米国選挙やウクライナ侵略の影響は?2024年「世界の10大リスク」とは?金融アナリストが解説

2024年、どのようなリスクを押さえておくべきかご存知ですか?相場を取り巻くリスク、環境を紐解くだけでなく、ご家族でも話のテーマにしていただくと学びになるのが、米国の調査会社ユーラシア・グループが毎年発表している、「世界の10大リスク」です。今年は1月8日に発表されました。まずは、今年の世界の10大リスクをチェックしていきましょう。


・リスク No.1 米国の敵は米国
・リスク No.2 瀬戸際に立つ中東
・リスク No.3 ウクライナ分割
・リスク No.4 AI のガバナンス欠如
・リスク No.5 ならず者国家の枢軸
・リスク No.6 回復しない中国
・リスク No.7 重要鉱物の争奪戦
・リスク No.8 インフレによる経済的逆風
・リスク No.9 エルニーニョ再来
・リスク No.10 分断化が進む米国でビジネス展開する企業のリスク

では、それぞれのリスクについて解説していきます。

リスクNo.1 「米国の敵は米国」

リスクNo.1 として「米国の敵は米国」が挙げられています。2024年はアメリカ大統領選挙の年となりますが、米国の政治的分断が一層深まるということが、「米国の敵は米国」の意味のようです。アメリカ国内の政治的分裂や対立に焦点を当て、現代のアメリカで共和党と民主党の間で非常に深刻な対立が存在し、政策の合意が難しい状況となっていることを示しています。文中では米国の分極化と党派対立は歴史的な高水準にあり、「政治システムの機能不全は先進工業民主主義国の中で最もひどい」とし、大統領選挙がこの政治的分断を悪化させると指摘。また、現在、2大政党である民主党と共和党の大統領候補者として有力視されているジョー・バイデン大統領、ドナルド・トランプ前大統領はそれぞれ高齢であること、訴追を受けていることなどから「大統領に不適格」とし、米国民の大多数はいずれの候補者も大統領に望んでいない、と痛烈に批判しました。

アメリカの大統領選挙のある今年は政治的な選択肢や指導者の選出に関する重要な年です。選挙では、国内外のさまざまな問題についての方針や価値観が競い合います。また大統領選挙の前後には政策の不確実性が高まり、特に経済政策や外交政策に影響を及ぼす可能性があります。投資家や企業は、政策の変化に備えてリスクマネジメントを検討する必要があります。

足元ではトランプ元大統領が最初の共和党の党員集会、アイオワ州で圧倒的勝利を収め、2戦目の東部ニューハンプシャー州の予備選挙でも勝利しています。再びトランプ大統領となる可能性が高まっており、経済政策は期待できるのかもと思われる一方で米中関係悪化への懸念も。トランプ大統領就任時は対中国で貿易摩擦やハイテクの分野での対立、人権と安全保障を巡っても対立するなど中国関係が厳しくなったように、アメリカの政治的対立は国際的な影響も及ぼします。外交政策、貿易関係、国際的な連携などに影響を及ぼし、国際社会におけるアメリカの役割や立場が変わる可能性があります。投資家としては選挙関連のイベントや政策の変更に敏感に対応し、ポートフォリオを調整する必要があります。適切なリスク管理策を持つことが投資戦略の成功に寄与するでしょう。

過去の例ですが、2016年11月の大統領選ではヒラリー・クリントン氏とトランプ氏が熱戦となり、クリントン氏が大統領になるとの見方が優勢でしたが、予想を覆してトランプ大統領が勝利したことから大統領選当日の為替市場は波乱の様相を呈しました。その後財政政策への期待感などからドル円は2016年末に向けて大きく上がっています。このように短期的なボラティリティ(価格変動の度合い)の高まりや、トレードのチャンスも今年は生まれる可能性があるでしょう。

リスク No.2 「瀬戸際に立つ中東」

続いてリスク No.2 は「瀬戸際に立つ中東」。中東は地理的に戦略的に重要な地域で、世界のエネルギー供給においても中心的な役割を果たしています。中東は石油と天然ガスの主要な産出地域であり、エネルギー価格や供給の安定性に対する中東情勢の影響は世界経済に大きな影響を与えます。中東は数多くの地域紛争が起こっており、シリア内戦、イランとサウジアラビアの対立、イスラエルとパレスチナの問題などが挙げられますが、この地域の情勢は常に複雑で流動的です。2023年はイスラム組織ハマスとイスラエルの衝突による中東情勢の緊張が意識された年でしたね。イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの争いはニュースで見た方も多いと思います。またイエメンの武装組織フーシ派の紅海での商船への攻撃もサプライチェーンの混乱の懸念に繋がります。

