元気な成長都市・福岡市にはビジネスマン向けのリスキリングの”場”も多い⁉

いま、〝学び直し〟を意味する『リスキリング』という言葉が、世界的に注目されています。そして、社会人をはじめビジネスマン・経営者らの〝学び直し〟の場として、注目されているのが専門職大学院です。福岡市には、多彩な専門職大学院があり、高度専門職業人の育成という面から〝都市の魅力〟について考えていきます。

ダボス会議提唱のリスキリング。日本では1兆円支援を国会表明

東京・永田町にある国会議事堂本館

「リスキリング、すなわち、成長分野に移動するための学び直しへの支援策の整備や年功制の職能給から、日本に合った職務給への移行など、企業間、産業間での労働移動円滑化に向けた指針を来年6月までに取りまとめます。特に個人のリスキリングに対する公的支援については、人への投資策を5年間で1兆円のパッケージに拡充します」
2022年10月3日に召集された第210回臨時国会の衆院本会議での所信表明演説で岸田文雄首相は、個人のリスキリング支援に1兆円を投じることを表明した。

「成長分野に移動するための学び直し」とするリスキリングは、個人が新たな職業に就くため、あるいは現在の職業スキルを高めるための〝学び直し〟でもある。
そして、リスキリングは、いまや世界的な潮流になっている。世界のリーダーらが連携して世界情勢や地域・産業の課題解決に取り組む『世界経済フォーラム』では、2018年からリスキリングの必要性を提唱している。
2020年1月に開催された年次総会(通称『ダボス会議』)において、「2030年までに世界で10億人をリスキリングする」ことを宣言した。そして、各国政府や企業、教育機関・団体、労働組合などに幅広く働き掛けて、新たな潮流を世界的に生み出している。

ビジネスマン・経営者向けの多彩なリスキリングの場が福岡市にある

近年、科学技術は飛躍的に進展し、社会・経済はグローバル化して産業構造も高度化・複雑化している。
このため、産業界を中心に高度な専門知識と実践能力を持つ〝高度専門職業人〟の養成ニーズが高まっていた。
このような状況下、注目されているのが、職場や仕事で必要な専門知識やスキル・ノウハウを身につけるための教育機関の一つである、専門職大学院だ。

従来の大学院教育は研究者養成を主眼としていたため、高度な実務教育が不十分という声も聞かれていた。
〝現場で活躍するプロフェッショナル〟の養成に特化した大学院として2003年、専門職大学院が発足した。
専門職大学院は、法曹(法科大学院)、会計、ビジネス・MOT(技術経営)、公共政策、公衆衛生、教職など多彩な分野において開設されている。

専門職大学院のうち、ビジネス・MOT(技術経営)に直結する専門知識の習得を目指す大学院は、〝ビジネススクール〟とも称されている。
これらのビジネススクールでは、日本で経営学修士と訳される『MBA』(Master of Business Administration)の学位を取得可能なため、MBAスクール、あるいは単にMBAと呼ばれることもある。
福岡市内には、ビジネスマンや経営者らのリスキリングの場になり得る専門職大学院やMBAスクール、さらに次世代人材育成塾など多彩な〝学び直し〟の場がある。

九州大学ビジネス・スクール(九州大学大学院経済学府産業マネジメント専攻)

九州大学ビジネス・スクールは一橋大学、神戸大学に次ぐ3校目となる国立大学のビジネス·スクールであり、九州初のMBAスクールとして2003年4月に開校した。
アジアの玄関口である福岡に立地する九州大学ビジネス・スクールは、〝『アジア』で活躍できる人材〟の育成に取り組む。
さらに総合大学としての研究教育資源を生かし、技術をビジネスに結びつける『技術経営(MOT)』、デザインと起業家教育を融合させた『DBEX(デザイン×ビジネス×アントレプレナーシップ)』にも注力する。

福岡市西区の九大伊都地区をメインキャンパスとする一方、通学に便利な博多駅ビル内にサテライト教室を構えて、平日夕方の講義を実施している。
九州大学ビジネス・スクールの専攻長である目代武史教授は、自校の教育的な取り組みや今後の展望について、次のようにコメントする。

目代武史教授

いま大きな地殻変動が起きている中、これらの事象に対処すべく研究教育体制の強化に努め、新たな教育プログラムの開発·提供を進めています。
ビジネス・スクールで学ぶ2年間で得られる専門知識、そして業種や世代を超えた仲間や人的ネットワークは、生涯を通じての〝財産〟になり得ます。

