梅干しづくり断念する農家も 食品衛生法改正で漬物製造が許可制に、和歌山

梅農家の夫婦が手作りする梅干し。法改正に伴い、産直店へ出すのをやめるという(和歌山県田辺市内で)

 食品衛生法の改正で、漬物の製造が届け出制から営業許可の対象に変わり、衛生基準を満たす施設が必要になった。改正法は2021年6月の施行で、猶予期間は今年5月末で終わる。日本一の梅産地である和歌山県紀南地方では、梅干しづくりをやめると決めたり、続けるか悩んだりしている農家もいる。

 「年齢も年齢だし、ちょうどいい機会だから」。田辺市内の70代男性は法改正を受けて、妻と続けてきた梅干しづくりをやめると昨年春に決めた。

 しそ梅を自宅近くの倉庫で手作りして産直店へ出すようになって約20年。客から「ようやく探していた梅干しを見つけた」という声をもらったこともある。ただ、設備投資には費用がかかる。「若かったら続けるんだろうけど」。倉庫に残る分を出し切れば、梅干しづくりを終える。

■産直店にも影響か

 梅干しなど手作りの漬物が並ぶ産直店にも、影響が及ぶ可能性はある。

 田辺市上秋津の産直店「きてら」を運営する農業法人の木村則夫専務(68)は「(法改正で漬物の製造を)やめようという人は出てくるかもしれない」とし「地域の食文化を守るという視点を、地産地消の意味も併せて考えてもらいたい」と話す。

 昨年11月に宇都宮市であった「全国農林水産物直売サミット」でも、この件が話題に上がった。全国の産直店の中には、漬物の売り上げが全体の多くを占める店舗もあるという。

■許可取得の梅農家も

 一方、田辺市内のある梅農家の40代男性一家は、改正法施行から4カ月後の21年10月に営業許可を取った。「これからは安心、安全に加えて『清潔』も求められるようになる」と考え、19年に300万円余りを設備投資に充てていた。「時代の先を読んで動くべきだと思った。流れにどう対応するかが経営者に求められる」と力を込める。

■早めの申請、相談を  保健所

 営業許可を受けるには、工程ごとの区画がある専用の施設が必要。保健所の職員による立ち入り検査を経て、問題がなければ許可が下りる。

 法改正前に漬物製造の届け出をしていた事業者へ周知してきた田辺保健所(田辺市朝日ケ丘)は「6月以降も製造する場合は、早めの申請、相談をお願いしたい」と話している。

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