北朝鮮音楽教育の頂点をドス黒く染める「米ドル入りの花束」

「教育は無償」を掲げる北朝鮮だが、現実はそれに程遠い。初中等教育では教科書、制服などありとあらゆるものが有料で、学校や教師からの金品の要求が絶えない。高等教育も、入試の過程から黒いカネが飛び交い、試験や論文審査などあらゆるプロセスでワイロが求められる。

実家が太い学生ばかりが優遇され、才能があってもカネのない地方出身の学生は冷遇される。そんな現状にしばしばメスが入れられる。北朝鮮音楽教育の頂点、金元均(キム・ウォンギュン)名称音楽舞踊総合大学(以下、平壌音大)もその一つだ。

平壌のデイリーNK内部情報筋によると、新年を迎え平壌音大の学生は、教授のもとを訪ね、花束をプレゼントして新年の挨拶をした。花束とともに現金を渡すのが習慣となっているが、この額が問題となった。

ある学部の学生たちは、皆で現金を集めて、教授1人あたり50ドル(約7380円)紙幣4枚を封筒に入れて、花束に隠して教授たちにプレゼントした。教授全体の数について情報筋は言及していないが、たとえ1人であっても庶民の家の出の学生なら到底集められない額だ。

ほとんどの教授が何も言わずに受け取ったが、1人は「後で問題になったらどうしようか」と不安に思い、数日間悩んだ末に、大学の朝鮮労働党委員会に封筒を渡して、学生から受け取ったことを告白した。

党委員会は他の学部の学生に対しても、現金入りの封筒を教授に渡した者がいれば、恐れることなく率直に申し出るように指示した。その現金はすべて回収し、大学の整備、モシム事業(故金日成主席、金正日総書記の肖像画などの管理)、春の衛生事業に使用することとした。

そして今月16日、党委員会は当該の学部の教授、学生全員を集めて思想闘争会議を開催した。間違いを犯した者に自己批判をさせ、他の人に代わる代わる批判させる「吊し上げ」だ。

その場では「教授に挨拶することまでは止めないし、年賀状や花束を贈ったり、食事に招待することまでは構わない。しかし、現金のやり取りは非社会主義行為(社会主義にそぐわない行為)で、聖なる教壇を乱すものだ」との厳しい批判がなされた。

学生から受け取った現金を正直に党委員会に差し出した教授は「良心のある教授」として称賛された。しかし、受け取って何も言わなかった教授は「良心のない教授」と厳しく批判され、顔を上げて歩けないほどの辱めを受けたとのことだ。

公開の場で吊し上げにして恥をかかせるのはハラスメント行為に他ならないが、北朝鮮のみならず全世界の様々な国の組織で行われている。

ただし、北朝鮮ではお偉方にワイロを渡して問題をもみ消したり、同僚に事前に話をして、あまりひどい批判をしないように配慮し合うなど、形骸化が進んでいると言われている。しかし、今回は「ガチ」の吊し上げになったようだ。

いずれにせよ、ほとぼりが冷めれば何事もなかったかのように、ワイロのやり取りは復活する。教授といえども受け取る月給は雀の涙で、学生からのワイロがなければ生活が成り立たないからだ。教育現場に限らず、国全体に同じような慣習が定着しており、根絶は困難だろう。

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