの特性が影響しているという。

「加熱用」「生食用」違いが“鮮度”ではないワケ

厚労省はカキとノロウイルス食中毒を直接的に結び付けて考えてはいないものの、カキによって発生する可能性そのものを否定しているわけではない。たとえば、先日ノロウイルス食中毒が発生し話題となった「牡蠣フェス」(東京・上野公園)のように、「本来加熱すべきものをきちんと加熱しなかった」ケースだ。

カキなどの二枚貝は、水中のプランクトンを食べるために大量の海水を取り込んでいるが、それと同時に海水中の細菌やウイルスも体内に蓄積・凝縮してしまうという特徴がある。カキ自体がもともとノロウイルスを持っているのではなく、ノロウイルス感染者のふん便や吐物に含まれるウイルスのうち、下水処理場で処理しきれなかった一部がカキの生息する海域に流れ込むことで、体内にノロウイルスが蓄積・凝縮されてしまうという仕組みだ。

カキには「加熱用」「生食用」があるが、その違いは“鮮度”ではない。前述したような二枚貝の特徴を踏まえ、採取された海域や、カキに含まれる微生物量の基準、保存温度など一定の条件を満たしたときに「生食用」と表示できると、食品衛生法・食品表示法で決められている。

一方の「加熱用」は、しっかり加熱することで安全に食べられるようになるが、「牡蠣フェス」のように加熱不十分で食べてしまった場合は食中毒のリスクがあるので、注意が必要だ。

なお調理者がノロウイルスに感染していたり、調理器具がノロウイルスに汚染されていたりした場合は、それが生食用であるか加熱用であるかを問わず、さらには食材がカキでなかったとしても感染するリスクが高まることは言うまでもない。

ノロウイルス対策で「一番重要なこと」

繰り返しになるが、ノロウイルスの感染経路としてもっとも恐れるべきはカキではなく、食品を取り扱う人がウイルスに感染しており、そこから食品が汚染され広がるというケースだ。

「ノロウイルス対策で一番重要なのは、個人個人がしっかり手洗いをして、食品にウイルスをつけないようにすることです。しかしコロナ禍が落ち着いてきた今、以前より手洗いの回数が減ったという方は多いのではないでしょうか」(前出・厚労省担当者)

人との接触や外食の機会が減った影響も考慮する必要はあるが、厚労省が公表している食中毒の統計資料を見ると、たしかに2020~2022年のノロウイルス食中毒の事件数は、2019年以前より明らかに抑えられていることが分かる。

厚労省「令和4年食中毒発生状況(概要版)」より

「感染者の絶対数が増えれば、意図せずにうつるということはどうしても起きてしまいます。絶対数が増えないよう1人ひとりがしっかり手洗いして対策すれば、そんなに恐れる必要もなくなってくるはずです」(前出・厚労省担当者)

いたずらにカキを恐れるよりも、世の中全体で正しい感染対策を心がけ、海の恵みを楽しむほうが得策なのは明らかだろう。

厚労省が公表している「手洗いの手順リーフレット」

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