[社説]ウチナーンチュセンター 絆つなぐ拠点に道筋を

 ハワイ出身の県系3世の女性が、沖縄からハワイに渡った祖父の親戚を探しているという記事が27日の社会面に載っていた。女性は米ワシントン州にあるコミュニティーカレッジの学長を務めており、沖縄の若者の留学支援のため近く来沖するという。

 昨年末には、メキシコに移民した男性の孫ら3人が、ルーツ探しの旅で名護市数久田区を訪問。フィリピンからも2人の2世が父親の故郷である、うるま市と南城市を訪れたことが大きく報じられた。それぞれ親族らと感激の対面を果たしている。

 ルーツを求め、アイデンティティーを確認するため沖縄を訪れる県系人たちに共通するのは、故郷への深い思いだ。移民県ならではの胸が熱くなる話題である。

 沖縄からの海外移民は1899年ハワイに向けて出発したのが始まり。その後、行き先は南米のペルーやブラジルなどへと広がった。生活の基盤を海外に移さざるを得なかった背景にあったのは暮らしの厳しさ。戦前・戦後を通して多くの県人が海を渡った。

 最初の移民から125年。県系人は世界各地に根を下ろし、政治、経済、文化などさまざまな分野で活躍している。現在、県系社会の中心は3世から5世で、沖縄をルーツに持つ子孫は約42万人といわれている。

 世界に広がるこうしたつながりを大切にし、国内外の県系人をつなぐ拠点となる「世界ウチナーンチュセンター」の設置を求める声が強まっている。

■    ■

 民間交流団体や識者らでつくる世界ウチナーンチュセンター設置支援委員会は「恒常的に交流・活動ができる本(むーとぅ)家(やー)が沖縄には必要」と2018年から活動を続けている。

 1990年に始まった「世界のウチナーンチュ大会」は7回を数え、国際交流に成果を挙げている。一方、世界各地にある県人会館のようなセンターが、肝心の沖縄にはない。大会で培ったつながりを維持・発展させる県内の拠点づくりが課題となっていた。

 支援委員会が構想するのは、ネットワークを統括する施設で、移民関係資料の収集・展示、交流や活動の拠点、ルーツ検索など情報提供機能を備えた場だ。

 支援委員会の共同代表を務める高山朝光さんは「県系人の心のよりどころとなる施設を造り、歴史や文化の発信拠点を目指したい」と話す。

 県内の児童生徒が移民の歴史について学び、異文化理解を深める場としてもぜひ機能させたい。

■    ■

 玉城デニー知事は本年度の所信表明で「ウチナーンチュセンターの設置について検討を進める」と述べた。

 1世の苦労など移民の歴史を後世へ伝え、紡いできた絆をより強固なものにするためにも着実な推進が求められる。

 世界のウチナーンチュネットワークは沖縄が誇る大きな財産である。

 沖縄への理解と関心の裾野を広げていくことは、県経済の発展や、平和構築に向けた県の地域外交の大きな力にもなる。

© 株式会社沖縄タイムス社