振り袖の娘と再会 ビル倒壊・妻と長女亡くした男性

家族の思い出の品をみつめ、ほほえむ楠さん=28日午後2時、輪島市河井町

  ●思い出の品探し、アルバム見つかる

 能登半島地震で隣の7階建てビルが倒れ、自宅兼居酒屋が倒壊した輪島市河井町の楠健二さん(55)は28日、自宅を訪れ、亡くなった妻由香利さん=当時(48)=と長女珠蘭(じゅら)さん=同(19)=をはじめ家族の思い出の品を探した。1月5日に20歳の誕生日、8日に成人式だった珠蘭さんの前撮り写真も入った家族のアルバムが見つかった。楠さんは「いまだに現実を受け入れられない。時間が止まっちゃっている」と涙ぐんだ。(向島徹)

 楠さんは由香利さんと2男2女の6人家族。6年前に神奈川県から輪島市へ移住し、居酒屋「わじまんま」を開いた。元日、長男以外の5人が3階で団らんしていた時、揺れに襲われた。

 楠さんは障害のある次男(21)と次女(18)を安全な場所に避難させ、がれきに挟まれた2人を救い出そうとした。「痛い」「水飲みたい」。目の前で珠蘭さんの声が響く中、助け出すことはできなかった。

  ●8日に成人式

 横浜の看護学校に通う珠蘭さんは長い休みになると必ず帰省する家族思いの自慢の娘。昨年買い与えた振り袖を着て、8日に川崎市の成人式に出席するはずだった。

 珠蘭さんの振り袖姿の写真を見つけた楠さんは「かわいく写っている。成人式は女の子にとって一大イベントで、かわいそうでしょうがない。一緒に酒を飲もうと思っていたのに」と声を絞り出した。

 昨年4月4日の楠さんの誕生日に由香利さんから贈られた時計も探したが、見つかっていない。時計は大事な時にしか付けず、まだピカピカだった。がれきの中で着信音が聞こえた2人の携帯電話も行方が分からない。

  ●「2人に怒られる」

 次男は2人の死を理解できず、母親の料理を食べたがっている。次男の大好きなゲームソフトを見つけた楠さんは少しほほえみ、「時計と携帯を早く探さないと女房と娘に怒られる」と話した。29日も思い出の品を探す。

隣のビルが横倒しになり、倒壊した楠さんの自宅兼居酒屋

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