100万円以上の預託が基本…終活ブームで広がる「死後事務委任」契約の落とし穴

死後事務委任を受任する会社が増えたが、選択を誤ると…(Satoshi KOHNO / PIXTA)

国立社会保障・人口問題研究所が公表した将来推計によれば、2025年、総人口に占める1人暮らしの割合は16%となり、「6人に1人が1人暮らし」となる。人生100年時代と言われて久しいが、家族がいても死別や子どもの独立などで、誰しもが「おひとりさま」になり得る時代でもある。しかし、自分や自分の親だけは「ボケない、死なない」と思っている人も多いのではないだろうか。

この連載では、そんな「おひとりさま」生活に備えて、体の自由がきくうち、頭がはっきりしている間に…まさに“今”から準備しておくべきことについて司法書士の太田垣章子氏が解説する。

最終回は、自分の死後を託す「死後事務委任契約」と、その“注意点”を紹介する。

※【第4回】独居高齢者宅のゴミ屋敷化が加速する明快なワケ “断捨離”“終の住処”選びの「タイムリミット」とは?

※ この記事は太田垣章子さんの書籍『あなたが独りで倒れて困ること30』(ポプラ社)より一部抜粋・構成しています。

「できるだけ自分のことは自分で最後までやっていきたい」

そう口にする人は、多いものです。でも残念ながらどんなに気丈に頑張っても、亡くなった後に自分で棺には入れません。

そう言うと、直視したくない人(失礼ながら男性が多い)の中には「死んだら、迷惑かけたくないからその辺りに放っておいてくれよ」と、そんなことをのたまう人までいます。笑っちゃいますよね。この日本で、どこに死体が転がっているのでしょうか。それこそ無責任で迷惑な話です。そんな憎まれ口を叩かずに、ちゃんと自分の死後のことを考えていただきたいと思います。

「死後事務委任契約」という言葉を、耳にしたことはないでしょうか?

自分の死後に生きる“契約”

これは亡くなった後、絶対に自分ではできない事務、たとえば葬儀の手配や納骨、各種役所の手続きや相続財産の整理等を生前に誰かに託して契約しておく手続きです。

一般的な委任契約は、当事者が亡くなってしまうと終了しますが、この死後事務委任は、あくまでも当事者が「亡くなった後」のことを想定しての委任契約です。

最近の終活ブームで「まずは死後事務委任をしておいて後はゆっくり考えます」と言う方がいます。死後事務委任契約が浸透してきたのは良いことですが、ここで大きな問題があります。

ポイントは、亡くなったことを受任者がどうやって知るか、ということです。受任者は、依頼者が亡くなったら動きます。逆に言えば、この契約では生きていらっしゃる間は関与することができません。

そのため死後事務委任だけを備えておくというのは、とても危険な発想なのです。

受任者はどうやって“依頼者の死去”を知るか

人が亡くなると、まずそのお身体(ご遺体)をすぐに冷暗所等に移します。この段階から、受任者の業務は始まります。

たとえば病院で人がお亡くなりになった時、お身体を冷暗所に移動させるのは病院関係者ではありません。通常は葬儀社の方々です。だから受任者はお亡くなりになれば、すぐに葬儀社に連絡をして対応をお願いせねばなりません。

その後、葬儀(火葬)、納骨という流れになっていくのですが、この亡くなったことをいち早く知らなければ、こういった対応もできません。

受任者が亡くなったことを知るためには

・ご家族が知らせてくれる
・生前から本人のことをサポートしている

この2パターンしかないのです。

亡くなったことを知るのに“年賀状”では遅すぎる…(hellohello / PIXTA)

以前に行政で紹介された士業(弁護士、司法書士など末尾に「士」がつく職業)の方と、死後事務委任契約を締結して安心したというお客様がいらっしゃいました。

そこで私たちは不安になったのです。その士業の方はどうやってお客様の死を知るのでしょうか? そのお客様にその士業の方と、どのようなコミュニケーションを取っているのですかと尋ねると、「毎年年賀状が届きます!」と自信満々で答えてくれました。

でも現実には年に1回の年賀状のやりとりでは、お亡くなりになったことを受任者がタイムリーに知ることはできません。風の便りで知ったとしたら、その時にはもう全て終わっている頃ではないでしょうか。

備えることはとても素晴らしいことなのですが「死後事務だけ委任していれば大丈夫」という考えが危険なのです。

だからこそ「死後事務委任」だけの依頼を勧める受任者がいれば、本気であなたのことを思っているのかどうか、疑って欲しいと思います。

生前からのサポートとセットが安心

死後事務に滞りなく対応してもらおうと思えば、生前からのサポートとセットで考えましょう。生前のサポートには、万が一の時のための見守りや、認知症になった場合の後見、生活サポート等があると思います。

死後事務に携わっている現場の声も同じでした。

「死後事務は、生前のサポートに比べれば本当に容易いものです。もし生前のサポートをしてくれる人(家族等)がいるなら、わざわざ死後事務を依頼することもないくらいです。

亡くなるまでが大変だからサポートを依頼して、ついでに亡くなった後もよろしくね、と死後事務委任を依頼するって感じですよ(亡くなると今までの委任契約は終了してしまうため)」

生前の生活をサポートしてくれる人がいるなら“死後事務依頼”は不要?(Mills / PIXTA)

今は死後事務委任を受任する会社が増えました。ただ死後事務委任契約だけを勧めるところは、正直怖いです。もしかしたらそういう会社には、受任しただけで、実際の死後事務をやったことがないところも多いのではないでしょうか。なぜなら契約した直後に亡くなるということは、ほとんどないからです。

そう考えると現場を分かっていない、ということにも繋がりかねません。

また、死後事務委任の費用は、地域や葬儀の希望によっても変わりますが、100万円以上を預託するのが基本です。受任者も誰が支払ってくれるのか分からない状態で、手続きはできませんから。

“預託金”の管理も適切に

あともうひとつ。

死後事務委任の預託金が、どう管理されるのかも、大事な点です。もしかしたら預託してから実際に費用が発生するまで、何十年もかかる場合もあります。いざという時には生命保険の第三者受取が使えるのか、それとも現金で預託できるのか、その場合はどのような管理がなされるのか……。亡くなる前に受任会社が倒産でもしたら大変です。

この死後事務委任を利用しようと思ったら、以下のようにチェックポイントは、たくさんあります。

・どれくらいの歴史があるのか
・費用等が適正か
・預託金はどのように管理されるのか
・生命保険の第三者受取を利用することは可能か

クリアしなければならない問題が多いからこそ、頭がはっきりしているうちに、いろいろなことを決めておきましょう。

◎まとめ◎死後事務委任契約の依頼先を確認するポイントはたくさんあります!

■太田垣章子(おおたがき・あやこ)プロフィール
OAG司法書士法人代表司法書士。専業主婦であった30歳のときに、乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。これまで延べ3000件近くの家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。常に現場へ足を運び、滞納者の人生の仕切り直しをサポートするなど、家主の信頼を得るだけでなく滞納者からも慕われる異色の司法書士でもある。住まいという観点から、「人生100年時代における家族に頼らないおひとりさまの終活」支援にも活動の場を広げている。

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