九州大学ビジネス・スクールの専攻長を務める目代武史教授

グロービス経営大学院 福岡校

グロービス経営大学院は、在校生と卒業生の累計を合わせると1万人を超える日本最大のビジネススクール(専門職大学院)である。
開学した2006年には78人だった入学者数は2023年、全国最多の1,068人を数えるまでに成長を遂げている。
グロービス経営大学院経営研究科の君島朋子研究科長は、自校における教育上の特色や今後の取り組みについて、次のようにコメントする。

君島朋子研究科長

グロービスのカリキュラムの特色は〝実践性と先進性〟にあります。
ビジネスの最前線で活躍している実務家教員とともに議論を深めることで、仕事で高い成果をあげるために必要な能力を磨きます。
加えて、従来のMBAのヒト・モノ・カネという領域だけではなく、リーダーに求められる“思考力”や“志”といった領域の独自の科目がある点が多くのビジネスパーソンから支持されています。
時代の変化にあわせてグロービスのMBAは進化し続けており、今後はテクノロジーとイノベーションをかけあわせた新領域である『テクノベート』関連の新科目の開講を加速させます。
今後も組織の変革や新しいビジネスを創造する能力を身に付けた数多くの人材を輩出し続けたいと思います。

グロービス経営大学院経営研究科の君島朋子研究科長

事業構想大学院大学(福岡校)

「事業構想を考え構築する人を育成するクリエイティビティを重視した、従来の枠を超える新しい社会人向け大学院」とするのが、事業構想大学院大学だ。
事業構想大学院大学で授与される学位は、『MPD』(Master of Project Design、「事業構想修士(専門職)」)となっている。
企業の新規事業担当者、事業承継予定者、現役の経営者など様々なバックボーンを持った社会人院生が在籍している。
また福岡県内のほか、九州各県、山口、広島、沖縄、海外からもオンラインを活用して受講している。

2018年4月福岡市・天神に開校した福岡校は2023年2月、博多駅直結のJRJP博多ビル4階へ移転した。
事業構想大学院大学(福岡校)の井手隆司統括教授は、自校における教育上の特色や今後の取り組みについて、次のようにコメントする。

井手隆司統括教授

事業の根本であるアイデアから発想し、理想となる事業構想を考え、実現可能なアイデアに膨らませ、構想計画を構築していくという新規事業開発を目的に取り組んでいます。

来年度からは、次世代経営者向けの『承継者コース』を新設します。
また福岡校では『観光まちづくり』に特化した授業科目も開講し、ますますカリキュラムが充実します。

事業構想大学院大学(福岡校)の井手隆司統括教授

山口大学大学院技術経営研究科 福岡教室

「技術経営(Management of Technology:MOT)は、技術を事業の核とする企業・組織が次世代の事業を継続的に創出し、持続的発展を行うための創造的、かつ戦略的なイノベーションのマネジメント」と定義する山口大学大学院技術経営研究科は、西日本唯一のMOT専門職大学院だ。

山口大学は1997年、大学院特別講義・社会人特別講座『ベンチャービジネス特論』を開設した。
2004年、工学部にMOT教育推進本部を設置して大学院理工学研究科でのMOT専門職プログラムを始めた。
翌2005年、西日本初のMOT専門職大学院として『山口大学大学院技術経営研究科』を発足させた。

現在、山口大学工学部が拠点を構える常盤キャンパス(山口県宇部市)に宇部教室を構え、福岡教室、広島教室を開設する。
山口大学大学院技術経営研究科の福代和宏教授は、自校における教育上の特色や今後の取り組みについて、次のようにコメントする。

福代和宏教授

技術と経営の2つの視点から企業の問題解決に取り組むことができるリーダーの輩出を目指しています。
管理職になったエンジニアや中小企業の経営者・後継者など《経営について体系的に学び直したい》という方々が来られており、アカデミックな研究成果を応用できる実務家の育成にも力を入れています。

山口大学大学院技術経営研究科の福代和宏教授(画像提供:山口新聞)

九州・アジア経営塾

21世紀初頭、地元各社は、社員を海外大学院に派遣しMBAを取得させていた。
このような状況下、地元でビジネススクールを設立しようとする動きが始まった。
その後、情勢の変化もあり、リーダー人材を養成する経営塾へ舵を切る。

「九州経済の自立および日本経済ひいてはアジア経済圏の近未来を支える次世代リーダーを輩出することにより、経済活動の活性化を図り、もって社会全体の利益の増進に貢献する」
この建塾の精神を掲げて2004 年、産学官連携によって九州・アジア経営塾が誕生した。

