岐洲匠×八村倫太郎インタビュー
にわかには信じがたい陰惨なニュースが、ひっきりなしに飛び込んでくる日常。人がラブコメディを求めるのは、そんな日常から解放し、穏やかな気持ちにしてくれるからではないか……。
女性チャンネル LaLaTVで2月4日(日)より放送が始まるBLドラマ『佐原先生と土岐くん』は鳥谷コウが描く同名人気コミックを原作にした、体育教師とピュアで不器用なヤンキーが繰り広げるもどかしすぎるラブコメディ。岐洲匠と八村倫太郎が演じる佐原先生と土岐くんが、軽やかながら程よい重力を感じさせ、視聴者をひととき甘やかな空間へと誘ってくれる作品だ。
W主演の岐洲匠と八村倫太郎は、どんな関係性を目指そうとしたのか? じっくり語ってくれた。
「なんだか土岐に背中を押してもらえたというか」
―本作のオファーを受けたときに感じたことは? まずは佐原先生を演じた岐洲匠さんからお願いします。2023年は、大河ドラマ『どうする家康』(NHK)の結城秀康役や、現代社会の一端を浮かび上がらせた映画『さよならモノトーン』などでも活躍されましたね。
岐洲:ここのところ時代劇など堅めな作品が続いたので、久々のラブコメディにすごく緊張しながらも、W主演ですし、「よし頑張ろう!」と気合いを入れました。いつもは自分の作品を見返したりあまりないんですが、今回はラブストーリーのお芝居の気持ちの入れ方や感覚を思い出すために、ドラマ『運命から始まる恋~You are my Destiny』(2019年)を少しだけ見返しました。“自然体”かつピュアな気持ちで挑みたいと思いましたので。
―土岐くんを演じた八村倫太郎さんはいかがでしたか? 2023年は、所属する6人組男性ダンス&ボーカルグループ「WATWING(ワトウィン)」の全国ツアーや、カンテレの『土曜はナニする!?』のイケドラでの出演と飛躍の年でしたね。
八村:実は僕、あまり芝居の経験がなくて……。もちろんやりたい気持ちはあるんですが、久しぶりのお芝居で主演!ラブストーリーも演じたこともなく、“初めて”だらけで、どの引き出しを開ければいいのか、不安でいっぱいでした。でも原作を読んだとき、これはライトさだけで演じていい話ではないなと。もっともっと深いところにある、「人を愛する」とか、「好き」という誰もが持つ気持ちに正直になる、そんな話だと感じました。
第1話の「好きなもんは好き。それの何がいけねぇんだ!」というセリフには衝撃を受けました。「土岐奏を演じて、作品を届けられるのは、すごく幸せなことだな」と思えて、なんだか土岐に背中を押してもらえたというか。そこから、もっと深いところでお芝居をしたい。相手との関係性もしっかりと作りたい。とにかく自分のできることを精一杯やろうという気持ちになりました。
「この作品は本当に良い方々ばかりで、お笑い芸人の集団みたいでした(笑)」
―共演は初めてだそうですね。撮影現場で「はじめまして」から始まって、恋に落ちていくまでの関係性を、お二人はどんなふうに作っていったのでしょう?
岐洲:奇跡的なのか、運命的なのか、はじめから自然と“合っていた”んですよね。お互いに、特に合わせようという気持ちがあったわけではないんですが、次に会える日を楽しみにしていたりとか、相手の忙しい日々を想って「大丈夫かな、あいつ」って心配するような気持ちだったりとか。なんだろう、フィットするって言うんですかね。
八村:実は匠くんが思っていたことが漏れ出ていて、僕は一緒にいるとすごく安心できました。僕を自由にさせてくれる、懐の深さがあって。もともと僕は“先輩っ子”なんですけど、変に気を遣ってしまうこともあるんですが、2歳上ですが匠くんにはなかったんですよね。
岐洲:不思議だよね。僕は逆に後輩に懐かれやすかったりはするんですけど、「かわいいな」という感情が湧いたことはほとんどなくて…。でも倫太郎にかんしては「なんか気になる」じゃないですけど、気にかけたくなるような気持ちになったんです(照笑)。これは初めての感覚でした。
八村:「支えられてるなあ」と感じる優しさや懐の深さ、温かさが心地よかったですね。それが、土岐が佐原先生を想う気持ちとも重なったように思います。だから佐原先生に想いを馳せられましたし、佐原先生役が匠くんで良かったなと思っています。
―名匠・市川崑さんの言葉に、「キャスティングは一番重要な演出」というのがありますが、今回、まさにそうだったみたいですね。
岐洲:そうですね、僕たちに限らず、この作品は本当に良い方々ばかりで、スタッフさんも皆おもしろい人ばかり。なんだかもう、お笑い芸人の集団みたいでしたね(笑)。
(一同笑)
「奇声みたいな雄叫びが何度も聴こえてきました(笑)」
―実際、現場の雰囲気も良かったのかなと思いました。
八村:超最高! いい人しかいなかったですね。
