農泊、じわり拡大 茨城県内7地域 体験充実、移住や雇用創出

農泊体験を提供する古民家江口屋=かすみがうら市坂

農山漁村地域に宿泊し、その地域ならではの体験や食事を楽しむ「農泊」の取り組みが広がっている。利用者が移住を考えたり、地元の雇用創出につながったりするのが利点。茨城県内でも人気を集める施設があり、県は「挑戦したい人を支援し、農泊できる場所を広げていきたい」としている。

農林水産省は、滞在型観光が移住や定住のきっかけや地域の雇用につながるとみて農泊を推進。同省は農泊に取り組む地域を農山漁村振興交付金で支援しており、これまでに採択された地域は2022年度末で621地域に上る。

県内では17年以降、7地域が採択された。かすみがうら市にあるゲストハウス「江口屋」はその一つ。明治後期に建てられた古民家を改装した施設で、まき割りやサイクリングなどの体験活動や地元食材を使った食事を提供する。

運営する市の第三セクター「かすみがうら未来づくりカンパニー」によると、20年7月のオープン以降は宿泊者数が右肩上がりで、22年度は1100人が利用。訪日外国人の宿泊客も増えつつあるといい、同社の今野浩紹社長(39)は「かすみがうら市の良さを国内、国外に広めていきたい」と意気込む。

古河市では、県古民家再生協会が23年10月、国や同市の補助金を活用し、古民家を宿泊施設にリニューアル。今後、野菜収穫やバーベキューなどの体験活動を充実させ、同市の農泊のランドマーク的存在を目指す方針を掲げている。

しかし、同省補助金の交付は最長で2年間。農泊事業がその間に定着するかどうかは不透明な点も少なくない。

大子町が事務局を務める「町森林セラピー協議会」は21~22年、同省補助金を活用した森林セラピーなどを盛り込んだ宿泊ツアーを実施したり、体験活動の講師育成に取り組んだりした。しかし、新型コロナ禍と重なったこともあり苦戦を強いられ、体験活動や宿泊施設をつなぐ運営組織の立ち上げに至らなかった。

県も農泊を推進し、地域活性化の一助にと期待を寄せる。ただ、県内は大人数を受け入れられる地域がまだなく、県農村計画課によると、旅行会社から200人規模を受け入れられる地域や施設の紹介を依頼されても対応できず、担当者は「チャンスを逃している」と実情を明かす。

県は今後、農泊事業の希望者を対象にした先進地視察などのセミナーをはじめ、地域交流の実践者同士が情報交換できる機会を用意。人材育成と受け入れ体制の強化を図り、農泊地域の拡大につなげたい考えだ。

© 株式会社茨城新聞社