医療資源が乏しい離島、馬毛島工事関係者が混雑に拍車 昨夏はコロナとインフルが同時多発…「医療は保てるのか」不安は募る

多くの患者で混み合う病院内=10日、西之表市の種子島医療センター

 鹿児島県西之表市馬毛島の自衛隊基地整備は、昨年1月の基地本体着工から1年となった。インフラのない「離島の離島」を丸ごと基地化する異例ずくめの国家事業。地元の産業や暮らしに与える影響を追った。

 種子島の医療拠点の一つ、種子島医療センター(西之表市)は年明け、多くの患者で混み合っていた。待合ロビーの即席のパイプ椅子にも座れず、立って待つ姿も目立った。

 「待ち時間が倍以上の3~4時間になった」と同市の70代男性。薬をもらいに定期的に通う同市の70代女性も「昼の12時半の乗り合いタクシーで帰っていたが、最近は間に合わない」と困り顔だ。

 現在、同センターの外来は1日450~500人。1年前に馬毛島の基地本体整備が始まってから増加傾向にある。市内の別の医療機関も同様といい、以前は70~80人だったところが、雨の日は午前中だけで100人を超える。

 医師の高齢化などで診療所の閉鎖が相次ぐ中、工事関係の患者が増え、混雑に拍車がかかったとみられている。

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 将来的に見込まれる工事関係者は最大6000人規模。種子島の人口約2万7000人の2割超にあたる計算だ。離島は都市部に比べて医療資源が乏しく、住民は急激な作業員の流入を警戒。患者を受け入れる医療機関は備えを進める。

 同センターは混雑解消のため、工事関係者はできるだけ午後に受診するよう業者などに要請した。昨年7月に馬毛島への巡回診療を始めたほか、2月には島内に診療所を開く予定だ。高尾尊身院長(75)は「住民も工事関係者も命は平等。やれることをやらなければ」と話す。

 種子島から海を挟んで10キロ以上離れた馬毛島で懸念されるのは事故だ。昨年12月は作業員が胸や足を骨折する重傷を負った。大規模事故となれば複数の患者搬送が必要になる。高尾院長は鹿児島市に運ぶケースを想定し、「すぐにヘリを飛ばせる仕組みが必要ではないか」と指摘する。

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 人口の流入は感染症を広げる恐れもある。昨夏はインフルエンザと新型コロナウイルスが同時流行。西之表保健所管内の1医療機関当たりの平均感染者数は7月3~9日、インフルが県平均の1.3倍、コロナが県内最多の同3.8倍だった。

 同市の百合砂診療所の田上容祥院長(76)は「朝から晩まで引っ切りなしに患者が訪れ、検査に追われた。看護師は休憩する間もなく疲弊した」と振り返る。「今後人口が増えれば、再び同時流行する可能性は十分ある」と気をもむ。

 市民団体や地元議員は昨年10月以降、相次いで国と県に対策を求めている。種子島、屋久島の1市3町の議員が参加する「種子島屋久島議会議員大会」では、国による医療従事者の派遣や財政措置を要望する共同提案がまとまった。

 大会で趣旨説明をした南種子町の福島照男議員(70)は「人が増えれば島民に十分な医療が届きにくくなる恐れがあり、医療者の負担も大きくなる」と指摘。「国は基地の建設だけでなく、医療面の支援もしてほしい」と訴える。

(連載「基地着工1年 安保激変@馬毛島」3回目より)

〈関連=変わりゆく馬毛島。1年前と現在の様子を比べて見る〉北側上空から見た馬毛島。左は2023年1月12日撮影、右は24年1月8日撮影=いずれも本社チャーター機から撮影

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