[社説]非正規「遡及せず」 賃上げに差 あり得ない

 システム上の課題を言い訳にするのは本末転倒だ。非正規職員を軽んじた、あり得ない対応である。

 人事院や人事委員会の勧告に基づく公務員の給与引き上げで、県内11市のうち那覇など5市が、正規職員には適用される遡及(そきゅう)を非正規職員(会計年度任用職員)に適用しない方針であることが分かり、批判の声が上がった。

 給与計算システムが、職種や給与形態が多岐にわたる非正規職員に対応していないことなどを理由にしている。

 那覇市では、遡及分を含まない補正予算案が市議会で採決されず、26日になって、知念覚市長が会見で、遡及適用への方針転換を表明した。

 遡及されなければ、昨年4~12月の9カ月分で1人当たり7万~9万円が支給されない計算だった。

 同市の非正規職員は約1700人で全体の4割を占める。非正規職員なしに行政は回らないはずだ。ないがしろにしていいのか。

 同市のほか、糸満、うるま、豊見城、南城の5市が遡及しない方針を示した一方、浦添、沖縄、宜野湾、名護、宮古島、石垣の6市と県は遡及する方針だ。

 宜野湾市は、那覇市などと同様、システムが対応していなかったが、独自にエクセルを使って非正規職員約700人分の給与計算を行った。昨年末、正規職員とほぼ同じタイミングで増額分を支給したという。

 課題をクリアして非正規職員に対応している自治体がある。遡及しないとした5市は本当に手を尽くしたのか、疑問を持たざるを得ない。

 労働の対価は、正規、非正規にかかわらず平等に支払われるべきだ。

■    ■

 総務省は昨年5月、非正規公務員の給与改定について「実施時期を含め、常勤職員に準じることを基本とする」との通知を出し、正規職員と同様、4月にさかのぼって改定するよう促した。

 だが自治労連が全国の都道府県・市町村に調査したところ、4月にさかのぼって改定する自治体は3割にとどまった。事務の煩雑さなどが遡及しない理由に上がった。

 自治体によって、非正規公務員の待遇に差が生じるのは問題だ。

 国は、地方自治体任せにするのではなく、確実に適用させる手だてを講じるべきだ。システム上の煩雑さが障壁になっているのだとしたら自治体がスムーズに給与改定できるような支援が必要だろう。

■    ■

 非正規公務員は、正規職員の定数削減、財政逼迫(ひっぱく)による人件費削減、地方分権による国や県から市町村への権限移譲に伴う業務拡大-などを背景に増加した。

 自治労連が行った実態アンケートでは「ワーキングプア」の指標となる年収200万円未満の非正規職員が60%を占めた。沖縄はさらに高く76%だった。

 正規職員と同じように公共サービスを担っているのに待遇は圧倒的に悪い。

 各自治体は、非正規公務員の処遇改善にあらゆる手を尽くし、率先して格差解消を進めるべきだ。

© 株式会社沖縄タイムス社