スキルや知識偏重の欧米ビジネススクール流と一線を画し、仏教や儒教など東洋思想の考え方を取り入れ、リーダーが持つべき確固たる志や価値観の涵養、変化の激しい時代を切り拓いていくための知恵の享受を核とするプログラムを提供している。
一方、卒塾生らは、同窓会組織『碧樹会』を構成して継続的に学び続ける。
橋田紘一塾長は、同塾の教育の特色や塾生への期待について、次のようにコメントする。

橋田紘一塾長

塾生は11か月間の学びを通して、人生の北極星を定め、卒塾後もリーダーシップの旅を続けます。
今後もKAILの目指す『人財の森』がますます広がり、社会への恩返しを率先することを期待しています。

九州・アジア経営塾の橋田紘一塾長(画像提供:九州・アジア経営塾)

司法制度改革による弁護士増と福岡市内の法科大学院

裁判員制度の導入、刑事裁判の充実・迅速化、法科大学院制度・新司法試験の導入、法テラスの設置、検察審査会の機能強化、知的財産高等裁判所の設置……。
「より身近で、速くて、頼りがいのある司法」を掲げて、2001年から始まった司法制度改革における〝目玉〟の一つが、ロー・スクールとも呼ばれる法科大学院の設置だ。

司法制度改革における法科大学院制度・新司法試験の導入で弁護士の数は、大幅に増えた。
法科大学院がスタートした2004年に2万224人だった弁護士は、2021年には2.14倍増の4万3,206人となっている。

現在、福岡市内には、九州大学大学院法務学府実践法学専攻(法科大学院)と福岡大学法科大学院がある。
なお、両校と共に2004年4月に開校した西南学院大学法科大学院は、2022年3月をもって廃止された。

福岡市には医療経営系や臨床心理系の専門職大学院もある

専門職大学院は今日、ビジネス・MOT(技術経営)や法曹に限らす、公共政策や公衆衛生、教職など多彩な分野において〝高度専門職業人〟を養成している。
ビジネス・スクール、ロー・スクールを開校する九州大学は、医学系学府医療経営・管理学専攻と人間環境学府実践臨床心理学専攻の専門職大学院も設置している。

前者は公衆衛生専門職大学院としては日本で2校目であり、医療経営・管理学分野においては日本初の設置だった。
一方、後者は、〝こころの時代〟における高度専門職業人である『臨床心理士(こころの専門家)』を養成していく専門職大学院だ。

都市力は人材力。魅力的で優秀な人材が都市の価値を高めて魅力的にする

一般的に海外のビジネススクールは高額な学費で負担が大きい半面、修了後の給与上昇率が高いという傾向がみられる。
事実、英語圏の2大経済紙のひとつである英紙『フィナンシャル・タイムズ』では毎年、評価基準において給与上昇率に比重を置いた『国際MBAランキング』を発表している。

一方、日本での専門職大学院の場合、給与上昇率と必ずしも直結していない。
むしろ、リスキリングの場として〝学び直し〟という点に加えて、ビジネスネットワークやビジネスコミュニテイーを得るということの意義は大きいと考える。
共に学び合うことで業種や年齢などを超えた人的なネットワークが形成される。
同期という〝ヨコ〟のつながりに加えて、同窓会や類似した組織を通じて先輩・後輩という〝タテ〟のつながりを築くことも可能だ。
さらに講師や関係者らとの〝ナナメ〟の関係を構築していくこともあり得る。

リスキリングの枠にとどまらず、互いにつながって刺激し合うことで能力や人間力を切磋琢磨し合う機会にもなり得るのだ。
魅力的で優秀な人材が活躍する都市は魅力的であり、ヒト・カネ・ビジネスも集まって来る。
福岡市がさらに魅力的で面白い街になっていく上でもヒトの存在感は、きわめて大きいと考える。

参照サイト

首相官邸『第二百十回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説』
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/1003shoshinhyomei.html

九州大学ビジネス・スクール(経済学府産業マネジメント専攻)
https://qbs.kyushu-u.ac.jp/

グロービス経営大学院
https://mba.globis.ac.jp/

事業構想大学院大学
https://www.mpd.ac.jp/

山口大学大学院技術経営研究科
https://mot.yamaguchi-u.ac.jp/

九州・アジア経営塾
https://www.kail2004.jp/

九州大学大学院法務学府実践法学専攻(法科大学院)
https://www.law.kyushu-u.ac.jp/lawschool/law/about.php

福岡大学法科大学院
https://www.ilp.fukuoka-u.ac.jp/

九州大学 大学院 医学系学府 医療経営・管理学専攻
https://www.hcam.med.kyushu-u.ac.jp/

九州大学大学院人間環境学府実践臨床心理学専攻
https://www.hues.kyushu-u.ac.jp/major-program/clinicalpsy/

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