「ぬか炊き」の本当の呼び方とは? 小倉中央小学校で郷土料理の特別授業【北九州市小倉北区】

1月24日と25日、北九州市内の小学校や中学校、特別支援学校で、市制60周年記念の特別メニューが子どもたちに給食で提供されました。献立は、北九州市の郷土料理である「いわしのぬか炊き」です。北九州市内や福岡県内産の材料が使用されました。

また、北九州市立小倉中央小学校(北九州市小倉北区堺町2-4-1)では、郷土料理「ぬか炊き」について特別授業が実施されました。特別授業の様子を紹介します。

郷土料理「ぬかみそ炊き」について知ろう

特別授業は、小倉中央小学校の5年1組の生徒の皆さんが参加しました。冒頭、担任の井田先生により、市政60周年である北九州市の歴史や文化が説明され、郷土料理である「ぬか炊き」についても触れられました。

一通り話した後、子どもたちと一緒に、授業の「めあて」を「郷土料理ぬかみそ炊きについて知ろう」に決めました。

続いて、栄養教諭の林田先生から郷土料理の話がありました。今回取り扱う「ぬか炊き」だけでなく、給食で日頃提供している「筑前煮」や「だぶ」などについても紹介。その後、ぬか炊きの歴史や、受け継がれている理由などを子どもたちと共に考えました。

「どんな思いでぬか炊きが作られているのかな?」という言葉の後、今回の講師である宇佐美雄介さんにバトンが渡ります。

ぬか炊き?ぬかみそ炊き?じんだ煮? 本当の呼び方は

特別授業でメインの講師を務めた宇佐美さんは、旦過市場で百年床のぬか炊きなどを販売している宇佐美商店・代表です。同店は、宇佐美さんの祖父母が営んでいたそうですが、跡継ぎがいないため、東京で10年務めた会社を辞めて引き継いだそう。とても分かりやすい説明の仕方は、会社員の頃に培ったプレゼンテーション力が生かされています。

宇佐美商店は1946年創業以来、ずっと旦過市場で営み、創業時は味噌屋、1950年頃から漬物屋、1990年頃からぬか炊き店として営業しています。

宇佐美さんは初めに「ぬか炊きについて少しでも知ってもらいたい」「ぬか炊き、ぬか漬け、ぬか床の違いを知ってもらう」と授業の目的を示しました。

呼び方は色々とありますが、認知拡大の活動をする「ぬか炊き文化振興協会」では「ぬか炊き」としているそう。また、「ぬかみそ炊き」だと、味噌を使用していると誤解されることもあると宇佐美さんは指摘します。

「じんだ煮」とも呼ばれますが、これは「戦に出るときに陣を立てる=縁起がいい」ということから、その名が付いたそうです。

さらに子どもたちが驚いていたのは、ぬか炊きの歴史。小倉城を治めた小笠原公がぬか床を大事にするよう伝え、小倉で大量のイワシが手に入ったことから生まれた保存食が「ぬか炊き」だといいます。

床の間でぬかを大事にしていたことを伝えると、生徒たちからは「こんなところで」と驚きの声が上がっていました。

その他にもぬか炊きの作り方や魅力、旦過市場などについてたくさんの話がありましたが、子どもたちは熱心な眼差しで、意見を求められるとたくさんの手が上がるなど、とても真剣に聞いていました。

宇佐美さんの話の後には、実際にぬか床にふれる場面も。臭いをかいで「おぉー」と声を出したり、触って「冷たっ!」と驚いたりと素直な感想を伝えていました。

市内産の食材にもこだわった市政60周年記念献立

ぬか炊きについて学んだあとは、待ちに待った給食の時間。先ほど学んだ「ぬか炊き」を給食当番の生徒が次々にお皿に盛りつけます。

「先生食べてもいいですか?」と待ちきれない様子も。みんなで「いただきます」をした後、笑顔を見せながら給食を楽しんでいました。

この日の市政60周年献立では、北九州市内産の「夢つくし」を使用した米飯、福岡県産の牛乳、いわしのぬか炊き、市内産大葉春菊とキャベツのごま和え、藍島産わかめの味噌汁といった可能な限り市内産や福岡県産の食材が使用されていました。

「苦手な野菜こそ、新鮮なものを食べてほしい」という生産者の想い

この日は、講師の宇佐美さんやゲストの3人と一緒に給食を食べました。

大葉春菊を生産する中矢秀さんは、小倉南区の特産品で生でも食べられるという大葉春菊を子どもたちに振舞います。

中矢秀さんが「栄養が豊富でダイエットにいいよ!」と言いながら自身のお腹をへこませると、子どもたちは大爆笑。ユーモアあふれるトークで、子どもたちは楽しそうに聞いていました。

大葉春菊はほとんどが北九州市小倉南区で生産されていて、一日に出荷できる量が200キロ~300キロほどしかないため、なかなか市外で食べることはできないとのこと。北九州市の給食で使用する春菊は、すべて大葉春菊を使用しているそうです。特別授業の献立であるごま和えでも、使用されていました。

大葉春菊を実際に試食すると、灰汁はなく、少し塩味を感じました。最近開発された野菜かと思いましたが、実は60年も続く伝統のある野菜とのことでした。子どもたちにはお土産としても配られたようです。

また、若松区で野菜の生産を行う松浦ファーム7代目の松浦剛さんは、「若松区は野菜の産地の1つで、1年中野菜を作っていますが、野菜の旬のことを知ってもらえるといいなと思います。野菜は鮮度が味にとても影響します。苦手な野菜があったら、まずは新鮮なものを食べてみてほしい」と語りかけました。

さらに、本日天候により来校できなかった、もう1人のゲストである藍島活性化グループ代表でわかめ生産者の佐野光一さんからは、映像で藍島のわかめについて説明などがあり、給食を食べながらモニターを子どもたちが真剣に見ていました。

その後は片づけをし、クラス全員で「ごちそうさま」をして、特別授業は終了しました。

「ぬか炊きの深い歴史を初めて知った。歴史を大切にしたいです」

終了後、いわしのぬか炊きをおかわりをしていた児童に話を聞くと、今まであまり食べたことがなかったが「味が濃くてご飯に合いました」と、とても気に入った様子。「ぬか炊きの深い歴史を初めて知った。歴史を大切にしたいです」と話していました。

ちなみに、宇佐美さんによると、宇佐美商店で1番人気なのは「さばのぬか炊き」。「いわしは骨が多いイメージのせいでしょうか? 本当は、骨が柔らかくなって食べやすいのですが、さばが人気ですね」と話していました。

そして、最近人気なのは「スペアリブのぬか炊き」だそう。酒のつまみにもちょうどいい味付けで人気のようです。

取材の帰り際、ふと講師の宇佐美さんの背中を見ると「旦過市場」の文字が入っていました。ユニクロでも旦過市場のTシャツは発売しているのですが、前にしか印字がなくエプロンをすると見えなくなる為、こちらを自ら注文したとのこと。店舗でも着用しているそうですよ。

ぬか炊きや旦過市場の伝統を守りたいという気持ちが伝わってきました。

※2024年1月28日現在の情報です

(北九州ノコト編集部)

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