川崎重工業・橋本社長が語る「防衛」 売り上げ倍増予想の要因は?

防衛事業などについて語る川崎重工業の橋本康彦社長=神戸市中央区東川崎町1(撮影・大島光貴)

 オートバイに鉄道車両、船舶、航空機…。神戸を代表する重工メーカー、川崎重工業が手がける製品は幅広い。水素の運搬・貯蔵や水素エンジンの開発なども手がける。そんな中で近年注目されているのが、防衛関連事業とロボット事業だ。橋本康彦社長へのインタビューで聞いた両事業の狙いなどを、前後2回に分けてリポートする。前編は「防衛事業」。2030年度には同事業の売上高が22年度の2~3倍の5千億~7千億円になる見通しという。どうしてそんなに増えるのですか? (石川 翠)

 -川重で製造する防衛関連製品とは

 「哨戒機『P1』や輸送機『C2』がよく知られている。C2は災害時に人命を救助したり物資を運んだり、上からパラシュートで物を送ったりできる大型輸送機だ。また、潜水艦と、空から潜水艦を探知するP1哨戒機の双方を製造しており、矛と盾の両方を手がけているといえる。(防衛関連の)他社と一番異なる点は、完成した大型機をつくってきた点だ」

 「戦争が起きなくても、日本列島周辺を警戒するために哨戒機はずっと飛んでいなければならず、国境付近は緊張状態で監視しないといけない。輸送機は災害時の救援でも活用されている。また、イベントのときに曲芸飛行を披露するブルーインパルスは川重製。映画『トップガン』のような非常に際どい動きの訓練もしている」

 -昨年12月の「グループビジョン2030」の進捗報告会で、防衛事業の売上予測を大幅に引き上げた

 「これまでは(国の防衛関連の)予算が非常に厳しく、利益も出なかった。防衛事業は時々しか発注がないのに、開発費も製造費もすごくかかる。設備投資や研究費などで赤字になってしまうので、多くの企業が手を引いてしまった。それではわれわれのようなサプライヤーも物がつくれず、飛行機が故障しても修理ができなくなる」

 「こうした背景もあり、国防のための装備品開発や維持に必要な費用として、防衛費が増えてきた。われわれは決して大きなお金を取っているわけではない。得た利益は研究開発や設備投資などに回していく」

 -敵の射程圏外から攻撃可能な「スタンド・オフミサイル」用のエンジンの開発も発表した

 「これまでもミサイルを撃ち落とすために使う小型の『標的機用エンジン』を納入してきた。今回発表したのは、非常に高推力で、長距離を飛ばせるエンジン。例えば他国から何かが飛来してきたときに迎撃するため、千キロや2千キロという距離を飛ばせる。『トマホーク』(米国の巡航ミサイル)のような長距離射程のエンジン技術をわれわれは持っている」

 「長距離を飛ぶエンジン技術に加え、探知されにくいステルス技術、攻撃をかわしながら飛べる技術もある。そうした性能の高い製品を供給していく」 【はしもと・やすひこ】1957年、神戸市須磨区生まれ。西須磨小、灘中高、東大工学部卒。81年川崎重工業入社。一貫してロボット部門(明石工場)に勤務し、2013年執行役員、18年取締役常務執行役員、20年6月現職。社長就任後も時間があると、神戸市長田区のたかとり教会を訪れてミサに参加する。

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