【北朝鮮国民インタビュー】「商売は思想でやるものではない」ある貿易会社幹部の嘆き

世界経済がコロナ禍からの復活を遂げている中、北朝鮮は未だにそのダメージから抜けきれていない。

韓国統計庁が先月発表した「2023北朝鮮の主要統計指標」は、北朝鮮の名目国内総生産(GDP)は36兆2000億ウォン(約4兆27億円)で前年の35兆9000億ウォン(約3兆9692億円)より増加したものの、物価を反映した実質GDP成長率はマイナス0.2%になったと分析している。2020年のマイナス4.5%、2021年のマイナス0.1%に続き3年連続のマイナス成長だ。

背景にあるのは、政策による貿易の不振だ。北朝鮮当局は2020年1月、何の事前通告もなしに突然国境を封鎖した。貿易業者は代金を前払いしていた商品を受け取れなくなったり、商品を先に送ったのに代金が受け取れなくなったりと、大きなダメージを受けた。

最近、デイリーNKがインタビューを行った北朝鮮国防省傘下の大手貿易会社の幹部A氏は、「あっという間に命を絶たれたような心境だった」と、国境封鎖当時を振り返った。担当者個人が国境封鎖によって発生した未収金を背負い、中には破産に追い込まれた人もいた。A氏の同僚の中には、莫大な借金を背負い、自ら命を絶ったケースもあるという。

当局は昨年夏から、国境封鎖を段階的に解除している。貿易関係者の間では、輸出入の統制が緩和され、コロナ前の好況を取り戻せるのではないかとの期待が広がった。しかし、すべての貿易を国が司る「国家唯一貿易制度」を復活させ、以前のような比較的自由な貿易はできなくなってしまった。税関の中には未だに閉鎖されたままのところもある。

貿易をめぐって違法行為が横行し、ありとあらゆるものを輸入品に頼る「輸入病」により国内産業の育成が阻害されるなど、弊害が大きかったからだろう。しかし、市場で販売されている食料品、生活必需品の9割が中国製と言われる現状を無視した経済政策に対しては、業者と消費者とを問わず不満が大きい。

以下はA氏との一問一答だ。

ー新年を迎えて対外経済省から貿易政策や指針は出された?

A氏(以下A):1.15指令というものが下された。「われわれ(北朝鮮)式貿易第一主義で臨むべきであり、外国の業者にもわれわれの確固たる意志を見せつけよ」というものだった。

要するに、中国の業者の中から長く付き合えそうな相手を選別し、ツケや無料で商品を融通してくれる、こちらに都合の良いパートナーに仕立てろということだ。

相手の業者は北朝鮮の公民でもないのに、わが国の方針をどう理解させればいいのかわからない。南朝鮮(韓国)と結託している外国企業、機関、相手国を選別し、敵が貿易部門に足を踏み入れる隙を与えてはならないという内容もあった。貿易までわれわれ式にやれと言われても、果たしてうまくいくのか。

ー昨年末、新たにワック(貿易許可証)が発行されたそうだが、輸出入が増えているから数も増えた?

A:そうではない。国家所属の貿易会社、以前からワックを持って貿易をしていた機関や個人に再発行したに過ぎない。ワックの再発行には提出書類が非常に多く、基準もかなり厳しくなった。コロナ前なら提出書類は10枚もなかったが、今では20枚以上だ。最も困難なことは、取引する中国の業者の素性を証明しなければならない点だ。

ー国から輸入を指示された物は?生活必需品も輸入している?

A:国が輸入したいもの、輸出したいものに関してはすべて正常化された。宝石類、高級衣類、酒、グラス、やかん、靴、バッグ、ヒールなど、国の機関から要求される物品は非常に多い。それに比べて生活必需品に対する許可は、量的にも種類の面でも多くない。最近輸入しているのは衣服用の原材料だけだ。

ーロシアのウクライナ侵攻後、北朝鮮とロシアの貿易が活発化した。対中貿易の割合が圧倒的に多いが、対露貿易にも力を入れている?

A:ロシアが稲妻なら、中国は提灯のようだ。つまり、いまロシアとは活発に貿易を行っており量も多いが、長くは続かないと見ている。一方、中国は油を足すだけで火が灯り続ける提灯のように長く続くだろう。

しかし、提灯をずっと使っていると煤で鼻の穴が真っ黒になる。われわれの鼻の穴は、中国とばかり付き合いすぎて、もう真っ黒だ。それをわかっていながらも提灯に火を灯し続けているのは、提灯の火が消えたら完全に真っ暗になるからだ。北朝鮮の貿易の実態は、提灯の火が消えそうになって薄暗い状態だ。

ー貿易会社の幹部としての新年の抱負は?

A:コロナ禍の中では、妻の実家や知人から借金してなんとか暮らしていた。コメ1キロ、現金1ウォンを集めて助けてくれた家族や知人に、今年こそは恩返しをしたい。

国に望むことはひとつだけだ。われわれは貿易案件を見つけるので、仕事は完全にわれわれに任せてほしい。ワックや輸出入指標計画についても、われわれ貿易関係者と議論してほしい。貿易は唯一思想体系を持って行うのではなく、外国とわが国のバランスを取りつつ行うものだ。コロナ禍を生き抜いた貿易業者は経験豊富で、貿易に命をかけている。規制に固執して時間を無駄にせず、現場にいる貿易関係者と貿易機関を信じてほしい。

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