岐洲:(ロケ地が)長野だったこともあって、合宿生活みたいに、皆で大浴場に入った後で掘りごたつのある部屋に集まって、本読みをしたり、お菓子を食べたり、ゲームをして遊んだりしていました。
八村:そうそう。もちろん主演の重さみたいなものはありましたけど、匠くんがどっしり構えてくれていたから、僕もしっかり芝居に向き合えて。周りの皆も、それぞれが「本読みしよう」と言い出す感じになっていたのも、ありがたかったですよね。
岐洲:それぞれが率先して「本読みしましょう!」って言ってくれる。めちゃくちゃ助かりましたね。心からありがとう! っていう感じ。皆の「やろうぜ」という気持ちが自然と伝染していったのかもしれません。倫太郎の明るくて接しやすいパワーのおかげでもあったと思います。
八村:でも正直、最初は怖かったです。一人で役を作っていきたい人もいるだろうし、お芝居への向き合い方って人それぞれ違うから。でも皆で本読みをしておけば、本番直前で変更があっても対応できるし、より良く進化していける。そういうことも匠くんなら受け止めてくれるだろうと思えたし、皆にも助けられた、愛のある現場でした。
―お話をうかがっていると、それぞれ演じられているキャラクターとご自身がリンクする部分があるようですね。
岐洲:僕は、思っていてもなかなか口には出せないことが多いですが、それに慣れてしまったダメな自分もいたんです。でも、そういうところを簡単に突破してくるのが土岐であり、倫太郎で。だから役としても人間としても、そのままナチュラルで居られたのが、すごく幸せで、学びでもありました。
八村:僕は半々です。土岐ほど素直になるのは難しいし、自分の想いを全部オープンにして人と接するのは怖い。結構、人を気にしたり、気を配ったりしちゃうので、もっとオープンになれたらいいなと思っていました。でも今回は土岐に背中を押されて、心を開いて人と接することができたように思います。土岐に救われたような気持ちですね。
―第3話で「白雪姫」を共演(!)されています。土岐くんの白雪姫姿、想像以上にキュートでした。あまり無いシチュエーションでのお芝居だったかと思いますが、演じてみていかがでしたか?
八村:僕はそれが素敵だと思うので、なるべくお芝居を自然に見せられればと思っています。でも第1話の撮影のとき、監督から「もっと自由に、もっと大胆に動いていいよ」と言われたので、藤堂(慎治/演:松本大輝)に怒るシーンで顔から迫っていきました。
八村:土岐を演じることがさらに楽しくなったシーンでもあるんですが、「白雪姫」もヤンキーがドレスを着てお姫様を演じるなんて(笑)、そんなおかしなシチュエーションないじゃないですか? だから、やれる限りメチャクチャやってやろう! と思って。キスシーンのあとの土岐の雄叫び、ぜひ楽しみにしていてください(笑)。
岐洲:奇声みたいな雄叫びが何度も聴こえてきました(笑)。あそこを練習する? と思いつつも、ずっと練習している姿がかわいいし、ストイックで。感心しました(笑)。
(一同爆笑)
岐洲:何をするにも楽しんでいたよね? それはドラマからも伝わると思います。
「ドラマを観て、『私は、僕は好きなことに正直になっていいんだ』って思ってもらえたら」
―この作品の主題歌は、「I don’t care」。八村さんは、WATWINGのメンバーの意見なども聞きながら作詞作曲されたと伺いました。岐洲さんは、主題歌を聴いてみていかがでしたか?
岐洲:めちゃくちゃカッコよかったです。実はライブにも行かせてもらったんですが、そこでは聴けなかったので、ずっとワクワクしていました。
八村:「I don’t care」は、もともと作ってあった曲なんですが、運命的に作品とマッチして、オープニング主題歌として採用していただきました。
―サビの「You‘re talking about, talking about I don’t care」という歌詞の肯定感にグッときますね。快晴の空に広がっていくようなメロディも素敵です。
八村:冒頭でも言いましたが、僕は正直に生きる土岐がとても好きです。「I don’t care(気にしない)」という曲は、――あなたや世間がどんなに気にしようとも、僕は気にしない。好きだし、愛していることに変わりはない。過去も未来も、自分が愛してきたものに自信を持つ――そう肯定したくて作った曲です。それがこの作品の世界観とすごくマッチしていた。楽曲を聴いて、ドラマを観て、「私は、僕は好きなことに正直になっていいんだ」って思ってもらえたら、すごく嬉しいです。
取材:関口裕子
撮影:落合由夏
・岐洲匠
スタイリスト:朝倉豊(Yutaka Asakura)
ヘアメイク:八十島優吾(Yasoshima Yugo)
・八村倫太郎
ヘアメイク:七絵(nanae)
スタイリスト:永井和(KAZ NAGAI)
『佐原先生と土岐くん』は女性チャンネル LaLaTVで2024年2月4日(日)より放送開始