リスク No.3 「ウクライナ分割」

No.3は引き続き地政学リスクです。ロシアが2022年2月24日にウクライナに侵攻したことから端を発しているウクライナ危機が、米欧の支援もあって激化し、現在も終息に至っていないわけですが、レポートではロシアが現在占領しているクリミア半島に加え、ドネツクやルガンスクなどウクライナの領土の約18%の支配権を維持することによってウクライナは2024年に事実上分割されると示されています。昨年2月にバイデン米大統領はウクライナを訪問しゼレンスキー大統領と会談した際に揺るぎない支持を演説で表明しましたが、米欧の支援に関しては侵略開始から今週で1年11か月経過するなかで戦況は膠着状態となり、支援態勢には陰りが見え始めていると報じている状況です。レポートでも米国のウクライナへの大型支援が難しいとの見通しが示されています。

リスク No.4 「AI のガバナンス欠如」

リスク No.4 「AI のガバナンス欠如」については偽情報や拡散というリスクから2024年にはAIのガバナンス不足が明らかになるとの懸念を示唆しています。

リスク No.5 「ならず者国家の枢軸」

リスク No.5 「ならず者国家の枢軸」では、ロシア、北朝鮮、イランについての懸念を示したほか、米国の危険な「友人」としてウクライナのゼレンスキー大統領について、米大統領選でトランプ氏が新大統領になった際ウクライナは支援者を失うことになり、米国が直接的に戦争に巻き込まれる可能性を示したほか、中東におけるアメリカの最も近い同盟国とされるイスラエルのネタニヤフ首相についても、米国が中東戦争に巻き込まれる可能性があることを示唆。

加えて台湾では台湾総統選で2024年1月に与党の頼清徳副総統が初当選しましたが、レポートでは台湾独立に積極的な頼副総統が当選すると米中関係に試練があるのではと懸念しています。動向を注視したいところです。

リスク No.6 「回復しない中国」

リスク No.6 「回復しない中国」については一党独裁である中国の政治や経済の外部環境を理由に中国のリスクを示しています。中国本土株のCSI300指数が1月22日に5年ぶりの安値をつけていることからもすでにリスクが顕在化しているといえそうですが、今後の中国市場を予想する一助となる内容であると感じました。個人的には2022年に中国株は1銘柄(エネルギー関連)を除いて手仕舞って(現金化して)おり、23年にその1銘柄も利食いした(売却して利益を得た)ため保有がないことから下落を落ち着いて見られていますが、またチャンスがあればエントリーしたいと思って見ております。

リスク No.7 「重要鉱物の争奪戦」

リスク No.7 「重要鉱物の争奪戦」では産業政策や貿易制限の強化を背景に重要鉱物の輸入国と輸出国の圧力が激化すると指摘しており、その影響を懸念としています。

リスク No.8 「インフレによる経済的逆風」

リスク No.8 「インフレによる経済的逆風」では2021年から始まった世界的なインフレ懸念が粘り強く残り、逼迫した金融情勢が経済不安を悪化させ景気後退のリスクがあると伝えています。米中央銀行であるFRBは物価の安定と雇用の最大化を目標としているわけですが、インフレを鎮静化させる金融政策、金利の動向というのは市場の動向にも直結するものです。足元では早期利下げ期待は後退しているものの米株式市場は今年に入って好調で今週S&P500は連日で最高値を更新していますがその流れがどこまで続くのか、株式を保有している方にとってはリスクでしょう。また日本は円安傾向の中でインフレリスクは実生活でも引き続き懸念となりそうです。

リスクNo.9「エルニーニョ再来」

「エルニーニョ再来」については4年ぶりの協力なエルニーニョ現象が2023年前半にピークを迎えましたが、その気候への影響が遅れてくるため、2024年に異常気象と言う形でリスクとなるのではと言うことを伝えています。異常気象は農業にも多大な影響を与えますので、コモディティー価格にも影響があり、注視する必要がありそうです。

リスク No.10 「分断化が進む米国でビジネス展開する企業のリスク」

「分断化が進む米国でビジネス展開する企業のリスク」については政治と政策の二極化の影響、党派による国内市場の分断、LG BTQの権利や教育政策などを背景として米国でビジネスをするコストが上昇していると指摘。制作の不確実性と規制リスクの高まりが、企業にとってリスクであると示しています。

事前にリスクを把握しておくことが大切

さてここまでユーラシア・グループが毎年発表している、「世界の10大リスク」についてお伝えしましたがいかがでしたか。気になった方はぜひ原本をチェックしていただけますと幸いです。レポートで指摘されているように、政治的な不安定性や国際的な対立が株式市場に大きな影響を及ぼす可能性は常にあります。

ただ投資において、リスクとは触れ幅でもあるので、全くリスクを取らないことはあり得ません。また全くリスクのない環境もありえないでしょう。そのため地政学的リスクを常に監視し、投資判断に反映させること、またポートフォリオのリスクマネジメントを強化し、損失を最小限に抑えるための対策を練っておくこと、市場の変動に対する準備を整えておくことが重要です。

事前にリスクを知っておくことで、ニュースで見たときにこのリスクが起きたらこういうことが起きそうだから、こういう投資行動をしようと事前に準備をしているのとしていないのでは、大きなパフォーマンスの差につながっていきます。2024年の株式投資に臨むうえでぜひリスクも押さえておいてくださいね。

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